≪幕間≫ お茶の後で
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「……寝たな」
すうすうと寝息を立てるレティに、二人は顔を見合わせた。
「ほんっとガキだなこいつは……。主人の前で寝るなよ、犬か」
「慣れない生活で疲れているんだろう。実際、よく働いてくれているみたいだよ。マーサが褒めていた」
骨惜しみせずに働くレティは、同僚からの評判も良かった。メイド頭のマーサに気に入られたのもその証拠だ。どんな仕事も手際が良く、進んで動く。ここに来る以前から働いていたというから、その働きぶりにも納得だ。
それから、もうひとつ。
「……そういえば、マーサが妙なことを言っていたな」
「妙なこと?」
新しい子の様子はどうだったと尋ねた時に、マーサがひどく喜んでいたのだ。確か――……。
「……薬草がどうとかって。傷に効く薬草を見つけたんだと思ってたんだけど、今思うとちょっと唐突だったな」
「それ以前に、ここらじゃ薬草は育たねえだろ。幹枯らしの森なら多少はあるが、あそこは危ない」
ひとりで入るのは禁止されているし、そもそも量が少ないのだ。
「他領から来たと言っていたから、薬草の備えもあったのかな。それにしても……」
視線を向けた先には、幸せそうな顔で眠る少女がいる。
その様子は満ち足りていて、気持ちが良さそうだ。お腹いっぱい食べたせいだろうか。寝息すらも心地よい。
出会った当初はぼさぼさだった髪も、今は整えられている。泥のついていた肌も綺麗だ。髪は小麦色に近いだろうか。今は閉じているが、目の色は明るい緑だった。
「……部屋に置きたいな」
ポツリと、問題発言が漏れた。
「おいしいご飯を食べさせたい……。可愛がって慈しんで甘やかしたい……」
「いやお前ひとつ前からぎりっぎりな発言かましてるからな? あと女に対しての欲がまるっきりないわりに表現がやべえよ!」
「だってものすごく可愛くて……。妹がいたらこんな感じかな? どうしよう、可愛すぎて胸が痛い」
「恋じゃないのだけが幸いだな!」
どんなに騒いでも少女は起きない。すやすやと寝入っている。
胡乱な目を向けられたところで、「冗談だよ」とウィルが笑った。
「それにしても……ルカ、気づいてた?」
「……ああ、まあな」
「下働きで働いていたわりに、レティは行儀作法が身についている」
「食べ方も綺麗だったな。部屋に入ってきた時のマナーも完璧だった」
足を引き、軽くスカートをつまむ挨拶。簡易なものだが、その所作は洗練されていた。
「……どっかのお屋敷の侍女だったかな。それで、追い出されたとか」
「貴族の令嬢にしては、手が荒れていた。普段から仕事をしていないと、ああはならない。それに、掃除も洗濯も慣れていた。侍女ならどっちもしないだろう」
「雑役女中ってことか?」
「それにしては、動作が綺麗すぎる」
二人が同時に黙り込む。
「……妙なガキを拾っちまったな」
「どっちにしてもボールドウィンに来る予定だったんだから、問題ないよ。この子はもううちの子だ」
「その犬拾ったみたいな表現はどうにかなんねえのか……」
頭が痛い様子だったが、ルカはふうっと息を吐いた。
「まあ、拾ったもんはしょうがない。最後まで面倒見てやるか」
「その意気だよ、ルカ」
「お前もやるんだよ! このバカ伯爵!」
ルカが怒鳴ったところで、「ううん…」という声がした。
ぴたり、と男二人が黙り込む。
「……お代わり、ですか? はい……いただき、ます……。だいじょうぶ、まだ、食べられ、る……」
「まだ食うのかよ、お前は!」
その突っ込みは、残念ながら本人に届かなかった。
お読みいただきありがとうございます。まだ食べられます(十六歳)。




