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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と緑の令嬢

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37/93

足音が聞こえてまいりました



    ***

    ***



 それと同じころ、一台の馬車がグレーデ領に向かっていた。


 御者を除けば、乗っているのは三人。ウィルとルカともうひとりだ。

 ウィルは正装に身を包んでいる。襟の高いシャツと、艶のあるブーツが美しい。上着は見るからに上等な布地で仕立てられ、黒い帽子がよく似合う。その上から羽織ったコートには、金の縁取りがついていた。


「さすが外側だけは完璧だな。いつ見ても感心する」

「お褒めに預かって光栄だけど、それはお互い様だろう?」


 ルカも今日は畏まった服装だ。髪も綺麗に整えて、有能な従者に徹している。向かい合って話す彼らに、ウィルの隣にいた少女がおそるおそる問いかけた。


「……あ、あのう、それでどうして、私がこのような恰好を……?」

「すごく似合うからだよ」

「ああ、似合ってる。駄馬にも装飾だが、馬がいいなら衣装も映える」

 二人が真面目に口をそろえる。そういう事を聞いているんじゃない。あとルカは多分、褒めてない。


「心配しなくても、悪いようにはしないよ」

 ウィルがやさしく微笑んだ。


「ただちょっと色々思うところがあるので、あれこれさせてもらうけど」

「それが怖いんですよ!」

「心配すんな、チビ。こいつはやると言ったことはきっちりやる」

「同じじゃないですか!」


 レティが叫んだが、二人とも聞く耳は持たないようだ。

 ため息をつき、レティは馬車の中で小さくなった。

 これから何が起こるのか分からないが、どうやら良い事ではないようだ。


「大丈夫、気楽にしてて」

「そうそう、悩んでもどうせ逃げられないしな」

「お二人は私を慰めているのか追い詰めているのか、どっちなんです……?」


 答える声は、もちろんなかった。



    ***



 日がもう少し高くなったころ、一台の馬車がグレーデの屋敷を訪れた。


「よくいらっしゃいました、ボールドウィン伯爵さま……あら?」

「突然すまないが、お邪魔する」

 馬車から降り立ったのは、今日は約束がないはずのフォンドア子爵だった。


「一応、先触れは出したのだが……届いていなかっただろうか?」

「は、あの、いえ……」

「先約があれば辞退したいところだが、今日はそうもいかない。実は、紹介したい相手がいる」

 そう言うと、子爵は馬車の中にいる人物を振り返った。


「私の祖父だ。ヒルダ嬢の話をしたら、どうしてもその大樹を見てみたいと言い出して。老人のわがままだが、できれば叶えてやりたい。――可能だろうか?」


 フォンドア子爵の祖父と言えば、絶対に粗相のできない相手だ。よりによって今日に! と思ったが、もちろん顔には出せなかった。

 ボールドウィン伯爵の到着はまだ先だろう。そうであるなら、さっさと大樹に案内して、その後は屋敷で歓待しよう。ヒルダとマロリーは、隙を見つけて抜け出せばいい。相手役には男爵ひとりで事足りる。


(それに)


 考えようによっては、これは好機と言えなくもない。


 ここでヒルダが気に入られれば、子爵家との繋がりができる。婚約が解消になった後も、できれば付き合いは続けていきたい。枯れ大樹に興味を持つフォンドア(おう)ならば、十分に希望がある。うまくすれば、宝石のひとつでも買ってくれるかもしれない。

 一瞬でそう計算すると、マロリーは満面の笑みを浮かべた。


「まあ、まあまあ! ようこそおいでくださいました。何やら手違いがあったようですが、もちろん、子爵さま方ならいつでも歓迎いたしますわ」

「ご厚意に感謝する。少し腰が痛むそうなので、馬車を使っても構わないだろうか?」

「もちろんです! こちらへどうぞ」


 できればさっさと厄介払いをして、その上で顔を繋ぎたい。

 笑顔のまま、マロリーは先に立って歩き出した。

お読みいただきありがとうございます。フォンドア子爵、老け顔だけど意外と若いです。

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