帰るまでがキャンプ
「おはよう、ミコト」
「おはようございます、ミコ姉」
二人が起きた頃には朝食も完成していて、二人は揃って朝の食卓に目を輝かせる。
「あっ! またカマスを頂けるとは、感激ですわ」
「ええっ!? これ、おにぎりを焼いたの!?」
「こちらのスープもいい香りですわね」
「前に作ってた煮干しを使ったんだね」
その通り。じゃあ、その味噌汁から頂きますか。
示し合わせたわけじゃないのに、あたしたちは揃って味噌汁のお椀へと手を伸ばすのだった。
「ふはぁー……」
あたしも含め、みんな同時にそんな溜め息を零す。
何て言うか、体の奥底に……。
「染みるわぁー……。五臓六腑に染み渡る感じやわ」
「そうね。でも、何と言ってもこの煮干しの香りと旨味が凄いわ。味噌にも全然負けていないもの」
今じゃ出汁入りタイプの味噌もあって、それでも全然美味しいと思う。けど、ちょっとした一手間が料理を少しだけランクアップさせてくれるんだ。
「焼きおにぎりも香ばしくて美味しいよ。表面がカリっとしてて、中はモチモチ。普通のおにぎりより好きかも」
「そして、これがまた味噌汁とよく合いますわね。はしたないかも知れませんが、焼きおにぎりを味噌汁の中に……って、ミコ姉がもうやってますわ!」
はしたなくて、すまんね。けど、シルキーの考えは正解。焼きおにぎりを味噌汁にディップするのが、これまたいいんだよなぁ。
「食べ方は人それぞれ。何より今はあたしたちしかいないんだしさ、シルキーの好きな食べ方で食べればいいよ」
それにしても、煮干しは大成功だな。お祖母ちゃんが作ってるのを見たことがあって、その後に作り方をちょっと調べてみただけで、実際に自分の手で作るのは初めてだったんだ。
昆布に煮干しが加われば、言うまでもなく出汁は更にパワーアップする。そして、この出汁があれば、魚料理だけじゃなくて他の料理のレベルも上がるってことだ。この味噌汁みたいにね。
あと、やってみて思ったんだけど、キャンプに焼きおにぎりってありじゃないかな? こっちにはコンビニなんてないけど……最近のコンビニって具なしの白おにぎりが売ってたりするし、海苔なしのおにぎりとかもあるよね。
例えばそれをキャンプ場に行く途中で買っておいて、次の日の朝焼きおにぎりにする。もちろん、そのまま食べるのもありだろうけど、せっかく焚火するなら焼いてもいいよね。
「さて、今日でキャンプは終わりなわけやけど、シルキー様はこっちに残るんやんな?」
「はい。両親がもう暫く別荘でゆっくりすると言うので」
「ミコっちゃんとユフィ様は帰る、と」
「ロイドさんはゆっくりしていくみたいですけどね。だから、ユフィも残っていいって言ったんですけど……」
「私はミコトと一緒がいいもん」
これを聞いたらロイドさん、凄くショックを受けそうだな……。
ちなみに、ネリスタさんは仕事の関係で屋敷に戻らないといけないそうで、余計にロイドさんの孤独感が気に病まれる。
「だったら、二人で別荘に泊まるのもいいんじゃないの?」
「最初、それもいいかなって思ったんですけど、納涼祭の準備も始めていかなきゃなって。孤児院にも早めに話をしておいた方がいいですし、やる料理が決まったから、そっちの準備にも取り掛かれるじゃないですか」
「まっ、早めに動いておいて損はないわね。手続きとか申請とか、事務的な仕事は私とアサカの方が慣れているから、こっちで進めておくわね」
「助かります」
そう言うことをしてもらうから、あたしもフィーリアにいた方が都合がいいんじゃないかって考えもあったりする。
「聞きたかってんけど、ハンバーガーやるのはいいとして、パン――バンズはどうすんの? パン屋に頼めんことはないけど、そうなると余計な金が掛かる。もしかして、バンズもミコっちゃんが手作りするつもり?」
「いえ、あたしもパン作りは経験ないんで。けど、屋敷のメイドさんにパンを作れる人が何人かいるんで、協力してもらえないかなって考えてるんですよね」
「メイドさんにバンズを作ってもらうってこと?」
「そこまでやってくれなくても、せめて作り方を孤児院の子供たちに教えてくれないかなって。そして、孤児院のみんなでバンズを作るんです。それを使って、あたしたち釣りギルドが釣った魚でハンバーガーを作る。みんなで一緒に作ったって感じが出ていいと思うんですよね」
「うん、それはええかも。けど、納涼祭で出すほどの量を作るってなると、それなりに広い厨房やないと難しいんちゃうん?」
屋敷のキッチンもかなり広いけど、子供たちみんなで作業するってなると、少し手狭かも知れない。
「孤児院のキッチンを使わせてもらうのはどうでしょうか? あそこはかなりの広さがあったし、子供たちも見慣れて使い慣れた場所だと思うんです」
「それは名案だわ、ミコト。パンを焼く窯ならアサカに造らせればいいもの」
「うちかい!」
「何よ、できないの?」
「でけへんとは言うてないやろ」
「じゃあ、決定」
「いや、やから――」
「作ってほしいの、あそこに窯を。これは私からのお願いでもあるの」
キーナさん? それって……?
