騒動の顛末
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それからは、怒涛のような展開だった。
彼は王家から命を受け、今回の話を伝えるために領地に付き添ったのだという。繁栄の花を受け取る役割も担っているそうで、花は彼に引き渡された。以前にも繁栄の花を見た事があるらしく、本物である事は保証してくれた。
「それにしても……この花は、せいぜい数輪しか咲かないのでは?」
訝しげに問われたが、答えられる人間はいなかった。
花は一夜明けた今も岩山の麓に咲き誇っている。一面の青い花が咲き乱れる様は、夢のように美しい。繁栄の花の名の通り、荒れ地を華やかに彩っている。
「それよりも、詳しい話をお聞きしたい。首謀者が捕まったというのは?」
ギルバートの問いに、王家の使者は眉を上げた。
「そもそも、あなたの進言あってのものですが?」
「……うん?」
「彼に助力を願ったのは正解でしたね。この根絶や……もとい、ボールドウィン伯爵は、内乱の恐れありと王家に報告してくれたのです。それはすべてドルキアンの領主に頼まれてのものだということでしたが……」
ちらり、とウィルに視線をやる。他の面々も彼に目を向けた。
「もちろん、その通りです。彼がいなければ、早期の発覚は難しかったでしょう」
全員に見つめられたまま、ウィルがしれっと嘘を吐く。
(お、王家の使者相手に……!)
この胆力だけは見習いたいところだ。
男は不機嫌そうな顔をしていたが、やがて小さく息を吐いた。
「まあいいでしょう。報告に齟齬はありませんでしたし、それに……言い伝えも覆りましたしね」
「言い伝え?」
レティが首をかしげると、彼は淡々と教えてくれた。
「ドルキアンの花が咲かない時、内乱が起こるという伝説です。私も疑問視しておりましたが、今回の件で、ようやく見直しの声が上がりそうです」
「それは、つまり……」
「――悪習を断ちたかったのは、ドルキアンだけじゃないということだよ」
ウィルが耳元で囁いた。
ギルバートの父や祖父、それより前の先祖達が打ち続けていた楔。それが、ようやく実を結んだのだ。
「このたびの功績と合わせれば、問題なく認められるでしょう。追って連絡があるはずです」
「……よかった……」
「ところで、こちらのご令嬢は? お見かけしたことのない顔ですが」
「あ、私は――」
「私の最愛の人です。ぜひお見知りおきいただければと」
名乗ろうとしたレティに、ウィルがふたたびしれっと嘘を吐く。「ちがっ…」と訂正する間もなく、彼はぎょっと目を剥いた。
「――は!? あなたが!? あの誰にも興味を示さないあなたが!? 植物だけでなく令嬢の心まで根絶やしにするという噂のあなたが!? なんなら男性の心まで虜にしたあげく、財産と毛根まで根絶やしにすると恐れられているあなたが!? 本当に!? 夢ではなくてですか!?」
「――エリオット」
そこでウィルは彼の肩をぽんと叩いた。
「あとでゆっくり話しましょうか。誰が言っていたのか、非常に興味があるところです」
どうやら彼の名前はエリオットというらしい。
ウィルの言葉に、彼は白い頬を引きつらせ、ぎくしゃくと首を振った。
「い……いえ、私は仕事があるもので。それではこれで失礼します。残りの話はガレッド殿にお聞きください。――では!」
そう言うと、素早く立ち上がって退出する。野兎もかくやという素早さだった。
「い……行ってしまわれましたね……」
「あとでこじらせるから脅すんじゃねーよ。めんどくせえんだよあいつ」
ものすごい速さで遠ざかっていく靴音を聞きながら、ルカが小さく舌打ちする。
「まあまあ。君も無事でよかったよ」
「無事じゃなくなりそうだったのは主にお前のせいだけどな」
「君がそんなへまをするはずはないから、それほど心配しなかったけどね」
「しろよ心配! めちゃくちゃ大変だったんだよ!」
「あ……あのう……」
さっぱり事情が分からないまま、レティがそろりと手を挙げる。
「できればですね……何があったのか、詳しく教えていただければと」
「そうか、レティには話していなかったね」
そこでウィルが言い放った。
「今回の件は、本当に内乱と関わっていたんだよ」
お読みいただきありがとうございます。そしてエンディングへ(あと二話です)。




