本編1
≪星河 ダイチ視点≫
最近、同じような夢を見る。
白いワンピースを着た知らない女の子が、俺に手を振っているワンシーンだ。
表情は見えない。
自分がどんな顔をしているのかもわからない。
ただ、彼女が見えなくなったあと。
自分が半透明の容器に入って、暗い空間を漂うだけ。
それはまるで、映画館の中…。
映画が始まる直前に、室内が暗くなり、天井のいくつかの小さな光が点々としているような。
そんな中に身を委ねている、自分の夢だった。
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夏、某日。
強い日差しの差し込む居間には、俺と姉ちゃんが溶ける寸前でソファに転がっていた。
エアコンの風が直に当たるこのソファは、一家の特等席。
いつもは父さんと姉ちゃんと俺で奪い合っているけど、今日は父さんは裏山の畑に出かけている。
そんで姉ちゃんも、
「あっちぃ。暑すぎだわ今年も」
こんな感じで戦う気ぜろ。
大体負けるから姉ちゃんのやる気がないのは助かる。
…にしても、暑すぎるだろ。水の星にでも行きてえ。
『今年も夏到来!ここでビッグニュースです。ナハ宇宙機構開発の神野教授が素晴らしい研究成果を発表し……』
ブチッ、ピッ。
「ダイチ、ソラ!エアコンもテレビもつけっぱなしで何してんのよ!」
「あっ!!俺の涼風が」
「お母さん、エアコンは付けといてよ~」
ソファの背もたれから見えたのは、反対に映った母さん。
エアコンを切られた俺たちはぶーぶー文句をたれる。
家に置いてある温度計は35度を超えていた。
俺の家はちょっと山の中で、まあ、お世辞にも都会とは言い難い場所。
隣の家は歩いて3分くらいのとこ。
コンビニと学校は徒歩圏内だから生活には困らないけど。
「あんたたち、今日休みでしょ?ならうちの掃除手伝って。はい、ソラは屋根裏の掃除!ダイチは物置の掃除ね!掘り出し物あるかもよ?」
ぱんぱんと手をたたく母さんは、散れとでも言うように俺たちの頭を軽くたたく。
俺と姉ちゃんは、それぞれ反対の反応を見せた。
「ラッキー!エアコンつけていい?」
「は?俺外かよ!最悪だ…」
それもそのはず、母さんの割り振りはひどいもんだ。
姉ちゃんは屋根裏とはいえど、頻繁にものを出し入れしてる部屋だから、そんなに汚くないはず。
それにちょっとほこり臭いけど、エアコンが一応ある。
一方の俺は、よりによって……
「マジ、最悪」
家の裏にある倉庫の前でため息をつく。
左手にはバケツと雑巾、右手にはほうき。
頭には黒のキャップ、汗拭き用のタオルも持ってきた。
絶対あちいからバスタオル並みの大きさだ。
ちなみに一口に家の裏って言っても、家の裏の山道を10分くらい登ったとこ、だからな!
しかもこの倉庫、じいちゃんとばあちゃんが住んでた時からあって相当古い。
そんで無駄にでかいせいで、倉庫というより小屋みたいだ。
一応扉は開けるものの、棚はほこりだらけで、本棚も蜘蛛の巣が張っている。
汚い上にいらないもんしかなくて、
いっそこの倉庫ごと解体しちまえばいいんじゃね?って思うけどな。
とりあえず棚から拭いていくか。
正直、こんなところに掘り出し物があるなんて思えないけど。
・・・・・・・・・・・・・
「こんなもんか」
一通り掃除が終わったのは、夕刻だった。
持っていたスマホを見ると19時前。
オレンジ色に輝く日差しが俺を照らす。
腹も減ったし、そろそろ戻るか。
…にしても、ラッキーだった。
掃除してたらばあちゃんの宝物入れ見っけちゃった。
2年前に天国へ旅立った、俺の母方の祖母。
若いころのじいちゃんとの写真や、アクセサリーの類がたくさん入っていた。
その中でも、二色に光る石のネックレス。
なぜだか妙に惹かれ、それだけ拝借…いや、頂戴してきた。
後で父さんに言って、大事なものだったら戻しに来よう。
俺は割と片付いた倉庫に背を向ける。
よく頑張ったし、帰りにアイス買いに行こうかな。
額の汗を拭いながら、倉庫を施錠したその時、かすかな音がした。
ガタッ
思わず肩が跳ねる。
何かが落ちたような、外れたような音がした。
その音は結構大きくて、俺の耳にはっきりと聞こえた。
「う、嘘だよな…?」
野生動物かなんかか…?
だって俺、なんか重たいものを落ちやすいところに置いたりしてないよな?
急に怖くなり固まっていると、さっきよりも大きな音でもう一度同じ音がする。
「っ………!?」
それはわざとなのか、わからないが。
なぜだか俺には、存在をアピールしているように聞こえた。
それに音の出どころはおそらくこの中じゃない、裏だ。
俺は恐る恐る倉庫の裏にまわり、目に入ってきたものに声が出なかった。
瞬きすることも忘れていた。
息すら止まっていたかもしれない。
そこにあったのは、青く半透明なカプセル。
綺麗な海底のような色のそれは、人ひとりがぎりぎり入れそうなくらいの大きさだ。
俺が180センチ弱くらいだから…縦幅は大体170~180センチくらいか?
それに横幅も100くらい、奥行きはかなり狭そう。
ふたの部分だけカーブしていて、前から見たら多分、卵のようだ。
明らかに異質なそれは、まるで最初からそこにあったかのように、当たり前のように佇んでいた。
「なんだこれ……」