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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
後日談

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85/93

帰郷の後に――ギルバートの贈り物――


 ボールドウィンに戻った後、ギルバートから贈り物が届いた。


「こ……これは……!」

 中身を見て、レティが目を輝かせた。


「栗の蜜煮! 木の実の焼き菓子! あの時飲んだお茶の包み……! しかもこんなに大量に!」

「落ち着け、チビ」

「みんなで一緒に食べましょうね! おやつの時間が楽しみです」


 きらきらした目で荷物を見つめるレティは、それ以外のものが目に入っていない。ウィルも突っ込まないので、心置きなくうっとりしている。現実に引き戻すのはルカの役目だ。


「お前が見るべきなのはそっちじゃない。こっちだ」

「え、なんですか?」

「もう少し喜ぶ顔が見たかったんだけどな。――レティ、これも贈り物だそうだよ」


 そう言って渡されたのは、布を貼った箱だった。

 中には小ぶりなアクセサリーが入っており、指輪や髪留め、首飾りなど、すべて同じ石で揃えられていた。


「ふわぁ……」


 石の大きさはそれほどでもなく、デザインもごく控えめなので、フォンドア翁から贈られた時のような衝撃はない。意匠を見たウィルが、「加工はフォンドアの職人に頼んだみたいだね」と言い添えた。

 フォンドア領は石の加工に長けており、王家の品まで扱っている。確かに、上品で愛らしい装飾は、以前に贈られた数々の品に少し似ていた。


「それにしても……見たことがない石だな。なんだこれ?」


 ルカが指輪をつまみ上げ、ためつすがめつする。

 彼の言う通り、レティも見た事のない石だった。


 一見すると無色透明の、水晶にも似た石だ。だが、角度を変えると深い青に、光に透かすと金色に輝き、肌の色を通すと、今度は七色にきらめき始める。一度として同じ色になる事がない。


 まるで虹を結晶にして閉じ込めたような美しさだ。

 ほうっと息を吐いたレティに、ウィルがなんでもない口調で言った。


「多分、ドルキアンに伝わっている月晶石だね。僕も見るのは初めてだ」

「月晶石?」

「……ってあの幻の宝石かよ!? クソバカ高い上に流通量がほとんどなくて、王族でさえ手に入らなくて血眼になってるっていう噂の!」


 ルカがぎょっとした顔になる。慌てて箱に戻そうとして手を滑らせ、すんでのところで受け止める。ほっと息をつく間もなく、信じられない目で見つめられた。


「チビ……お前、金持ちだな」

「そんな高いもの受け取れませんよ!?」

「無駄だよ、レティ」


 同封されていた手紙を読んだウィルが、なんとも言えない顔になった。


「返したら倍にして贈り直すそうだ。ついでに、その際は婚約指輪も用意するらしいけど、どうする?」

「こ、婚約……!?」

「それが嫌なら受け取ってほしいと。あきらめた方がいい」

「ええ……」


 本来なら王家に献上されるような逸品だ。いや、王家でさえ、これだけの一揃いを持っている人間はいないだろう。月晶石はドルキアンでも極めて産出量が低く、幻の石とされている。だがその美しさから欲しがる人間は後を絶たず、ごく小さなかけらでさえ、とんでもない高値がつくという。まさに至高の宝石と呼ばれる石だ。


 水晶の名を冠してはいるが、その組成は水晶とは異なり、まったく別のものである。ウィルがレティの耳に添えると、それはしっくりとよく馴染んだ。


「よく似合ってるよ、レティ」

「そう言われましても、どうしましょう……」


 そっと手に取ると、石はきらきらと輝きを増す。月晶石の名の通り、月の光を浴びると、さらに美しさが増すという。石は持ち主を選ぶというが、まったく主人になれる気がしない。


「受け取っても問題ないと思うけど。ドルキアンの地に枯れ大樹が眠っているなら、君とは相性がいいはずだよ」

「そういうわけには、ウィルさま……」

「とりあえずもらっとけ。で、いざとなったら高く売れ」

「どこかで聞いたセリフです、ルカさま……!」


 だが、確かにこれは返せない。返したら婚約指輪が届いてしまう。

 とりあえず保留する事にして、レティは箱の蓋を閉じた。


「ところで、そちらの包みはなんですか?」

「こっちは僕らへのお礼だそうだよ。見てみようか」


 厳重に布にくるまれた、細長い包みだ。長いものがひとつ、短いものが二つある。それぞれ名前が書いてあり、ウィルは長い包みを開けた。


「……これは……」


 それを見たウィルは目を見張った。


 中から出てきたのは、一振りの長剣だった。

 柄にボールドウィンの家紋が彫り込まれており、見事な装飾が施されている。スラリと剣を抜くと、銀色の刃が光をはじいた。


「……鋼水晶の剣だ。すごいな」

「こっちは短剣だ。しかも二振りも」


 ルカの方も驚きに目を見張っている。

 彼は長剣も扱うが、短剣の扱いも得意としている。鍛錬に参加した際、それを見抜かれたのかもしれない。切れ味のいい剣が欲しいと言ったが、これはさすがにと絶句していた。


 ちなみに、鋼水晶でできた剣は、宝石で作った剣よりも価値が高いと言われている。国宝級の名の通り、王都でも手に入れられる人間はめったにいない。過去、命と引き換えに鋼水晶を要求された領主もいたそうだが、誰ひとり脅しには屈しなかった。


「ささやかなお礼の気持ち、と書いてあったけど……。ドルキアンの本気を舐めてたな」

「これでささやかなら、国王の冠もはした金だぞ」

「ささやかとは……ささやかとは一体……」


 だが、手紙にはこう付け加えられていた。



 ――変わらぬ友情の証として、受け取ってくれると嬉しい。離れた地にある友へ。今日もドルキアンの空は青く、花は美しい。いつかまた会えるのを楽しみにしている。



「……こんなことを書かれたら、返すわけにもいかないね」

「俺は最初から返す気ないけどな」

「ううううう……!」


 三者三様、反応はそれぞれ違うものの、誰からともなくふと空を見上げた。

 空は今日も青く、健やかに晴れ渡っている。

 この空はドルキアンにも続いている。きっとあの花の上にも広がっているだろう。


 ギルバートも今、この空を見上げているだろうか。

 まぶしい空を見て、レティはふと微笑んだ。

お読みいただきありがとうございます。その後もギルバートの贈り物は続き、お返しにウィルも加工食品や技術など、様々なものを伝えます。たまにレティへの贈り物に妙なものが交じる事がありましたが、多分、部下の中に元凶がいる。

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