「あの子たちにパンの作り方を教えて、孤児院でパンが作れるようになれば、あの子たちの生活も少しは良くなると思うの。自分たちでパンを作ってそれを食べてもいいし、何なら売ってお金を稼いでもいいわけじゃない」
「それはいい考えかも知れませんわ。もしこれから孤児院でパンを作って売っていくのであれば、納涼祭でのバンズの提供はこれからの宣伝にも繋がりますもの」
「それで全部が解決するかって言ったら、そうじゃないと思う。でも、あの子たちの未来の選択肢が一つでも増えることにはなる」
あたしもそうだけど、キーナさんもあれ以来、孤児院のことを親身に考えるようになったんだろうな。
「……せやから、断ってへんやん。そう言う考えがあるなら先に言え。最高に使いやすい窯を造ったるわ」
「ええ、期待してる」
この窯の件も含めて、孤児院には早めに話をした方が良さそうだ。だから、今日でキャンプを切り上げるのが最善なんだ。
けど、帰るまでがキャンプ。帰るまでは存分にキャンプを楽しまないとね。
朝食後にはまた釣りに出掛け、疲れたら冷やしておいたフルーツを食べて、みんなで水遊びをして、お昼ご飯はクライブ様に招かれて別荘の庭でBBQ。
ヘトヘトになるまで遊ぶっていつ以来だろうか。もしかしたら初めてかもってくらい、遊び疲れたあたしは、帰りの馬車で少し眠ってしまうのだった。
目が覚めた頃には馬車はもうフィーリアの街中を走っていて、遠くの海が夕焼けに染まっていた。たった一日離れていただけなのに、なぜか心の中で呟いてしまった。
ただいま、と。
「ほな、ミコっちゃん、明日から納涼祭の準備進めていこうな」
「はい、よろしくお願いします」
アサカさん、キーナさんは途中で馬車を降り、あたしたちもようやく屋敷に帰ってきた。じゃあこれでお終い、ってわけでもなく、道具の片付けや洗い物なんかもしなくちゃいけない。
あたしはこう言う作業を苦とは思わない性格で、ユフィも率先して手伝いをしてくれるから、何なら後片付けも楽しんでしまえるくらいだ。
だからかな。もうちょっと楽しみたいなって思ってしまうのは。
「ミコト? もしかして釣り行くの?」
「うん。アサカさんが作ってくれた延べ竿、もうちょっと使いたいなって」
「だったら、私も行く」
「えっ? ユフィ、疲れてないの?」
「釣りは別腹なんだよ」
ふふっ、何それ。けど、あたしもきっとそうなんだろうな。
「あたしたち、ほんとに釣りバカだね」
「じゃあ、二人合わせて釣りバカ姉妹!」
「姉妹ってワードは嬉しいけど、胸張って言えるネーミングではないね」
お喋りしながら笑いながら、あたしたちは竿を抱えて夕日に染まる桟橋へと向かうのだった。
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