副編7
遊びに誘ってきたシバのメッセージに気づいたのは、カフェを出た時だった。
【暇?ダイチんとこ行こうぜ】
【ごめん、急遽小旅行〜!おみやげ買って帰るねん〜】
【は?誘われてないけど】
ごめんシバ…………いや、リョウ。
帰ったら、ちゃんと話すよ。
「行こう」
そのままカフェを出て、電車に乗り込む。
空席が目立つ急行列車は、夏休みなのに意外にも静かだった。
本を読んでいる年配の人。
スマホをいじるスーツの男性。
仲良さげにイヤホンを片耳ずつ付けているカップル。
誰も、他の人なんて気にも留めない。
そんな空間が、話すにはちょうどいい。
端の席にシュリちゃんが座り、膝の上にリュックを抱える。
その隣に俺も腰を下ろした。
「どっから話そうかなあ」
長いんだよな、俺の話。
目的地…シュリちゃんの故郷までは、乗り換え無しの約30分ほどらしい。
まあまあ時間に余裕はある。
「俺ね────」
お互い窓の外を眺めながら、今度は俺の話をした。
・
・
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「話してくれて、ありがとう」
俺の話を聞き終えたシュリちゃんが、最初に口に出した言葉。
引かれはしないだろうと思っていたけど、まさかお礼を言われるなんて…。
少しだけ、目を見開いてしまった。
だけどすぐに、いつもの口調を取り戻す。
「こちらこそ、長くなってごめんね〜」
俺は改めて、自分の中の記憶とシュリちゃんの話を合わせていく。
……そう、俺とシュリちゃんの話には共通点があった。
ある日突然、目が覚めたらこの世界にいたこと。
それまでの記憶が全くなかったこと。
でも、あのプラネタリウムの日に全ての記憶が蘇ったこと。
夜空を見たことがあること。
あの日、あのタイムカプセルに入ったこと。
最初にできた友達が、ダイチだったこと。
……まあ、最後のはこじつけと言うかおまけ程度だけど。
無意識に目を閉じていると、隣から遠慮がちな問いかけが投げられた。
「……セトくんは、会いたい人、思い出した?」
会いたい人…。
いる。……いや、いた。
一人はもう会えている。
向こうは気づいてない。
いつも一緒にいるから、気づいていたらきっとわかる。
もう一人は……
生きているのか、死んでしまったか。
それすらもわからない。
知りたい、でも知りたくない。
だってもし、もうこの世にいなかったら。
二度と会えない人になっていたら。
そう思うと、意図せず手が震えてしまうから…。
「うん…でも、本音を言うと心の準備が間に合ってな……」
やべ。
心の準備とか言うキャラじゃなかった。
思わず口を滑らせ、はっと口を抑える俺に、シュリちゃんが笑う。
「わかるよ。わたしも、全然できてない」
求めていたものが跡形もなくなくなってたらと思うと、すごく怖いよ。
そう言って俯くシュリちゃんは、少しだけ寂しそうだ。
「……それに、会って何がしたいのかもわからないの」
「……………………」
何も言えなかった。
俺も、同じ気持ちを抱えていたから。
…それでも会おうと、前に向かっている彼女は、やっぱり強い。
「俺も…この旅行が終わったら、逢いにいこうかな」
その強さを、少しだけ。
ほんの少しでいいから、俺にわけてほしい。
人を大切に想う心を。
自分が傷つく覚悟を。
代償を顧みずに進む勇気を。
「うん、一緒に行こう」
ふわりと花を咲かせるように笑顔を浮かべたシュリちゃんは、どこまでも心強かった。




