祈りと焦燥
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エネルギーの枯渇が原因なら、エネルギーを充填してやればいい。
まず考えられたのは、レティが祈る事だった。
前回もレティの意思により、枯れ大樹が反応した事を考えると、これが一番可能性が高いと考えられた。早速女神の爪先へ赴き、懸命に祈る。ギルバートの命が懸かっているのだから、その祈りも真剣だ。
だが、朝から晩まで祈っても、花の色が変わる事はなかった。
次の日も、その次の日も。
そのまた次の日も祈り続けてしまい、最後にはぶっ倒れているところを発見された。ウィルは笑顔のままとても怖い顔になり――ちゃんと休憩を取るようにと、口を酸っぱくして言われていた――翌日の休息を決定した。逆らう事のできない迫力だった。
「ついていられなかった僕が悪い。保護者失格だ」
その顔がとても後悔しているようだったから、レティも「……ごめんなさい」と謝る事しかできなかった。
ちなみに、付き添いのガストルを帰したのはレティだ。とても忙しそうだったので、さすがに悪いと思ってしまった。
だがひとつ、分かった事がある。
「……ウィルさま、多分、これでは花の色は変わりません」
「そうか……」
その可能性も考えていたのか、ウィルが唇を引き結ぶ。
「参考までに、聞いていいかな。どうしてそう思ったんだい?」
「なんというか……手ごたえがないんです。あの時も、手ごたえがあると思ってしたことではないのですが……」
枯れ大樹を抱きしめた時、理由があってした事ではなかった。
けれど、枯れ大樹はレティの気持ちに応え、新しい幹を生やしてくれた。
その時の、心と心が通うような感覚を、今回はまったく感じないのだ。
「私が鈍いのかもしれません。ですが、このまま続けても同じかと」
「レティの感覚を信じよう。となると、別の方法か」
ウィルはウィルで、ずっと地図と首っ引きだ。はっきりとは聞いていないが、地層や地形から、地力溜まりの法則を導き出そうとしているらしい。だが、正確な地下空間の地図などあるはずもなく、調査はかなり難航しているようだった。
それに加え、ウィルは別の仕事もこなしている。もはやいつ寝ているのか分からない。
「ところでレティ、あの場所で何か感じたことはある?」
「あの場所……女神の爪先ですか? いえ、特には何も」
気持ちのいい場所だとは思うが、それ以外は何もない。
そういえば、夢で見たあの場所は、なんだかなつかしい気がしたけれど――。
「夢?」
「そういえば、ウィルさまにはお話ししていませんでしたね」
呟きを拾われて、レティはこの間の夢の事を話した。岩山が輝き、何かが流れ込んできたというくだりを聞いて、ウィルは考え込む顔になった。
「……もしかして……」
その時だった。
窓の外で、怒鳴り合う声が上がったのは。
***
「……だから! これ以上は待てねえよ!!」
「そうは言っても、お頭の命令は『動くな』だろ? お頭の命令には逆らえねえよ」
「そんな命令聞けねえっつってんだろ! 事はお頭の命に係わるんだぜ!?」
「……何の騒ぎでしょう……?」
外で騒いでいるのは、ドルキアンの若い兵士達のようだった。
ちょうど二手に分かれる形で、互いににらみ合っている。数はどちらも二十前後、獣の皮でできた鎧を身にまとい、手甲やすね当てをつけている。
どちらも引かない構えだったが、駆けつけたガストルが一喝した。
「バカかてめえら!! お頭のお考えを無にしやがる気かこのボケナスども! そのクソみてえな脳みそ川で洗って、よーく乾かしてからもういっぺん考えろ、この仔犬どもめ!!」
「け、けどよう、ガストルさん。このままじゃ、お頭が……」
「それも含めてのお考えだ。俺たちはお頭の指示に従う。それがドルキアンの流儀だろう」
「でも、それじゃ!」
「俺たちは誰だ。言ってみろ」
ガストルの眼光に、若い兵士はビクッとした。
「……ドルキアンの狼です」
「狼なら群れの長に従うもんだ。例外は認めねえ」
うなだれた彼らをよそに、ガストルはぽんと肩を叩いて立ち去っていった。
それを二階の部屋から見ていたレティ達は、なんとも言えない顔になった。
「みなさん、ギルさまを心配してらっしゃいますね……」
「当然と言えば当然だね。彼は領主としても、戦士の長としても申し分のない、素晴らしい人物だ」
「そんな方を、王家が理不尽な理由で処刑する……」
誰が考えても許されるはずがない。完全なる蛮行だ。
「王家の方は、そんな無茶を要求する方々なのでしょうか……?」
「今の国王陛下は温厚な方だよ。ただ、国を治めるのにも、色々なしがらみがあるからね。陛下ひとりの意思ではどうこうできないこともある。問題はそれが、この一件にも適用されるのかという話だけど……」
それはまだ分からない、と首を振る。
どうやら、王族も色々と大変らしい。
「王さまはなんでもできると思ってました」
「僕もそう思っていたよ。子供のころはね」
そう言うと、レティの頭をやさしくなでる。どうやらよほどしょんぼりした顔をしていたらしい。
「それにしても……思った以上に深刻だったな。ギルも、話をしてくれてはいるみたいだけど」
「みなさんのお気持ちも分かります。ですが、王家に牙を剥くのは……」
「完全なる悪手だね。ガストルはそれが分かってる」
けれど、若い兵士にとっては違う。
たとえ理性では分かっていても、感情がそれに追いつかないのだ。それくらいならたとえ無茶でも、と考えているのが伝わってくる。
このままでは、ドルキアンと王家との間に決定的な亀裂ができてしまう。
それどころか、もしかすると――……。
「大丈夫」
はっと顔を上げると、ウィルがやさしく微笑んでいた。
「そんなことにはさせないよ。ちゃんと守る、心配しないで」
「ウィルさま……」
「あともう少しで結論が出そうなんだ。それが分かれば、きっと」
その目はひどく真剣だった。単にギルバートの命を守るだけではない、もっと違う決意が感じられた。
それが何であるか、その時のレティは知る由もなかった。
お読みいただきありがとうございます。ぶつかる思い。
(※あと一本短いのを更新する予定です)




