副編14
「僕はね、時空を行き来できる装置を開発するにあたって、セカイに降りかかるメリット・デメリットを調べつくしてきたよ」
神野は言う。
確かに、存在しえないものを存在させるには相当の影響があるだろう。
それが、良か悪かは関係なく。
「そこで一番厄介なデメリットが、一部セカイで発生している対魂だった。お互いを引き寄せ合い、ひとつに戻ろうとする習性」
対魂は基本的に、正反対の性格や見た目なことが多いと聞く。
性別、考え方、好み。
それらをなるべく寄せ、一つに戻ろうとする習性があると。
そして同時に生まれ死にゆくため、血縁関係や地域などで普通に生活していれば出会う可能性…
引き合う可能性が非常に高い。
スピリチュアルや超能力なんかに詳しくない俺でも、このくらいは聞いたことがある。
もちろん、すべてにおいてそれが当てはまるわけではないが。
だって俺とシバが対魂だというのなら、お互い男だから。
「まさかキミの対魂が、ダイチだなんて思いもしなかったよ。生まれたセカイも、環境も違うはずなのに」
遠い目をしている神野。
その向かいに座るシュリちゃんは、両こぶしを膝の上でぎゅっと握っている。
「…まあ、答えは簡単だった。“後から対魂になった”のなら。僕たちがいた元のセカイには、対魂という概念がなかったからね。」
ごくり。
固唾をのむ音が響く。
「ダイチは、ルナちゃんの私物に触れたんだろう」
覚えがある。
ダイチが持っていた、あのネックレス。
『ばあちゃんの形見』
ダイチは、そう言っていたが…薄々、おかしいと思っていた。
あれに触れた瞬間、走馬灯のように記憶が流れ込んできたんだ。
…多分、シュリちゃんも同じ…。
ちらりと隣を見る。
変わらない姿勢で座る彼女は、何かを考えているのか、口は閉じられたまま。
ならばと、俺が聞きたいことを口に出す。
「それなら、家族じゃない…?」
そう。
シュリちゃんの血縁であるお母さんや妹さんは生きていた。
自宅にはきっと、シュリちゃんの私物なんてたくさんあると思う。
それに、対魂ならより近しい2人がふさわしいのではないのか。
…そんな条件を超えて、エリカさんの孫であるダイチが選ばれたのか?
「それに、もう一つ大事な条件がある。…ダイチには、対魂がなかったんだ」
「え?」
間抜けな声が出たのは、仕方ない。
それまで真剣だったシュリちゃんの顔も、豆鉄砲を喰らったように目を丸くしている。
そうだ。なんで考えなかったんだろう。
ダイチの対魂、片割れがいるはずだと。
…それが、ない?
「…このセカイに生まれ落ちる生物には、同じ種族に対魂が必ず発生する」
眉間を抑え、神野は俯いた。
俺たちが元々いた、あの機械に乗るまえのセカイには、そんなものなかった。
…あったとしても、一部の人が信じている程度の軽いものだったと思う。
しかし、このセカイにおいては、違う。
対魂は存在し、科学的に研究が進んでいる分野のひとつだ。
なのに、ダイチにその相手が存在しないということは…
「困ったことに、空いているところに条件が揃ってしまったというわけだよ」
本当に困ったように微笑む神野は、シュリちゃんに目を向けた。
「なら………」
ダイチも元は、違うセカイの────?
「……ダイチが生きる方法は、あるんですか?」
喉まで出かかった言葉を最後まで出せなかったのは、遮るようにシュリちゃんが発したから。
「…正直に言う。保証はできない。僕も、後発性の対魂を動かすのは初めてなんだ」
何度もセカイを行き来して、時間も空間も超えてきたのにね。
また新しい課題が増えるなんて。
そう付け足した神野は俯く。
予想外とはまさしくこのことだろう。
彼ですら、まだわからないことや新たな発見があるのか。
そう思うと、少し恐怖を感じた。
「だけど、このままいるよりは望みはある。確実な死よりは、ね……」
確実な……。
常識が通用しない話だとはわかっていても、実際に発されたそれに身体が震えた。
……当事者の彼女は、どう思っているのか。
聞かなくても、見なくても分かってしまいそうでアクションをとれない。
「提案として、元の世界に帰すことはできないが、別次元に飛ばすことはできるよ。どうかな」
それでダイチが助かるのか…?
シュリちゃんも同じことを思ったのか、彼女はぼそぼそと自信なさげに呟く。
「…対魂についてはよく知りませんが…後付けなら、解消される可能性は十分ありますよね……?」
先程まで凛としていた彼女は、少し狼狽えているようだった。
きっと、動揺しているのだろう。
「そうか……」
顎に手を添え、天を仰いだ神野。
何かを考える素振りの彼に、質問が飛んだのはすぐのことだった。
「あともうひとつ……あなたが知っている、本当のことを知りたいんです」
思わずシュリちゃんを見る。
本当のこと。
……それは、何を指しているのか。
俺には検討もつかなかったけれど、神野は察したようだ。
「もちろん、なんでも話すよ。キミには知る権利もあるからね」
呆けている俺を他所に、二人の会話は進む。
「ちょっと外しますね」
ずっと黙っていたミズナさんは立ち上がり、部屋を出ていく。
残された3人、うち2人の視線を集める神野は、打って変わって嬉々として話し出した。




