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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第一部】根絶やし伯爵と身寄りのない娘

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8/93

≪幕間≫ お茶の後で



    ***



「……寝たな」

 すうすうと寝息を立てるレティに、二人は顔を見合わせた。


「ほんっとガキだなこいつは……。主人の前で寝るなよ、犬か」

「慣れない生活で疲れているんだろう。実際、よく働いてくれているみたいだよ。マーサが褒めていた」


 骨惜しみせずに働くレティは、同僚からの評判も良かった。メイド頭のマーサに気に入られたのもその証拠だ。どんな仕事も手際が良く、進んで動く。ここに来る以前から働いていたというから、その働きぶりにも納得だ。

 それから、もうひとつ。


「……そういえば、マーサが妙なことを言っていたな」

「妙なこと?」

 新しい子の様子はどうだったと尋ねた時に、マーサがひどく喜んでいたのだ。確か――……。


「……薬草がどうとかって。傷に効く薬草を見つけたんだと思ってたんだけど、今思うとちょっと唐突だったな」

「それ以前に、ここらじゃ薬草は育たねえだろ。幹枯らしの森なら多少はあるが、あそこは危ない」


 ひとりで入るのは禁止されているし、そもそも量が少ないのだ。

「他領から来たと言っていたから、薬草の備えもあったのかな。それにしても……」


 視線を向けた先には、幸せそうな顔で眠る少女がいる。

 その様子は満ち足りていて、気持ちが良さそうだ。お腹いっぱい食べたせいだろうか。寝息すらも心地よい。

 出会った当初はぼさぼさだった髪も、今は整えられている。泥のついていた肌も綺麗だ。髪は小麦色に近いだろうか。今は閉じているが、目の色は明るい緑だった。


「……部屋に置きたいな」

 ポツリと、問題発言が漏れた。


「おいしいご飯を食べさせたい……。可愛がって慈しんで甘やかしたい……」

「いやお前ひとつ前からぎりっぎりな発言かましてるからな? あと女に対しての欲がまるっきりないわりに表現がやべえよ!」

「だってものすごく可愛くて……。妹がいたらこんな感じかな? どうしよう、可愛すぎて胸が痛い」

「恋じゃないのだけが幸いだな!」


 どんなに騒いでも少女は起きない。すやすやと寝入っている。

 胡乱な目を向けられたところで、「冗談だよ」とウィルが笑った。


「それにしても……ルカ、気づいてた?」

「……ああ、まあな」

「下働きで働いていたわりに、レティは行儀作法が身についている」

「食べ方も綺麗だったな。部屋に入ってきた時のマナーも完璧だった」


 足を引き、軽くスカートをつまむ挨拶。簡易なものだが、その所作は洗練されていた。


「……どっかのお屋敷の侍女だったかな。それで、追い出されたとか」

「貴族の令嬢にしては、手が荒れていた。普段から仕事をしていないと、ああはならない。それに、掃除も洗濯も慣れていた。侍女ならどっちもしないだろう」

雑役女中(オール・ワークス)ってことか?」

「それにしては、動作が綺麗すぎる」


 二人が同時に黙り込む。


「……妙なガキを拾っちまったな」

「どっちにしてもボールドウィン(うち)に来る予定だったんだから、問題ないよ。この子はもううちの子だ」

「その犬拾ったみたいな表現はどうにかなんねえのか……」


 頭が痛い様子だったが、ルカはふうっと息を吐いた。


「まあ、拾ったもんはしょうがない。最後まで面倒見てやるか」

「その意気だよ、ルカ」

「お前もやるんだよ! このバカ伯爵!」


 ルカが怒鳴ったところで、「ううん…」という声がした。

 ぴたり、と男二人が黙り込む。


「……お代わり、ですか? はい……いただき、ます……。だいじょうぶ、まだ、食べられ、る……」

「まだ食うのかよ、お前は!」


 その突っ込みは、残念ながら本人に届かなかった。

お読みいただきありがとうございます。まだ食べられます(十六歳)。

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