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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と黄金の果実

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36/93

そのころの彼女達は 5



    ***

    ***



 それからしばらく後の、グレーデ領では――。


「……なんだか、まだ肌がカサカサするわ」

 鏡の前に座り込んだマロリーが、眉間に深いしわを寄せた。


「もっとたくさん飲まないと。今までのより効果が薄いんですもの、じゃんじゃん飲まないと駄目なのよ。塗り薬もたっぷり塗らなくちゃ。そうでしょ、お母さま?」

 ヒルダがせっせとそばかす消しを塗り込んでいる。吹き出物はまだあるが、そちらまで手が回らない。


「だけど、とっても高いじゃない。まったく、あの子がいれば使い放題だったのに……」


 レティの作っていた美肌の薬は、保存が利かない分効果が高く、毎日のように作らせていた。飲み薬も数日ごとに用意させていた。それを心ゆくまで使っていたのだ。おかげで毎日、肌は輝くようだった。

 この間、ボールドウィン領で渡してもらった美肌の薬は、以前に比べて効果が落ちる。そのためか、同じだけ使っていても物足りず、肌の回復も遅い。

 本当に忌々しい。あの子が見つかれば、即座に薬を作らせるのに。


 あれからずいぶん捜したが、とうとうレティは見つからなった。もしかすると、本当に野垂れ死にしてしまったのかもしれない。


 ボールドウィンの森は不毛の地という。あそこに置き去りにしたのだから、おそらく無事ではないだろう。もったいない事をしたものだと思うが、あの時は仕方なかった。

 生きていたとしても、まともな暮らしは望めまい。せいぜいが下働きか召使い、よくて侍女、悪くすれば物乞いだ。

 そう思うと、少しは溜飲が下がった。


「もっと素敵なアクセサリーはないかしら。今日はボールドウィン伯爵さまがいらっしゃるのよ。ああ、もう、パメラに渡してしまったあの指輪、あれがあれば少しはマシなのに」

「私のブレスレットもよ。でもまあ、仕方ないわ。他にも素敵なものがいくつもあるもの。それよりドレスは? うまくすれば、伯爵さまに見初められて、お前が結婚相手に選ばれるかもしれないわ」


「そうなったら素敵。以前に見た時、わたくしを熱っぽい目で見ていらしたもの。もしそうなら、フォンドア子爵から奪い取ってくれないかしら。領地の規模なら向こうの方がずっと大きいし、お金を出せば話がつくわ」

「そのためにも綺麗にならないとね、ヒルダ」


 ルカが聞いていたら、頭は大丈夫かと言ったに違いない。けれど、二人は心からそれを信じていた。

「そういえば、村人が変なことを言っていたわね」


 パメラが何やら世話をしに通っていたのは知っていたが、病気が移った事で隔離し、今も家族との接触はほぼない。使用人を通じて叱責したが、本当にあの子は扱いにくい。一体誰に似たのだろうか。

 村人はパメラへのお礼を口にしたが、その際に妙な事を言っていた。



 ――もうひとりのお嬢さんにもお礼を言ってください。とても助かりました――



「もうひとりの娘って、ヒルダのことかしら?」

「そうでしょう。パメラが勝手にやったことだけど、わたくしも手伝ったと思っているのよ。ちょうどいいから、勘違いさせておきましょう」

「領主の娘が心やさしく村人を見舞ったと知ったら、ボールドウィン伯爵さまも心を打たれるに違いないわね」


 心を打たれるどころか、腹の皮がよじれて苦労するだろう。何しろ本人がその場にいた。途中で別れたとはいえ、詳細はルカから聞いている。


「夢がふくらむわね、ヒルダ」

「そうね、お母さま」


 知らないというのは幸せな事だ。

 二人はドレスを選ぶため、使用人を呼びつけた。

お読みいただきありがとうございます。男爵家他の三人はいたって元気です。

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