今、できることは
簡単な昼食を済ませ、レティは窓の外を見た。
ギルバートもウィルも、まだ戻ってくる様子はない。大半の人間が駆り出されているせいで、館の中は静まり返っている。雨はようやく小降りになったが、まだ止む様子はなかった。
そんな中で、馬のいななきが聞こえた。
「うん……?」
空耳かと思ったが、向こうから馬を連れた兵士が現れる。ひとりではなく、数名いるようだ。全員が武装しているのを見て、レティは目を瞬いた。
彼らも災害の復旧に向かうつもりだろうか。それにしては、妙な格好だ。
よく分からないまま、レティは部屋の窓を開けた。びゅっと風が吹き込んできたが、意外なほど外の音を拾う。身体を隠し、耳をそばだてていると、彼らのひとりが口を開いた。
「なぁ……。本当にやるつもりか?」
「当然だろ。このままお頭が死ぬのを見ているつもりはねえよ」
「けど、相手は王家だろ。いくらなんでも、俺たちだってただじゃ済まねえ」
「先に無茶を言ったのはあいつらだ。皆殺しにはできないまでも、国王の首くらい獲ってやるさ。ドルキアンの狼を舐めたこと、思い知らせてやる」
(この人たち……)
もしかして。
「たとえ殺せなくても、あいつらが何を命じたかが明らかになれば、王家に対する信頼は地に落ちる。ただじゃ終わらねえよ。あいつらだっておしまいだ」
「だけど、ガストルは駄目だって……」
「あいつは腰抜けだ。牙の抜けた狼なんざ、ただの飼い犬だ。そうだろう?」
兵士のひとりが苛立たしげな戸で言う。レティはその顔に見覚えがあった。
ドルキアンに到着した最初の日、ギルバートと山で対峙した人物。よく見れば他の面々にも覚えがあった。
ギルバートに忠誠を誓い、彼に心酔する人々だ。
どうしよう、とレティは思った。
(この人たち……今から、王都へ行く気だ)
そして国王の命を狙い、暗殺を仕掛けるつもりなのだ。
もしそんな事になれば、すべてが台無しになってしまう。
ギルバートが青い花を咲かせようと、失敗して自らの命で償おうと、ドルキアンはおしまいだ。自領の兵士が反乱を起こして、ただで済むはずがない。
(ギルさまに知らせないと)
だが、どうしたらいいのか。
ギルバートがいる場所はここから離れている。徒歩で行ける距離ではない。
そうこうしている間にも、彼らは馬の準備を終え、王都へ向かおうとしている。
「待っ――」
窓から叫ぼうとした時、強い風が巻き起こった。その隙に彼らが馬の背に乗る。レティが止める間もなく、彼らは馬の腹を蹴って行ってしまった。
息を呑んだのは一瞬、レティは部屋を飛び出した。
彼らがやってきたのは北側だ。おそらくあちらに厩がある。
ギルバートがここにいない以上、自分でどうにかしなければ。
どうすればいいのかは分からない。だけど、行かないと。
(間に合って……!)
外へと続く扉に飛びつき、レティは勢いよく開け放った。
お読みいただきありがとうございます。さあ、間に合うか?




