副編21
『もしもし?』
「あ、もしもし。俺~」
シュリちゃんが風呂に入っている間。
わざわざ席を外して貰うのも悪かったから、丁度いいと思い電話をかけた。
『あら、セト。どうしたの?』
相手は母さん。
いつもと変わらない声のトーンに、不思議と緊張がほどける。
俺はベッドに座り、今日のことを思い出しながら口を開く。
「今日、友達ん家に泊まることになった」
神野は一応、ダイチの親戚だから半分くらいは本当だ。
…色々端折ってるけど。
『そう。なら、帰りは明日?ご飯どうするの?』
当たり前で、ありきたりな質問。
「……まだ、決めてなくて…」
『………………』
言い渋る俺に、沈黙が続く。
くしゃっと髪を掴み、どうしようかと考えた。
…ちゃんと決めてから、連絡すればよかったな。
てか、よく考えたらメッセージでよかったのに。
なんで電話を選択したんだろう。
『………セト』
視線を上げた俺に聞こえた、自分の名前。
『何か、思い出したの?昔のこと…』
ドクン
心臓が跳ね上がる。
母さんの言うことは間違ってない。
でも、内容が違う。
……内容、が……。
そう思った時、ハッとした。
俺の幼少期の記憶は、ショウさんとシュウと過ごした日々だ。
この世界に来たのは、中学生になってからのはず…。
だから……
「…いや。俺って小さい頃、どんな感じだった……?」
おずおずと聞けば、母さんは悟ったように「ごめんね」と応える。
『知らないの。…もう、全部気づいたのね。』
「……………」
『私とあの人もあの時、色々あって。夫婦で実験に参加して、10年前に降りてきたのよ』
「えっ……?」
空いた口が塞がらなかった。
父さんと母さんも、あの時一緒に…?
どうして……。
唖然とする俺に、母さんは続ける。
『……セト、病気を抱えて搭乗したでしょ。それで経過観察の為に、無事に降りてきたあなたは、あの実験の詳細を知る私達に預けられたのよ』
本当はリョウも引き取りたかったけど、もしどちらかの記憶が戻ってしまったら。
絶対にもう一人に伝えるだろう。
それを嫌がった神野が、別々の家に預けることに決めた。
なぜ、記憶を伝えることを嫌がったのか。
それは、搭乗者の中で記憶が残っていた人と残っていない人がいたから。
何が原因で記憶が戻るのかも、一緒に研究したかったからだそう。
『もちろん、あなたを引き受けることを歓迎したわ』
どうして?
見ず知らずの、同じ境遇でしかないのに。
たとえ、「病気を抱えたかわいそうな子」って同情があったって。
中学生なんて生意気真っ只中。
俺に記憶が無いにしても、虫が良すぎる。
「……………」
『…病気が完治していたこと聞いたでしょう』
「……うん」
それはまるで、神野に提案されたことを知っているかのような。
ここに残って、みんなと一緒にいたい自分。
別の世界へ旅立って、いろんな人の役に立ちたい自分。
自分の欲か、他人への善か。
たった4年、されど4年。
親だと思って接してきた、接してくれた両親。
お世話になった人達。
そんな人たちを置いて、知らない誰かの役に立ちたいと…?
……ああ、結局。
ここに残るも旅立つも、自分のエゴでしかないのか。
立ち上がって、まだ映し出されている“夜空”に手を伸ばす。




