光る小石と大樹のかけら
せっかくなのでお茶にしようと誘われて、レティはウィルの部屋にお邪魔した。
室内は雑然として、うず高く資料が積み上がっていた。
「整理していなくてごめんね、レティ。そこに座って」
「こ……これ、今から全部読むんですか?」
「まさか」
そうですよね、と答えようとしたレティは硬直した。
「これは全部読み終わった分。見落としはないと思うけど、一応栞を挟んである。そこから推察されることをまとめて、箇条書きにしておいた。まだ頭の中が整理し切れていないから、今日は部屋にこもろうと思って」
「全部……読んだ、ですか……?」
「ほとんど流し読みで、必要と思われる部分だけだよ。これでもずいぶん減ったんだ。悪いとは思ったけど、ギルに人手を貸していただいたよ」
そりゃそうだろう、と思ったが、レティは何も言えなかった。
部屋にあるのは、夥しい数の本だった。
資料だけで机と床の一部を埋め尽くすほどの量があり、その近くに書き散らされた紙の束が散らばっている。多くは鉱石の本だったが、中には武器、防具に加え、植物の本も交じっている。地図や地形の本もあって、雑多な取り合わせとなっていた。
「レティの部屋の本も借りたいんだけど、大丈夫?」
「はい。私も全部読みましたので」
「それはすごいな。無理しないようにね」
そのセリフは慎んでお返ししたいところだ。
「ウィルさま、無理なさったら駄目ですよ? ルカさまに叱られます」
「その時は一緒に叱られよう。とりあえず、お茶をどうぞ」
ウィルが手ずから淹れてくれたお茶は、ほのかに甘い香りがした。
「もてなしていただいて申し訳ない……のですが、おいしいですねえ……」
「ルカが置いていってくれたんだ。ついでにレティ用のお菓子もほら、こんなに」
「おおおおお……!」
示された机の上には、日持ちする菓子類が並んでいる。目を輝かせるレティに、ウィルもにこにこしながらお茶を飲んだ。どうやら少し休憩すると決めたらしい。
「ウィルさま、こ、これ、いただいてもよろしいんですか?」
「全部食べても構わないよ。疲れただろうから、甘いものは必要だ」
「いただきます……!」
早速ぱくつくレティの様子を、ウィルが微笑ましげに眺めている。その様子はまるで、近所の子供をあやしているような、可愛がっている犬におやつを食べさせているような、ものすごく慈愛のこもったまなざしだ。
年頃の令嬢に対する視線としてはいかがなものかと思ったが、ルカの用意してくれたおやつはおいしすぎたので、特に追求はしなかった。
「そういえば、ルカさまはまだお戻りになられないんですか?」
「うん、ちょっとね。相当面倒な用事を言いつけたから、さすがの彼も手こずってるのかもしれない」
「面倒な用事……」
それはレティが聞いてはいけない気がする。
「ルカさまはご無事なんでしょうか?」
「無理なら頼んでいないよ。でも、そうだな。よかったらルカのために祈ってあげて。レティの祈りは効果があるみたいだから」
「はい!」
早速大樹のかけらを取り出し、レティは左手に握りしめた。両手を組み、目を閉じて祈る。
言われるまでもなく、彼の無事は毎日祈っていたが、改めて祈る。
どうかルカが無事でありますように。
旅先で困ったり、怪我をしたり、お腹がすいたりしませんように。あと、仕事がうまくいって、無事に帰ってきますように。
それから、ウィルが倒れたりしませんように。
無茶ばかりする人だから、自分の事も大切にしてくれますように。
ギルバートが、ドルキアンの人達が、悲しい思いをしませんように。ずっとずっと、みんなが幸せでいられますように。
(お願い……)
その時、ほのかにかけらが熱を帯びた。
握っていた手のひらを開けて、レティは目を丸くする。
ごく弱い輝きながら、かけらが光を放っていた。
「え……え、え?」
それを目の当たりにしたレティは声を上げた。
こんなのは久々だ。いや、大樹の枝が一度崩れ去ってから、一度もこんな事はなかったはずだ。淡い輝きを宿したまま、かけらは手の上に転がっている。熱くはないが、明らかにまぶしい。
「な、なに、一体何が?」
「ちょっと待って、レティ」
その時、ウィルがレティを呼び止めた。その声にわずかな驚きが混じる。
「あれを見て」
「え……?」
言われるまま指さされた方を見て、レティは今度こそ目を見張った。
「……あれは……」
レティが以前に拾った小石。
その石が、かすかな輝きを放っていた。
――それからおよそ一刻後の事だった。
女神の爪先で、花のつぼみが発見されたという報告が入ったのは。
お読みいただきありがとうございます。速読とかいうレベルじゃない。




