本編60
「君たち、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
バスを降りて人の波に乗って入り口に着いた俺たちに、警備員が声をかけてきた。
「あ、いや……」
昨日のこともあって、しどろもどろしてしまう。
まさかここで足止めかよ…!
敷地内で確認するくらいなら、バス乗り場でしてくれ…。
「友達が中にいるので、会いに来ました。友達の名前は、星河シュリです」
いつも助けてくれる男、シバ。
もごもごしている俺を見かねてか、横から冷静に受け答えをしてくれる。
連れてきて……じゃない、付いてきてくれて良かった。
「星河……友達?そんな話は聞いていないが…」
「まあ、アポ無しなんで」
ヤツは怪訝な顔をする警備員に、当たり前のように言った。
バカ……!
そんなこと言ったら帰れって言われるに決まってる。
なにをバカ正直に……って、俺が言えた立場じゃないけど。
ペシっとシバの肩を叩けば、警備のおじさんはわざとらしいため息をつく。
「はぁ……それじゃあ入れることは出来んな。帰った帰った」
くそ、俺が先に来ること言っとけば…。
シッシッと手を振るおじさんに苛立ちを覚えつつ、じいちゃんに一報入れておくべきだったと後悔した。
そんな時、透明な自動ドア越し、モニターに映ったもの。
そこに映っている彼女の姿に、視線が釘付けになる。
『準備が整いましたので、館内の皆様は102階の展望デッキまでお集まりください』
そこには確かに、俺が追いかけてきた、あの子。
星河シュリ……いや、天城ルナ。
見慣れた横顔なのに……
あんな引き締まった口元、俺は知らない。
「うそ、だろ……」
ドクン、と大きく心臓が跳ね、俺はその場に膝から崩れ落ちた。
「ダイチ!」
伸びてきた腕に支えられ、なんとか片手を地面について胸元を握った。
また、あの感覚…。
一気に身体の中心から冷たくなる。
波紋が広がるように、凍てつくような。
なんなんだ、これ……。
「立てるか?……あと、走れるか?」
脂汗が滲んだ俺に、シバが真っ直ぐ前を向きながら問いかけてきた。
立てるけど……走る…?
ふらつきながらも立ち上がり、何とかうなづいた俺を確認したシバ。
そして、一瞬のうちに風を切る音が耳のすぐ横を掠める。
バキッ
「なっ!」
「えっ………」
気づいたときには、さっきの警備員が目の前で吹っ飛んでいた。
「行くぞ!」
シバは警備員のポッケからカードキーを抜き、俺の腕を引っ張る。
え、え?!
今、シバ、殴ってなかったか……?!
目の前で起きたことに、頭が追いつかないけど。
親友が人を殴るという、とんでもないことをやらかした事だけはわかる。
そして目に飛び込んできたそれは、事実にしては衝撃が大きすぎた。
「お前たち、何してる!」
後ろから聞こえた声に、体が跳ねた。
多分、別の警備の人か、通行人だろう。
ここで捕まったら完全に道が塞がれてしまう。
……シュリに、会わなきゃ。
「早くしろ!ダイチ!」
足がもつれながらも、懸命について行く。
みんな屋上にいるのか、受付にも人はおらず、エレベーターまで一直線。
「あっ……」
既に乗り込んだシバの腕が、一瞬掴んだ俺の腕をするりと抜けた。
「バカ!」
すぐに伸びてきた手を掬うように握り直す。
間に合うか…?!
頑張れ、俺……!!
「待ちなさい!!」
静まり返った館内に追ってきた人の怒号が響き渡ったものの、間一髪で乗り込んだエレベーターは、ドアが閉まるなり一気に急上昇。
なんとか滑り込んだ先には、ガラス越しに外の世界が拡がっていた。




