プロローグ1
≪天城 ルナ視点≫
「うわ、見てルナ!海が見えてきたよ!」
8月某日。
夏も真っ只中の飛行機内では、雲の間から見えた海に感嘆の声が上がっていた。
「本当だ、キレイ~!」
親友・エリカ越しに見える景色に、わたしも思わず身を乗り出して見とれる。
小窓から広がる青は、自然の雄大さを物語っているようだった。
---目の先に見える海と島は、通称“ゴッドアイランド”。
ここ数年で見つかった、南の島。
ぎりぎり日本の領土内らしく、いつからあったのかすら不明。
だけど数年前、大々的なニュースになったことで今では人気スポットの一つだ。
噂によれば、某テーマパーク並みに毎日花火があがり、星空も綺麗らしい。
しかも一日の飛行機便に限りがある為、まだまだ人気沸騰中。
そんな島に来られるなんて、夢みたい。
「二人とも、そろそろ着くから準備してね」
二人でひたすら眺めていると、後ろから優しく声がかかる。
「はーい」
「はい」
この人はエリカの彼氏・ユウさん。
高校生最後の夏休みに旅行を計画していた私たちに、今回この島の旅行を提案してくれた人。
まあ、提案といってもユウさんの大学の研究発表会がこの島であるから、
よかったら一緒にどう?って声をかけてくれたんだ。
わたしとエリカはもちろん、二つ返事で了承して今に至る。
…3人並んで席をとったのに、通路側を譲らない彼氏と
窓側を譲らない彼女に挟まれるのだけが解せなかったけど。
もうすぐ到着だし許してあげよう。
『まもなく着陸いたします。お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。』
わたしはアナウンスに従いながら目を閉じて、これから待ち受けている海やホテルに想いを馳せる。
今日の予定は、とりあえずホテルに荷物を預けてすぐに海!
そして夜はちょっといいごはんと、展望台からの星と花火!
「ルナ、口元緩いよ」
にやにやしているエリカに、そっちこそ、と返した。
それにしても、人生初の飛行機、あっという間だったなあ。
きっと旅行もあっという間なんだろうなあ。
まばたきしてる間に終わっちゃいそう……
って、まだ始まったばっかりなのにやめやめ!
『本日もJAP航空をご利用いただきありがとうございました。』
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「うわ~あっつい!」
「さすが南の島って感じだね」
研究発表の準備があるというユウさんとホテルで別れ、
荷物だけ預けたわたしたちは、さっそく海で羽を伸ばす。
「結構人いるね。ルナ、はぐれないでよ?」
「エリカこそ!イケメンに目をとられて置いていかないでね!」
カラッとした空気と照りつける太陽の真下に、わたしたち二人ははしゃいでいた。
水着を着るためにダイエットも頑張ったし、今が最高潮かも。
…まだ恥ずかしくて、上着は脱げないけど。
「君たちめっちゃ可愛いね!俺らと海、どう?」
「ごめんなさい、彼氏いるので~!」
さっそく金髪のお兄さんに声をかけられているエリカは、持ち前の対応力で適当に断っているようだ。
「え~残念~~」
「おい!中坊が何してんだ、行くぞ」
「いてー!」
残念ながら振られてしまったお兄さんは、迎えに来た別のおじさんにげんこつを喰らい、頭を抱えた。
「すみませんでした」
「いえいえ~旅行楽しんで」
もう一人の物静かそうな男性に謝られ、ひらひらと手を振るエリカ。
ちょっとチャラそうだったけど、かっこいい人だったな…。
エリカに彼氏がいなかったら、あっさりついて行ってたんじゃないかと思うくらい。
…って、
「中坊って、中学生…!?」
「みたいだね。今どきの子は大人っぽいね~」
のほほんと言うエリカに、わたしは遠ざかる3人の背中を見つめた。
…あれが、あれが中学生…!
同じくらいか、大学生かと思ったのに…。
目の前の現実を受け止めながら、透き通った海を見る。
底まで見えると思えるくらい綺麗な水に足を浸せば、その温度が直接伝わってきた。
「う、わ~~水温もちょうどいいね」
冷たすぎず、じんわりと浸透してくるような水に感動。
温度調節なしでこれは、名の通り“ゴッドアイランド”かも。
「ルナ、こっち~!」
パシャ
浮き輪に乗ったエリカが、波際で水を蹴るわたしを撮る。
「も~!撮るなら言ってよ!」
「あはは、半目になってる」
エリカはスマホをみながらけらけらと笑う。
顔を上げた瞬間の写真だから、絶対変な顔だと思った!
頬を膨らませるわたしに、再びカメラが向き、瞬間シャッター音がする。
「ねえ~!」
仕返しとばかりになけなしの水をすくってかけるも、華麗に顔とスマホをよけるエリカ。
スタイル抜群の親友は、浮き輪の上で楽しそうに何度もシャッターを切っていた。