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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第二部】ドルキアンの青い花

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ドルキアンの秘密の花



    ***



 改めて詳しい話を聞く事になり、彼の私室に案内された。


 当主の部屋という割には簡素だったが、綺麗に整頓されていて居心地がいい。壁に絵が掛けてあり、ゆったりとした長椅子もある。改まった挨拶もそこそこに、彼は机の上に地図を広げた。


「……これは?」

「代々の領主に伝わる秘蔵の地図だ。この国すべてが描かれているものと、領地に特化したものがある。後者がこれだ」


 それはレティが知っている地図とは一線を画していた。


 ざっくりした国の形や位置は描かれていても、ここまで詳細に描かれたものは初めてだ。ウィルも初めて見るらしく、目を丸くしている。そこにいくつかの印があり、要所としての拠点を示していた。


「……我々が見てはまずいのでは?」

「構わない。使い方が分からなければ意味がない。そして、この地図を真の意味で使えるのはドルキアンだけだ」


 当然のように言いながら、地図の一点を指で示す。


「ここが花の咲く場所だ。ここ以外では咲かないし、見たこともない」

「ここは……」


 そこは、一見すると何の変哲もない場所だった。


 すぐそばには険しい岩山があり、その場所を守るようにそびえている。距離はここから馬で半刻ほど、それほど離れた場所ではないが、今からでは厳しいかもしれない。

 岩山を指してギルバートが言った。


「女神の爪先と呼ばれる場所だ。立ち入りは禁止されているから、領地の人間は訪れない。女性が登るのは厳しいが、(ふもと)までなら問題ない」


 岩山と荒野の多いドルキアンでは、平地の方がいっそ少ない。人々もそれに合わせた生活を送っており、その暮らしぶりはつましいものだ。鉱石の産地と言っても、安定して供給できるほどの量はなく、とてもそれだけでは暮らしていけない。また、土地の性質ゆえか、どの山で鉱石が採れるかも一定しておらず、領主さえも把握できないという。


 だが、それでもドルキアンで産出される石は質が良く、欲しがる人間は後を絶たない。そのため、盗掘も頻繁に起こり、そのたびに討伐隊を向かわせていた。


「ほとんどは一獲千金を夢見た盗人だが、たまに正体不明の者も交じる。盗賊もいるので、油断できない」


 守りを固くしているが、どうしても常時というわけにはいかない。

 そのため、要所に見張りを置いて対処している。それでも数名は紛れ込むという。中には荒らされてしまった山もあり、頭の痛い問題であった。


 とはいえ、正面きって攻め込むような愚者はいない。ドルキアンの兵士は勇猛かつ血の気が多く、見つけ次第袋叩きだ。また、地形も守りに適しており、他者の攻撃を受けつけない。

 特に、領主の館の背後にある岩山は堅牢で、天然の要塞となっていた。


 生活に不便な場所なので、女手は少ない。いてもほとんどが既婚者だ。そのため、若い未婚の女性は非常に珍しいらしい。


 淡々とそんな事を語ったギルバートは、「だから気をつけてほしい、たとえ子供でも」と、なぜかレティを見て言った。


「いえ、あの、私は子供ではなくてですね……」

「この場合は子供じゃない方が危ないだろ。まあ大丈夫だとは思うけどな」

「知らない人がお菓子をくれるって言っても、ついて行かないようにね」


 ルカとウィルがそれぞれ注意を口にしたが、年頃の貴族令嬢への助言としてはいかがなものか。

 ()に落ちない……という顔をしたものの、レティは口に出さなかった。


「まずは花の特徴を教えていただけますか。色、形、大きさ、花弁の数、葉の形状、根の形、生え方。なんでも構いません。できるだけ詳しくお願いします」

「花は青色だったと思う。形は……そうだな、これを見てもらった方が早いかもしれない」


 そう言うと、彼は近くにあった机から何かを取り出した。


「……これは?」

「代々の当主に受け継がれるものだ。詳細な花の写し絵が描かれている」


 そこにあったのは、古びた一枚の紙だった。

 表面は毛羽立ち、ところどころかすれているが、中央に花が描かれている。


 一言で言えば、可憐な花だった。


 大きさは手のひらに収まるほど、葉の形状はスズランに似ている。花弁はふんわりと丸みを帯び、優美な形を描いていて、なんとも言えず愛らしい。花の色は青、その色合いも鮮やかだ。レティも初めて見る花だった。


(でも、これ……)


 内心で首をかしげたところで、「綺麗な花ですね」とウィルが言った。


「ですが、それほど希少な生息条件があるようには見えません。どこか別の場所で生えている、といったことはないのでしょうか?」


 レティが思っていたような事を代弁した彼に、ルカも小さく頷いている。だが、ギルバートは首を振った。


「ない。花が咲いていないと知った時、詳細は言わずに皆に命じた。青色の花を見つけたら報告を頼むと」

「……それで?」

「その色の花は、領地中探しても一輪もなかった。特にこの山の周辺は念入りに探らせたから間違いない。私も自分で赴いたが、見つけられなかった」


(それはそうか……)


 まず初めに、別の生息地を探すのは当然だ。

 それにしても、部下に完全に秘密にしていると思っていたので、その告白は意外だった。


「……差し支えなければ、どういう口実で命じられたのか(うかが)っても?」

 ウィルの問いに、ああ、と彼は頷いた。


「恋占いで必要だと言ってみた。私が妻を迎えないことを皆が心配していたから、目を血走らせて協力してくれた」


 とてもありがたかったと、胸に手を当ててしみじみ言う。ルカが露骨に呆れた顔になっているが、いくらなんでも失礼だろう。


「だが、そこで失敗した。別の花でもいいかと尋ねてきた部下に、私の手紙を読まれてしまった」

お読みいただきありがとうございます。(「お頭が……お頭が、恋占い……!?」)

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