さあ、断罪の時間です‐4
「嬢ちゃん、こんなところで何してるんだ? 今日はずいぶんきれいな恰好してるな。よく見ないと気づかなかった。村のみんなも感謝してるぞ。よかったら是非遊びに来てくれ。男爵さまんとこの小さいお嬢さまも元気かい?」
「パメラのことですか?」
「大きいお嬢さまには会ったこともねえが、小さいお嬢さまには何度も会ってる。さすがに見間違えねえよ。……ここにはいないようだけど、嬢ちゃんに会えてよかった」
「私も元気になってくれて嬉しいです!」
レティが答えると、後ろからざわざわした声が近づいてきた。
「……あれぇ? あの時のお嬢さんじゃないか」
「今日はお姫さまみたいだな。あの時は本当に助かった。お嬢さんのおかげだよ」
「男爵さまんとこの下のお嬢さまにも感謝してるけど、あの薬もお嬢さんが作ったんだって? 知らなかったよ、ありがとう」
現れた村人が、次々にレティを取り囲む。
黄金の実はともかく、パメラが配っていた薬の事は誰にも話していないはずだ。そう思ってウィルを見ると、とても爽やかに微笑まれた。
(あなたの仕業でしたか……!!)
おそらく実行したのはルカだろう。彼は村人達とも面識がある。
身分の証には、パメラから渡されたハンカチがある。彼女の香りが染み込んだそれは、男爵家を示す刺繍が施された一品だ。
ウィルが以前ルカに渡していた書状には、この地で起こる出来事のすべての責任をボールドウィン伯爵が取ると書かれていた。そのくらいの覚悟を持った伯爵なら、こんな根回しなど造作もない。
彼らの手によって、次々と贈り物を渡されたレティは、見る間に果物と野菜と花まみれになった。
「半分はパメラに渡しますね。みなさんのことも伝えておきます」
「おう、そうしてくれ。絶対に村にも来てくれよ!」
できれば下のお嬢さまにも会いたかったと、彼らがわいわいと話している。ヒルダの方には目もくれない。彼らは一様にレティに感謝し、あふれんばかりの好意と笑顔を向けていた。
有能な従者であるルカが、てきぱきと荷物を片づけていく。
その横では、ヒルダが顔色をなくしていた。
「……ヒルダ嬢、これはどういうことかな」
「あ、あの……」
「彼らの話では、緑の乙女はあなたではなく、そちらにいるレティシア嬢のようだが」
フォンドア子爵の目は冷たい。老人もさすがに口をつぐんでいる。
このままではまずいと、ヒルダは声を張り上げた。
「お……っ、覚えていないだけですわ! 彼らは熱が高かったのでしょう。私とあの子を見間違えたのです!」
「いやあ、そんなはずはねえよ」
彼らが怪訝そうに首を振った。
「確かに熱は高かったが、黄金の実のせいで下がったんだ。その時にそばにいたのは、そっちの嬢ちゃんだった。間違いねえ」
「お黙り!! 農民風情が!!」
「百歩譲って、下のお嬢さまならまだ分かるが、あんたのことは顔も知らねえ。……そういえば、使用人のひとりが愚痴ってたな。みんなが困ってるのに遊び暮らして、残り物のひとつもやらないって。家族が病気なのに暇も取らせず、こき使っていじめる。おまけに、おんぼろの小屋に女の子を閉じ込めて、ひどい目に遭わせてるって」
「黙りなさい、黙って! これ以上でたらめを言うと、許さないわよ!!」
「――黙るのはあなただ、ヒルダ嬢」
その時、低い声がした。
「これ以上は必要ない。婚約の話については、後日人をやろう。違約金を支払っても構わない。あなたとの縁はこれまでだ」
「お待ちください、子爵さま!」
ヒルダが彼に追いすがる。マロリーも慌てて後に続いた。
子爵まで失ってしまえば、この家はどうなるのか。
贅沢なドレスも、食事も、この領地への莫大な援助も。彼らがいなくなれば、全部なしだ。
なんとかしなければ、なんとか――。
「――確かに、結論を出すのはまだ早いかもしれません」
その時、涼やかな声がした。
口を開いたのはボールドウィン伯爵だった。唇には淡い笑みが浮かんでいる。
彼らにとっては救いの言葉だ。一条の光のような希望に、三人は一斉に頷いた。
「そうですわ! ボールドウィン伯爵さまの言う通りです!」
「まだ結論は出ていない! どうかお考え直しを!!」
「本物の緑の乙女はヒルダなのです! あの子は偽者です!!」
口々にわめきたてる彼らに、「では」とウィルは手のひらを向けた。
この上なく優雅な動作で示された先に、枯れ大樹の姿があった。
「大樹に決めてもらいましょう。どちらが本物の乙女なのかを」
お読みいただきありがとうございます。次回、決着です。




