私の令嬢
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午前中からとんでもないものを見てしまったせいで、昼食が喉を通らなかった。いつもより少なめの量で食事を終えたレティに、ギルバートが気遣わしげな顔になる。
「具合が悪いのか、レティ。お代わりを一度しかしないなんて」
「そうではありませんが……すみません。朝食を食べ過ぎたみたいです」
「朝食も二度しかお代わりしていない」
二度お代わりすれば十分ではないかと思ったが、この屋敷に来てから大体三度ずつお代わりしていたので、確かに量が減っている。これは隠し通せないと思い、正直に先ほどの出来事について話した。
「そうか……。皆には報告していたのだが。色違いの花が見つかり、一歩前進したと」
「みなさん不安なんだと思います。ですが、どうすればいいのか……」
「君が気にすることはない。私の方からも、もう一度皆に伝えておく。ガストルがいるから、問題ないとは思うが」
「確かにとてもすごかったです」
彼らを一喝した時の迫力は、ルカのお説教よりも怖いくらいだった。もし本人がここにいたら、「あのオッサンと一緒にすんじゃねえよ」と突っ込まれたかもしれないが。
「王家を敵に回すのは得策ではない。私もそれは望んでいない」
「そう、ですね……」
「だが、皆の気持ちもよく分かる。ふがいない主で申し訳ない」
そんな事はない。彼は立派な主だし、尊敬できる人柄だ。けれど、だからこそ彼らが憤る気持ちも分かってしまう。
うつむいたレティに、ギルバートが頭をなでてきた。
「君が気にすることはない。君が心を痛めるのを見るのは辛い」
「ですが、ギルさま」
「もし私がここにいなかったとしても、君はドルキアンに来てくれるだろうか」
唐突に、妙な質問をされた。
不思議な事を聞かれると思ったが、ギルバートの目は真剣だった。とっさに答えられなかったレティに、「来てくれたら嬉しい」と告げる。
「君は笑った顔が似合う。次は花の時期に来るといい。グレーデやボールドウィンほどではないが、ドルキアンにも花が咲く。とても美しい光景だ」
「それは……見てみたいです」
「いつでも歓迎する。私の令嬢」
その声はとても小さかったので、「レティ」と「レディ」の響きの違いには気づかなかった。
ただ、その視線がひどくやさしいとレティは思った。
お読みいただきありがとうございます。どうしてか、少し切ない。




