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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第二部】ドルキアンの青い花

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55/93

誓いの花と恭順の儀式



    ***

    ***



 レティの懇願によってふたたび席に戻ったドルキアン領主――ギルバートは、なぜ引き留められたのか分からない様子だった。


「心配しなくとも、迷惑はかけない。信用できなければ証文を書こう」

「いえ、そういう問題ではなくてですね……。聞き間違いでなければ、先ほど『死罪』とおっしゃっていた気がするのですが……」


 なんだその事か、という顔で彼が頷く。


「それは仕方ない。この命は領民のために使うと決めている。私が花を献上できなければ、ドルキアンは存続できない。それを防ぐためには、仕方のないことだ」

「いえですから、なぜそのようなことになるのか、説明をですね」

「――(ふた)(ごころ)無き誓いの花、ですか」


 今まで黙っていたウィルが口を開いた。

 青年がわずかに目を見張った後、小さく頷く。


「そうだ。よく知っているな」

「以前に聞いたことがあります。ドルキアンの領主は、独特な方法で王家に恭順の意志を示すのだと。それができれば十年は栄華を、できなければ血染めの両手を、と言われている儀式ですね」


 なんだその物騒な名前は。


「その通りだ。領地でも私以外、ほとんど知る人間はいない。王家でも知っているのは限られた人間だけだ」

「単なる噂かと思っていましたが、事実だったとは。……ですが、死罪というのは?」


 その問いに、彼はちょっと首をかしげた。


「当然だろう。恭順の証が立てられなければ、死を(たまわ)る。そういうものだと言われている」

「いやいやいや! どう考えてもおかしいです。花が咲かなかったら死ぬなんて、花はそういうものじゃないですよ!」


 レティの言葉に、ウィルもルカも反論しない。二人とももっともだと思っているせいもあるが、正面切っては言えないのだ。


 人の心を和ませ、目を楽しませる。花にはたくさんの役割があるが、人間から見たひとつの側面がそれだ。花自身がそう思っているわけではない。


 人間のために存在しているわけではないが、人間はそれを見て楽しむ。それはそれでいいと思う。


 花を()でるという言葉がある。

 花は愛されるために存在しても、人の生き死にに関わるものではない。


「そう言われても、そういうものなのだ。それに、ドルキアンにはそうされるだけの理由がある」

「……と、言いますと?」

「今までに三回献上できなかったことがあるが、その三回とも内乱が起こった」

「……ええー……?」


 とんでもない情報が出てきた。


「未遂も含めて三回だ。偶然というにはできすぎているし、王家は形無き偶然を重んじる。花をもたらすドルキアンが、平和をももたらす。それ以来、何が何でも花を献上することが、代々のドルキアン領主の至上命題となっている」


 それなのに。


 そこで言葉を切り、ギルバートは言った。


「今年は、どうしても花が咲かなかった」


 急いで原因を調べたが、何も分からなかった。

 この花の事は公にはできない。それでも植物に詳しい人間を探し出して聞いてみた。だが、誰も理由は分からなかった。


「それはまた……」


 だが、そういう現象は往々にしてある。翌年にはまた何事もなく咲いている、といった例もある。理由は分からないが、なぜか咲かない年があるのだ。レティの持っている本にもそう書いてあった。


 ――だがそれは、翌年でも構わない場合だ。


「何代も前の領主が約束したらしい。花を献上できなければ、死をもって償うと。王家はそれを了承し、それ以来、十年に一度、花を捧げることを命じた。それが今でも続いている」

「いえ、ですが……どうしようもない場合というのがあるのでは? いくらなんでも、それは無茶な約束ですよ」

「かもしれないが、王家との約束だ。時に理不尽もあるだろう。それは仕方のないことだ」


 もうあきらめてしまっているのか、彼の瞳は凪いでいた。


「幸い、私は領主となって数年の若輩者だ。私の首を差し出し、弟が次の領主になればいい。父が名代になれば、領民もそれに従うだろう。道々考えてはいたことだ」

「考えることの方向性が暗すぎます!」

「暗くはない。ドルキアンの未来は明るい」

「そういう意味ではなくてですね……」


 どうしようと悩むレティの横で、「…天然か?」とルカが呟いている。それに肯定も否定もせず、ウィルだけは何事かを考えているようだった。


「命を落とさず、どうにかして納得していただける方法を探した方がいいのでは……?」

「それも考えたが、領主の血で(あがな)うことが条件だそうだ。例外はない。それに、下手に抵抗した場合、領民に被害が出る可能性が高い。そんな危険な賭けはできない」

「ですが、このままだと……」

「心配には及ばない、レティシア・グレーデ嬢」


 ふたたびルカの守りをあっさりと突破したギルバートが、レティの前に跪いた。


「あなたのやさしさに感謝する。緑の乙女は、他領の人間にまで慈悲の心を分け与えてくれるのだな。人生最後に会う女性が、あなたのような子供でよかった」

「いえ、あの、そうではなくてですね」

「これからやることがたくさんある。それではこれで失礼する」


 立ち上がろうとした彼に、レティは思わず叫んでいた。


「待ってください! 何か方法を考えましょう……!」

お読みいただきありがとうございます。領主、ちょっと天然系。

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