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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第二部】ドルキアンの青い花

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光る小石と大樹のかけら


 せっかくなのでお茶にしようと誘われて、レティはウィルの部屋にお邪魔した。

 室内は雑然として、うず高く資料が積み上がっていた。


「整理していなくてごめんね、レティ。そこに座って」

「こ……これ、今から全部読むんですか?」

「まさか」


 そうですよね、と答えようとしたレティは硬直した。


「これは全部読み終わった分。見落としはないと思うけど、一応(しおり)を挟んである。そこから推察されることをまとめて、箇条書きにしておいた。まだ頭の中が整理し切れていないから、今日は部屋にこもろうと思って」

「全部……読んだ、ですか……?」


「ほとんど流し読みで、必要と思われる部分だけだよ。これでもずいぶん減ったんだ。悪いとは思ったけど、ギルに人手を貸していただいたよ」


 そりゃそうだろう、と思ったが、レティは何も言えなかった。

 部屋にあるのは、(おびただ)しい数の本だった。


 資料だけで机と床の一部を埋め尽くすほどの量があり、その近くに書き散らされた紙の束が散らばっている。多くは鉱石の本だったが、中には武器、防具に加え、植物の本も交じっている。地図や地形の本もあって、雑多な取り合わせとなっていた。


「レティの部屋の本も借りたいんだけど、大丈夫?」

「はい。私も全部読みましたので」

「それはすごいな。無理しないようにね」


 そのセリフは(つつし)んでお返ししたいところだ。


「ウィルさま、無理なさったら駄目ですよ? ルカさまに叱られます」

「その時は一緒に叱られよう。とりあえず、お茶をどうぞ」


 ウィルが手ずから淹れてくれたお茶は、ほのかに甘い香りがした。


「もてなしていただいて申し訳ない……のですが、おいしいですねえ……」

「ルカが置いていってくれたんだ。ついでにレティ用のお菓子もほら、こんなに」

「おおおおお……!」


 示された机の上には、日持ちする菓子類が並んでいる。目を輝かせるレティに、ウィルもにこにこしながらお茶を飲んだ。どうやら少し休憩すると決めたらしい。


「ウィルさま、こ、これ、いただいてもよろしいんですか?」

「全部食べても構わないよ。疲れただろうから、甘いものは必要だ」

「いただきます……!」


 早速ぱくつくレティの様子を、ウィルが微笑ましげに眺めている。その様子はまるで、近所の子供をあやしているような、可愛がっている犬におやつを食べさせているような、ものすごく慈愛のこもったまなざしだ。

 年頃の令嬢に対する視線としてはいかがなものかと思ったが、ルカの用意してくれたおやつはおいしすぎたので、特に追求はしなかった。


「そういえば、ルカさまはまだお戻りになられないんですか?」

「うん、ちょっとね。相当面倒な用事を言いつけたから、さすがの彼も手こずってるのかもしれない」

「面倒な用事……」


 それはレティが聞いてはいけない気がする。


「ルカさまはご無事なんでしょうか?」

「無理なら頼んでいないよ。でも、そうだな。よかったらルカのために祈ってあげて。レティの祈りは効果があるみたいだから」

「はい!」


 早速大樹のかけらを取り出し、レティは左手に握りしめた。両手を組み、目を閉じて祈る。

 言われるまでもなく、彼の無事は毎日祈っていたが、改めて祈る。


 どうかルカが無事でありますように。

 旅先で困ったり、怪我をしたり、お腹がすいたりしませんように。あと、仕事がうまくいって、無事に帰ってきますように。


 それから、ウィルが倒れたりしませんように。

 無茶ばかりする人だから、自分の事も大切にしてくれますように。


 ギルバートが、ドルキアンの人達が、悲しい思いをしませんように。ずっとずっと、みんなが幸せでいられますように。


(お願い……)


 その時、ほのかにかけらが熱を帯びた。

 握っていた手のひらを開けて、レティは目を丸くする。

 ごく弱い輝きながら、かけらが光を放っていた。


「え……え、え?」


 それを目の当たりにしたレティは声を上げた。

 こんなのは久々だ。いや、大樹の枝が一度崩れ去ってから、一度もこんな事はなかったはずだ。淡い輝きを宿したまま、かけらは手の上に転がっている。熱くはないが、明らかにまぶしい。


「な、なに、一体何が?」

「ちょっと待って、レティ」


 その時、ウィルがレティを呼び止めた。その声にわずかな驚きが混じる。


「あれを見て」

「え……?」


 言われるまま指さされた方を見て、レティは今度こそ目を見張った。


「……あれは……」


 レティが以前に拾った小石。

 その石が、かすかな輝きを放っていた。


 ――それからおよそ一刻後の事だった。


 女神の爪先で、花のつぼみが発見されたという報告が入ったのは。

お読みいただきありがとうございます。速読とかいうレベルじゃない。

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