さあ、断罪の時間です‐2(こんな話は聞いてません)
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面白いので――もとい、そのころのレティの様子が気にかかるので、少しだけ時間を巻き戻してみよう。
ウィルがああ言った時、レティは思わず呟いた。
「……は?」
と。
どうしよう。
レティは冷や汗を浮かべていた。
ウィルが馬車を降りる直前、意味ありげな笑みを浮かべていたのを思い出す。
「レティはまだ降りなくていいよ」と言われてほっとしていたが、予想外の展開が待っていた。こんな話は聞いていない。
(どどど、どうしよう……?)
だが、無視するわけにはいかない。
ここに来ると決めたのはレティだ。何が起ころうと、絶対に逃げないと決めていた。
(……でも、あの)
――緑の乙女なんて聞いてないですけども!?
「さあ、どうぞ」
馬車の扉が開き、まぶしい光が差し込んでくる。
すぐそばにあったのはルカの顔だ。どうやら、扉を開けてくれたのは彼らしい。
彼はにやっと笑って片目をつぶり、(がんばれよ)と唇だけで言ってくれた。
(う、嬉しそうな顔をして……!)
絶対に面白がっている、この人。
でも、緊張がほぐれたのも事実だった。
小さく頷き、レティは彼の手を取った。
一歩歩くたびに、さらさらとドレスの裾が揺れる。
とても薄い生地を使い、花びらのように重ねてあるのだ。
この間のドレスを仕立て直し、さらにレティの体に合うように作り変えた。今はもっと色が透け、動くたびに軽やかにひるがえる。
ぽかんとした彼らの前で、レティは足を止めた。
「お初にお目に掛かります。ボールドウィン伯爵閣下の要請を受けて参りました。ご挨拶することをお許しください」
流れるような淑女の礼に、ほうっと感嘆の吐息が漏れる。
ドレスの裾を踏まないでほっとした。口上も噛まずに言い切った。
なんのための特訓か分からなかったが、まさかこのためだったとは。いやむしろ、気づけ自分。
一度目を伏せて上げた先に、数名の人間が立っていた。
ヒルダとマロリーは知っている。その横にいるのがグレーデ男爵だ。以前よりちょっと太った気がする。
すぐそばにいるのはウィルとルカ。ウィルは微笑み、ルカは真面目くさった顔でこちらを見ている。どちらも正装しているせいで、目のやり場に困るほど格好いい。
その向こうにいるのがフォンドア子爵だろう。鋭い目をした、寡黙な雰囲気の青年だ。だが、嫌な感じはしない。もうひとりは彼の祖父だろうか。ここからでは顔が見えないが、杖をついているのは分かった。
彼らに目をやってから、レティは改めて自己紹介した。
「レティシア・グレーデと申します。先代男爵の娘です」
さあ――始まりだ。
お読みいただきありがとうございます。というわけで、足踏み回をお届けしました。一行しか進んでねーじゃねーかという方、すみません。次回はもっと長めです。




