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流れ星へ幸せを  作者: 本宮 律
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プロローグ6



・・・・・・




「で、ルナちゃんだけで見に来たんだ」


「はい。せっかくならと思って……」


アンズさんとバーの片隅で座りながら、お互いここに着いてからのことを軽く話した。


アンズさんは今24歳で、アルバイトをたくさん掛け持ちしている。

保育園に通う弟さんがいるけど、事故にあって今は意識がないらしい。

面倒を見ていたアンズさんはとても責任を感じていて、

少しでも気分転換になればと思ってこの旅行に参加したんだとか。


「でも、本当にタイムマシンなんて作れるんかね」


お酒を飲みながら、アンズさんはふと呟いた。


タイムマシン…

さっきもその話をしたような…。

みんな、結構興味あるのかな。


何も言えないわたしに、アンズさんは構うことなく続ける。


「作れるものなら、作ってもらいたいけどね」


「……………………」


あったら使いたいとでも言うようなセリフに、思わず聞いてしまう。


「…なにか、したいことがあるんですか?」


首をかしげるわたしに、アンズさんはハッとしたように見えた。


「いや、弟の事故を未然に防げたらなって……気分転換に来たのに、結局そればっかり考えちゃうね」


はあ、と大きめのため息を漏らすアンズさんに、かける言葉が見当たらない。


…なんて言うのが正解なんだろう。


「過去を振り返らず、これからを頑張りましょうよ!」

……いや、上から目線だな。


「タイムマシンなんて夢みたいな話ですよ!」

……万が一、ユウさんの耳に入ったら研究全否定だ。


「ま、まあ、変えられないことを嘆いても悲しいだけなので、これからの楽しいことでも考えましょ!」


「……そうだね」


結局、上から目線になってしまった気がするけど。

こういう時、ボキャブラリーが貧困だと困る。

アンズさんも、表情一つ変えてくれないし…。

くぅ、一応文系専攻なのに…。


「おい、あれなんだ!?」


二人して落ち込んでいると、大きな声がフロア中に響いた。

声のした方に目を向けると、人が集まって一点を凝視している。


「あそこって何もないよね!?海?波!?」


「わからない!俺には大きな壁が少しずつ迫っているように見えるぞ!」


「どういうこと!?わたし見えない!」


遠くから騒ぎを見ているわたしたちでは、理解ができない。

アンズさんに目を向けると、まだ騒ぎの中心に視線が向いていた。


『お客様へご案内いたします。現在、ゴッドアイランドへ大きな波が押し寄せております』


騒然とするフロアに、館内放送が告げる。


『当ホテルは島の高台にある為影響はございませんが、念のため避難誘導をいたしますので従ってください』


「お客様!先ほどご案内がありました通り、係員がご案内いたします!わたしについて階段を下りてください!」


メガホンを持ったスタッフが、フロア内の人を階段へと誘導する。


大きな波…津波ってこと?

地震もないのに一体…なんで?

湧き上がる恐怖に、体が震える。

呆然としていると、アンズさんがわたしの手をつかんだ。


「ルナちゃん!聞いてた?指示に従おう」


アンズさんの声と体温で、恐怖が少しだけ和らぐ。

…よかった。一人だったら、動けなかった。


立ち上がり、人の波へと向かおうとすると、


「アンズさん、ルナちゃん、こちらへ!」


逆側から声がした。


そこには久遠さんと、咳込んでいる一人の男性。

「早く!」と言われ、わたしたちは久遠さんのもとへ向かう。


「どうして……」


「事情は後で!」


久遠さんたちが乗っていたのは、エレベーターのようだ。

アンズさんが乗り込んだと同時に扉がしまる。

何が起きているかわからないわたしを置き去りに、エレベーターは急降下を止めない。


無言の空間は、まるで永遠に続くかのように感じられた。


波が押し寄せてきている、たくさんの人が避難している。

ここは本土じゃない。小さな島。

海に飲み込まれてしまう可能性だってある。

急に恐怖に包まれて思わず胸を抑えるわたしの横で小さく呟かれた言葉。


「これから、なんて……。ルナちゃんも同じだったんだね……」


「アンズさん!」


ほっとしたような、少し残念そうなアンズさんを久遠さんが制した。


「…………?」


同じ…?

アンズさんと同じことなんて、お互いに一人で展望台に来たことくらいだ。


…そういえば、この二人は知り合いなんだろうか。

二人が名前で呼び合っていることに違和感を感じながらも、

自分とアンズさんもさっき知り合ったばかりだし、なんて冷静に解釈する。


そんなわたしに、久遠さんが声をかけてくれた。


「ルナちゃん、放送は聞こえてた?」


「はい…」


「そう。私たちは今から地下に向かうわ。安全のためね」


初めて受付で逢った時と同じような、凛々しく頼もしい声。

しかし、フロアモニターを見つめるその目は鋭くにらみつけているようにも見えた。


返事ができないわたしの代わりに、同乗していた男性がごほん、と大きく咳ばらいをする。


「………………」


再びの沈黙が訪れたとき、ポーンと機械音がしてドアが開いた。


「え……」


目の前に広がるのは、暗闇の中照らされた長い廊下。

足元の小さな電気が、感覚をあけて光っている。


ここが、地下…。

たくさんのお客さんが避難しているとは思えない静けさに、少し身震いする。


「この先よ。行きましょう」


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