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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
【第一部】根絶やし伯爵と身寄りのない娘

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無事に一夜を明かしました



    ***



 とりあえずと言われ、レティは小部屋を与えられた。

「明日、メイド頭を紹介するよ。今日はとりあえずここで寝て。毛布はそれでいい?」

「あ、あの、ウィルさま」

「何?」

「……布団がふかふかすぎやしませんか……?」


 小ぶりだが、マロリー達が寝ていたベッドよりもはるかに気持ちいい。

 シーツは清潔で、洗い立てのいい匂いがして、布団はふかふか。毛布も軽くあたたかで、マロリーご自慢の毛布に引けを取らない。

 なぜ知っているかと言えば、レティが寝支度を調えていたからだ。母屋には出入り禁止だったが、仕事の際は別だった。

 それに沿って言うならば、この家のものは何もかも、格段に質が上だと思う。

 使用人にこれは、と思ったが、ウィルは不思議そうな顔になった。


「うちでは全員このベッドだよ。さすがに布は薄いけど、気に入らない?」

「いえまったく」

 むしろ、気持ち良すぎて寝坊しそうだ。


「長旅で疲れただろう。今日はゆっくり休むといい。おやすみ、レティ」

 そう言うと、彼は灯りを置いていなくなる。

 ひとりになった部屋で、レティはほっと息を吐いた。

 家を追い出された時はどうなる事かと思ったけれど、本当によかった。やさしい人に出会えた幸運に感謝する。

 結局あの二人が誰だったのかは、よく分からないままだったけれど――。


「……そうだ、忘れてた」

 鞄から小枝を取り出し、レティはそっと目を閉じた。


「今日も一日ありがとう。明日も元気でありますように」


 小枝がポウッと光り、乾いた表面に染み込んでいく。

 それを終えると、レティはそれを窓辺に置いた。

 小枝から立ち上った光が、すうっと夜空に消えていった。





 翌日、レティは朝日とともに目覚めた。

「……ここ、どこだっけ?」


 彼女が寝ぼけたのも無理はない。昨夜のベッドは、天にも昇る寝心地だった。

 あまりの気持ちよさに、シーツに頬ずりしたほどだ。

 小部屋には身支度用の水と(たらい)、小さな布が置かれている。ありがたく使わせてもらい、レティは着替えて外に出た。

 ここは使用人部屋らしく、屋敷の裏手に当たるようだった。


(ほんとに大きなお屋敷だわ……)


 位で言えば公爵が上だが、ボールドウィン伯爵家は例外だ。度重なる国王の要請を受けても、伯爵位に留まる変わり者の領主。ずっと以前からそんな具合で、国王への忠誠心は人一倍、権力への興味は人半分、と囁かれる異色の家だ。

 今の領主は代替わりしたばかりという事で、まだ二十代の若さらしい。

 ウィルが「いい人」と言っていたから、追い出される事はないだろう。


「ちょっと、レティってあんた?」

 振り向くと、赤毛の少女が立っていた。

 猫のような目に、薄く浮いたそばかす。膝丈のメイド服がよく似合う。明るい緑の瞳で、彼女はレティの顔を見た。


「今日から働くことになったんだよね? あたしはサンドラ。サンディって呼んで。今、メイド頭のところに案内するよ」

「ありがとう」

「あんた、幹()らしの森を抜けてきたんだって? すごいよねえ、村の男だってやらないわ、そんな危ないこと」

「ええと……そうなんですか?」

「知らないの?」


 目を丸くされ、レティは頷いた。

 この十年、町に出る事もほとんどなく、小屋と森を往復する生活を続けていたのだ。自領ならともかく、他領の森まで詳しくない。


「なるほどねえ、道理で……」

「へ?」

「ああううん、なんでもない」


 首を振るサンドラに、レティははて、と首をかしげる。

(でもそうか、危なかったのか……)

 知らなくてよかった。知っていたらさすがにためらった。


「あそこはね、どんな木も育たない呪いの森だよ。狼も出るし、蛇も出る。普通なら馬車で一気に抜けるか、大人数で対処する。まあ、道をそれなければ多少は安全だけど」

 道をそれたあげくに、そこで昼寝までしてしまった。


「あんた、よそから来たんだろ? 次からは気をつけなよ」

「はい、そうします」


 素直に頷くと、サンドラはにっと笑った。

「素直な子は大歓迎。仲良くしようね、レティ」


 それからメイド頭のところに連れて行かれ、あれこれ質問された後、無事に採用の通知をもらった。なんでも、事前に通告を受けていたせいで、ほとんど合格だったらしい。

 メイド頭は恰幅のいい中年の女性で、レティに同情してくれた。


「あんた、親がいないんだって?」

「ええ、まあ」

「ここの旦那様はおやさしいからね、あんたの面倒も見てくれるよ。仕事をしっかりやれば大丈夫だ」


 ところでと彼女――確かマーサと名乗った――が聞いた。

「あんたは何ができるんだい? 下働きの仕事は初めてじゃないようだけど」

「掃除、洗濯、食事の支度。一通りはできます。あとは……そうですね、薬草の調合とか」

「薬草?」

「簡単なものですけど。たまに人に頼まれて作ってました」


 正確に言うと、レティの腕に目をつけたマロリーが、もっと作れと命じたのだ。レティは言われるまま調合を重ね、山ほど薬を作ってきた。

 特に、パメラによく合う喘息の薬や、マロリーが好んでいた美肌の薬、ヒルダご要望のそばかす消しは、そろそろ在庫が少ないはずだ。


(フォンドア子爵と結婚するなら、もっといい薬が買えていると思うけど……)


 万が一のために、パメラの薬だけは送っておこうか。あの子は季節の変わり目に弱い。素直過ぎて天然だが、とてもいい子なのだ。美肌とそばかすは……まあいいだろう。うん、知らない。

 小さく頷いていると、「薬草ねえ」と言われた。


「そっちはあたしじゃどうにもならない。とりあえず、掃除と洗濯からやってみるかね」

「はい!」


 レティは元気よく頷いた。

お読みいただきありがとうございます。レティ、無事採用される。

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