そのころの彼女達は 5
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それからしばらく後の、グレーデ領では――。
「……なんだか、まだ肌がカサカサするわ」
鏡の前に座り込んだマロリーが、眉間に深いしわを寄せた。
「もっとたくさん飲まないと。今までのより効果が薄いんですもの、じゃんじゃん飲まないと駄目なのよ。塗り薬もたっぷり塗らなくちゃ。そうでしょ、お母さま?」
ヒルダがせっせとそばかす消しを塗り込んでいる。吹き出物はまだあるが、そちらまで手が回らない。
「だけど、とっても高いじゃない。まったく、あの子がいれば使い放題だったのに……」
レティの作っていた美肌の薬は、保存が利かない分効果が高く、毎日のように作らせていた。飲み薬も数日ごとに用意させていた。それを心ゆくまで使っていたのだ。おかげで毎日、肌は輝くようだった。
この間、ボールドウィン領で渡してもらった美肌の薬は、以前に比べて効果が落ちる。そのためか、同じだけ使っていても物足りず、肌の回復も遅い。
本当に忌々しい。あの子が見つかれば、即座に薬を作らせるのに。
あれからずいぶん捜したが、とうとうレティは見つからなった。もしかすると、本当に野垂れ死にしてしまったのかもしれない。
ボールドウィンの森は不毛の地という。あそこに置き去りにしたのだから、おそらく無事ではないだろう。もったいない事をしたものだと思うが、あの時は仕方なかった。
生きていたとしても、まともな暮らしは望めまい。せいぜいが下働きか召使い、よくて侍女、悪くすれば物乞いだ。
そう思うと、少しは溜飲が下がった。
「もっと素敵なアクセサリーはないかしら。今日はボールドウィン伯爵さまがいらっしゃるのよ。ああ、もう、パメラに渡してしまったあの指輪、あれがあれば少しはマシなのに」
「私のブレスレットもよ。でもまあ、仕方ないわ。他にも素敵なものがいくつもあるもの。それよりドレスは? うまくすれば、伯爵さまに見初められて、お前が結婚相手に選ばれるかもしれないわ」
「そうなったら素敵。以前に見た時、わたくしを熱っぽい目で見ていらしたもの。もしそうなら、フォンドア子爵から奪い取ってくれないかしら。領地の規模なら向こうの方がずっと大きいし、お金を出せば話がつくわ」
「そのためにも綺麗にならないとね、ヒルダ」
ルカが聞いていたら、頭は大丈夫かと言ったに違いない。けれど、二人は心からそれを信じていた。
「そういえば、村人が変なことを言っていたわね」
パメラが何やら世話をしに通っていたのは知っていたが、病気が移った事で隔離し、今も家族との接触はほぼない。使用人を通じて叱責したが、本当にあの子は扱いにくい。一体誰に似たのだろうか。
村人はパメラへのお礼を口にしたが、その際に妙な事を言っていた。
――もうひとりのお嬢さんにもお礼を言ってください。とても助かりました――
「もうひとりの娘って、ヒルダのことかしら?」
「そうでしょう。パメラが勝手にやったことだけど、わたくしも手伝ったと思っているのよ。ちょうどいいから、勘違いさせておきましょう」
「領主の娘が心やさしく村人を見舞ったと知ったら、ボールドウィン伯爵さまも心を打たれるに違いないわね」
心を打たれるどころか、腹の皮がよじれて苦労するだろう。何しろ本人がその場にいた。途中で別れたとはいえ、詳細はルカから聞いている。
「夢がふくらむわね、ヒルダ」
「そうね、お母さま」
知らないというのは幸せな事だ。
二人はドレスを選ぶため、使用人を呼びつけた。
お読みいただきありがとうございます。男爵家他の三人はいたって元気です。




