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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と緑の令嬢

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43/93

さあ、断罪の時間です‐4


「嬢ちゃん、こんなところで何してるんだ? 今日はずいぶんきれいな恰好してるな。よく見ないと気づかなかった。村のみんなも感謝してるぞ。よかったら是非遊びに来てくれ。男爵さまんとこの小さいお嬢さまも元気かい?」

「パメラのことですか?」

「大きいお嬢さまには会ったこともねえが、小さいお嬢さまには何度も会ってる。さすがに見間違えねえよ。……ここにはいないようだけど、嬢ちゃんに会えてよかった」

「私も元気になってくれて嬉しいです!」


 レティが答えると、後ろからざわざわした声が近づいてきた。


「……あれぇ? あの時のお嬢さんじゃないか」

「今日はお姫さまみたいだな。あの時は本当に助かった。お嬢さんのおかげだよ」

「男爵さまんとこの下のお嬢さまにも感謝してるけど、あの薬もお嬢さんが作ったんだって? 知らなかったよ、ありがとう」


 現れた村人が、次々にレティを取り囲む。

 黄金の実はともかく、パメラが配っていた薬の事は誰にも話していないはずだ。そう思ってウィルを見ると、とても爽やかに微笑まれた。


(あなたの仕業でしたか……!!)


 おそらく実行したのはルカだろう。彼は村人達とも面識がある。

 身分の証には、パメラから渡されたハンカチがある。彼女の香りが染み込んだそれは、男爵家を示す刺繍が施された一品だ。


 ウィルが以前ルカに渡していた書状には、この地で起こる出来事のすべての責任をボールドウィン伯爵が取ると書かれていた。そのくらいの覚悟を持った伯爵なら、こんな根回しなど造作もない。

 彼らの手によって、次々と贈り物を渡されたレティは、見る間に果物と野菜と花まみれになった。


「半分はパメラに渡しますね。みなさんのことも伝えておきます」

「おう、そうしてくれ。絶対に村にも来てくれよ!」


 できれば下のお嬢さまにも会いたかったと、彼らがわいわいと話している。ヒルダの方には目もくれない。彼らは一様にレティに感謝し、あふれんばかりの好意と笑顔を向けていた。


 有能な従者であるルカが、てきぱきと荷物を片づけていく。

 その横では、ヒルダが顔色をなくしていた。


「……ヒルダ嬢、これはどういうことかな」

「あ、あの……」

「彼らの話では、緑の乙女はあなたではなく、そちらにいるレティシア嬢のようだが」


 フォンドア子爵の目は冷たい。老人もさすがに口をつぐんでいる。

 このままではまずいと、ヒルダは声を張り上げた。


「お……っ、覚えていないだけですわ! 彼らは熱が高かったのでしょう。私とあの子を見間違えたのです!」

「いやあ、そんなはずはねえよ」

 彼らが怪訝そうに首を振った。


「確かに熱は高かったが、黄金の実のせいで下がったんだ。その時にそばにいたのは、そっちの嬢ちゃんだった。間違いねえ」

「お黙り!! 農民風情が!!」

「百歩譲って、下のお嬢さまならまだ分かるが、あんたのことは顔も知らねえ。……そういえば、使用人のひとりが愚痴ってたな。みんなが困ってるのに遊び暮らして、残り物のひとつもやらないって。家族が病気なのに暇も取らせず、こき使っていじめる。おまけに、おんぼろの小屋に女の子を閉じ込めて、ひどい目に遭わせてるって」


「黙りなさい、黙って! これ以上でたらめを言うと、許さないわよ!!」

「――黙るのはあなただ、ヒルダ嬢」


 その時、低い声がした。


「これ以上は必要ない。婚約の話については、後日人をやろう。違約金を支払っても構わない。あなたとの縁はこれまでだ」

「お待ちください、子爵さま!」

 ヒルダが彼に追いすがる。マロリーも慌てて後に続いた。


 子爵まで失ってしまえば、この家はどうなるのか。

 贅沢なドレスも、食事も、この領地への莫大な援助も。彼らがいなくなれば、全部なしだ。

 なんとかしなければ、なんとか――。


「――確かに、結論を出すのはまだ早いかもしれません」


 その時、涼やかな声がした。

 口を開いたのはボールドウィン伯爵だった。唇には淡い笑みが浮かんでいる。

 彼らにとっては救いの言葉だ。一条の光のような希望に、三人は一斉に頷いた。


「そうですわ! ボールドウィン伯爵さまの言う通りです!」

「まだ結論は出ていない! どうかお考え直しを!!」

「本物の緑の乙女はヒルダなのです! あの子は偽者です!!」


 口々にわめきたてる彼らに、「では」とウィルは手のひらを向けた。

 この上なく優雅な動作で示された先に、枯れ大樹の姿があった。


「大樹に決めてもらいましょう。どちらが本物の乙女なのかを」

お読みいただきありがとうございます。次回、決着です。

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