表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第二部】ドルキアンの青い花

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/93

夕餉の前に



    ***



それから少しして、ギルバートが山ほどの資料を持ってきてくれた。


「残りも随時届けさせる。書庫と保管庫への出入りも自由だ」


 書庫の場所も教えてもらい、レティはありがとうございますと頭を下げた。


「礼を言うのはこちらの方だ。疲れたら甘いものを用意させよう。お茶も好きなだけ飲むといい」

「いえそういうわけには……」

「遠慮することはない。子供が根を詰め過ぎるのは体に悪い」

「ですが私は大人の女性……いえ、あの、まあ、そうですね、疲れたら……いやいや」


 ちょっと誘惑に流されそうになったが、それどころではないと思い直して首を振る。渡されたのは、レティが頼んだ覚え書きや、詳しい気候に気温の図表、地質や植物の生態記録などだった。


「言われたものはできるだけ集めたが……こんなものでいいのか?」

「すばらしいと思います」

「他にもないか探させている。関係ないかもしれないが、それも届けさせよう」


「助かります。これ、ウィルさまたちにもお見せしていいですか?」

「もちろんだ。必要だと思ったら、どんな情報でも共有して構わない。この屋敷のどこでも好きに歩いていいし、領地内の調査も自由だ」

「ありがとうございます」


 あまりに特別扱いで恐縮してしまう。だが、ギルバートは首を振った。


「言っただろう。礼を言うのはこちらの方だ。本当に感謝している、レティシア・グレーデ嬢」

「あ、あの……できればですね、私のことはレティと呼んでいただければと」

「だが、あなたはウィルの――ボールドウィン伯爵の特別な方なのだろう。本来ならばグレーデ男爵令嬢と呼ぶのだろうが……」


 その呼び方は慣れないため、まったく使われていない。


 領地の管理をウィルがしている事もあり、レティは名前だけの男爵令嬢だ。さらに言えば、今領地を守っているのはパメラであり、その称号は彼女にこそふさわしいと思っている。ちなみにパメラはウィルとフォンドア卿の口添えと、病に倒れた村人達の証言もあり、身分を剥奪されていない。よかったと、レティは心から安堵している。


 そんな状況で、男爵令嬢と呼ばれるのは変な感じだ。


 だが、自分よりもはるかに年上の青年に、毎度毎度丁重にフルネームで呼ばれているのも、それはそれで据わりが悪い。


 お願いしますと告げると、彼は生真面目な顔で頷いた。


「分かった。では――私のことも、ギルと」

「いえ他領の領主さまを愛称呼びというのはどうかと……!」


 即座に呼んだ二人の姿が頭をよぎったが、レティが呼ぶのは違うだろう。そう思って断ると、彼は無表情のままうつむいた。


「そうか、駄目か……」


(が……がっかりしている……)


「あの、ええと、そのですね……」

「ウィルとルカと同じように呼んでもらいたかったのだが、失礼なことを言って申し訳ない。私はレティと呼ぼう。私のことはどうとでも呼んでくれて構わない」


 言いながら、もう少し顔が下を向く。分かりやすく落ち込んでいる。その様子はまるで――まるで。


(い……犬……!!)


 しょんぼりと垂れた耳と尻尾が見えるようだ。表情は動いていないのに、ものすごくがっかりしている。


「いえ、呼びます、呼びますから! ギルさまですね、大丈夫です。了解いたしました!」

「……いいのか?」

「もちろんです!」

「ありがとう、レティ」


 ふわ、と唇の端が少し上がる。そんな表情をすると、一気に柔らかい印象になる。彼が非常に優れた容貌の持ち主だと、改めてレティは理解した。


「そういえば、ドルキアンには客人をもてなす特別な料理があるのだが、レティは山のものが好きだろうか」

「大好きです」

「貴族令嬢が口にするには問題だと、家人には止められてしまったが。レティなら喜んでくれると思う」


 今日の夕()にはそれを出そうと、ギルバートが約束する。レティも楽しみですと笑顔になった。


「ですがその、私なら喜ぶというのはどういった意味で……?」

「ああ、それは」


 そこでギルバートは顔を近づけ、レティの頬をそっとぬぐった。


「……頬に焼き栗のかけらがついていたので、きっと抵抗はないだろうと」

「……っっっ」


「この食べ方は上級者だ。爪もほとんど汚れていない。香ばしい匂いがしなければ気づかないところだった」

「あ、あのですね、ギルさまっ?」

「見事な手際だ、レティ。もしかすると、私よりも食べるのが上手いかもしれない」


 真面目な顔で言う彼は、本当にそう思っているらしい。礼を言うべきか少し迷い、結局レティは頭を下げた。


「……恐縮です」

お読みいただきありがとうございます。次回はご飯のお話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