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流れ星へ幸せを  作者: 本宮 律
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プロローグ4

『現在、月は原因不明の発火を続けており、どんどん明るくなっています。このままいくと50年後には夜が来ない…』


うわ、お腹いっぱいでねむい…。

しかも何言ってるのか全然わからない…。

始まって早々に壮大なスタートを切った発表は、いい子守唄だ。


『そこで、我々はタイムマシンを考案しました。と言っても、人間を真空状態で保存し、数年後に保存前と同じ状態で生活できるかを──』


揺れる頭を必死に固定させながら、ちらりと横を見る。


「…………」ガクッ


エリカは隠す気もなく寝ていた。



--------------------




『以上で終わります。ご清聴ありがとうございました。明日の研究発表もよろしくお願いいたします』


うす暗い会場で、ぱらぱらと拍手が起こる。


約30分間、研究の説明がなされ、ようやく終わりを告げた。


要約すると、地球が滅ぶ前に人類を違う惑星に移動させて安全を確保したいみたいな話だったと思う。

…途中から話を聞くことよりも、傾く頭を必死に固定させていたから、ほとんど耳に入ってなかったけど。


「エリカ、終わったよ」


「う~~ん…………」


声をかけた瞬間にパッと一斉に明かりがつくも、横で爆睡しているエリカは全く起きる気配がない。

むしろ起こすなと言わんばかりに体を傾けた。


もー!

この後の展望台とプールを楽しみに来たのに。

説明会が、いい子守歌になっちゃったみたい。

ちょっとトイレに行ってこようかな…。


ちらほらと席を立つ人たちに交じり、わたしも会場を出る。

左右を見れば、すぐにトイレの看板が見つかった。


『トイレ行ってくる!すぐに戻るからそこにいてね』


とりあえずエリカにメッセージを打って、トイレを済ませる。


そういえば、家族にお土産買ってなかったけどどうしよう。

明日のお昼には帰りの飛行機に乗っちゃうから、少し早起きしてお菓子でも買おうかな。

そういえば、明日朝食もあるんだった!

起きる時間決めておかないとなあ~。


手を洗いながら考えていると、一人の女性が入ってきた。


「あら、確か神野さんの…」


鏡越しに、その人と目が合う。

金色のネームプレートには、見覚えがあった。


「あ、受付の……」


そう呟くと、その女性はにっこりと笑う。


「ええ。久遠くおんミズナです。確か……ルナちゃん?」


「は、はい…そうです」


わたしは驚きながら振り返り、軽く会釈をした。


わたし、名乗ったっけ…?

もしかして受付の人って、全員の名前覚えてるのかな。

だとしたら、すさまじい記憶力…


驚いたことが伝わったのか、久遠さんは口元に手をあて微笑む。


「あ、もう一人の子が呼んでいたから。珍しい名前だから印象に残っていただけよ」


確かに、ルナという名前は珍しい。

久遠さんの記憶の端に引っかかっても違和感はない。


「そうだったんですね。ちょっとびっくりしてすみません」


なんとか笑顔を作りながら、その場で軽く手を振って、ハンドドライヤーに両手を突っ込んだ。

プラスで顔に効果音をつけるなら、「にへら」と笑っていただろう。

不自然な笑顔に、久遠さんは笑顔を崩さずに手洗い場を消毒しながら軽く拭いていく。


「ふふ、どうだった?あの説明会。興味あった?」


「へ?」


もう会話が終わったと思っていたから、思わず変な声が出た。


「神野さん、不思議な人よね。どうしてタイムマシンなんて考えられるのかしらね」


目を伏せながらてきぱきと手を動かす久遠さん。


……タイムマシン?

地球脱出計画の話しか聞いてなかったからわからない。

そういえば、始まる前にエリカがそんなこと言ってたな…。

でも、うかつに変なことを言って聞いてなかったことがバレたら大変だ。


「えっと…じ、時空を飛べるのなら、わたしは未来を見たいですかね~」


とっくに乾いている手を出せずに、適当な言葉が出てしまう。

言い終わると同時に、久遠さんの手が止まった。


お願い、わたしの話に興味を持たないで…!

ぐっと目を瞑ったわたしに届いたのは、意外な言葉。


「…珍しいわね。過去に戻ってやり直したいっていう人が圧倒的に多いのに」


ぼそりと呟いた久遠さんは、すぐに手を動かす。


「なんてね。そろそろ乾いた?引き留めてごめんね」


とっくに乾いてました!

…なんて言えず。

かさかさになった手をハンドドライヤーから抜く。


「いえ、こちらこそ……失礼します」


そして軽く会釈をしてトイレを出た。


「………………」


久遠さんが鏡越しに、わたしを見ているとも知らずに…。

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