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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と黄金の果実

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27/93

新たな出会いがありました



    ***

    ***



 彼らがそんな事をしているとはつゆ知らず、レティは今日も働いていた。

 薬草を刻んで煮詰め、すり潰し、あるいは干して、必要な薬を調合する。

 マロリーとヒルダに渡したのは、いつも使っていた美肌の薬だった。


 遠目からでも二人の肌は荒れていた。先日押しかけてきたのも、そのせいに違いない。

 そもそも、食事や生活習慣を変えれば大分ましになるはずだが、二人とも聞く耳を持たなかった。こうなっては、薬もそこまで効果がない。努力も多少は必要だ。


(まあ、少しはよくなると思うけど……)


 これでもう来ないでほしい。

 なんなら販売しているので、今後はそちらで買ってほしい。

 そう思っていると、「こんにちは、お嬢さん」と声をかけられた。


「突然すまないね。お嬢さんが、ここの領主さまのお抱え薬草師さんかい?」

「は、はい。そうです」

「ずいぶん若いんだね。こんな子供が、あんなにすごい薬を作れるのか」


 立っていたのは、農夫姿の老人だった。

 腰が曲がり、大きめの杖をついている。みすぼらしい恰好をしているが、知的な目は好奇心に輝き、白いひげを蓄えた口元には笑みがある。レティもスカートをつまんで挨拶した。


「初めまして、レティシアと申します。……あの、何かご用では?」

「分かるのかい?」

「よくいらっしゃいますから。ウィルさま……ボールドウィン伯爵も、許可を出してくださいました」

 普通なら考えられないが、何しろお客の数が多い。促すと、彼はちょっと眉を下げた。


「実は、腰が痛くてね。夜も眠れないんだよ」

「それはお気の毒に。どのように痛みますか?」

「立ったり座ったりすると、針で刺されたように痛むんだ。年齢のせいだと言われたがね。どうにも辛くて」

「でしたら、湿布が効くかもしれませんね。ちょうどできたばかりのがあるから、よかったら使ってみてください。飲み薬もお出しします」


 湿布は頼まれる事が多かったので、作り置きも多少はある。飲み薬も包むと、彼は困った顔になった。


「だがね、お嬢さん。わしはこの通り、払えるものがないんだよ」

「かまいませんよ。伯爵がそれでいいとおっしゃるので」

「伯爵が?」

「少しずつ薬が行き渡って、みんなが元気になるのがお望みだそうです。私もいいと思います!」

 老人は目を丸くしていたが、やがて相好を崩すと、丁寧に頭を下げた。


「ありがとう、お嬢さん。とても助かるよ」

「どういたしまして」

「よかったら、何かお礼がしたいな。わしにできることはないかい?」

 遠慮しようと思ったが、ふとレティは思い直した。


「おじいさんは、植物のことに詳しいですか?」

「ああ、まあ、一応は」

「でしたら、見てほしいものがあるんです」





 老人を連れてきたのは、枯れ大樹の枝を植えた場所だった。

「これは……?」

「枯れていますが、生きてます。といっても、本体は別の場所にありますが」


 グレーデの人間ならともかく、ボールドウィン領で枯れ大樹の話をしても通じない。出身地は伏せたまま、かいつまんで事情を説明し、枯れ枝から光が飛ばない事を話した。


「向こうで何かあったんじゃないかと思ったんですが、どうもそうではないようですし。思えばこの土地も、少し妙なところがあって」

「妙なところ、とは?」

「うまく言えないんですが……もっと元気になるはずなのに、その勢いがせき止められているというか、どこかに蓄えられているような、変な感じで」


 本来ならば領地に還元されるはずのエネルギーが、どこかで止まっている感じだ。

「……なるほど。地力()まりかな」

「地力溜まり……ですか?」

 初めて聞く言葉だ。老人は軽く頷いた。


「ボールドウィン領に限らないが、この国にはままあることでね。どこか一か所に大地の力が溜まってしまい、他の場所に行き渡らなくなるのさ。人々は呪いのせいなどと言うがね。わしらにしてみれば、自然のいたずらさ」

「どうしたらいいんでしょう?」

「地力溜まりには二つの原因がある。ひとつは土地の均衡が悪いこと。もうひとつは、溜めておかなければならない理由がある場合だ」


 そちらの方は厄介だと、老人が顎をなでる。


「理由があってそうしているから、何を改善しても意味がない。多少は改善するだろうがね。厄介なことに、人間がしたわけでもないから、我々にはどうしようもない。大いなるお力のなさることだよ」

「……じゃあ、どうにもならないんですか?」

「そうは言っていないよ、お嬢さん」

 老人はしわだらけの顔で微笑んだ。


「その理由が解決すれば、地力溜まりも解消される。そうすれば問題はなくなるだろう。ただし、地力溜まりの原因が貯蓄――そうだな、発芽や成長のためだとしたら、目的を果たせば、溜まっていた力が空っぽになってしまうがね」

 それはそれで必要な事だと、老人は丁寧に教えてくれた。


「それだけの力が必要なくらい、大切なものということだよ。わしの見たところ、土地の均衡は悪くない。もう少し待ってみてもいいんじゃないかね?」

「そうですか……」

 彼の言葉には重みがあった。長年土に触れている人間の意見だ。聞いておくべきかもしれない。


「ところで、その枯れ枝は……もしかすると、グレーデ領にある、伝説の?」

「ご存じなんですか?」

 レティの目が丸くなる。老人はもっと目を見張っていた。


「なるほど……。先ほど話を聞いた時、妙な気がしたものだが。やはりそうだったのか。これが、あの失われた緑の大樹の枝……」

「いえ、あの、枯れ枝ですが」

「そんなことは問題ではないのだよ、お嬢さん」


 老人の目はきらきらと輝いている。先ほどとは違う意味で、好奇心を刺激されているらしい。


「大樹の枝は、領地の外に持ち出すことができない。できてもすぐに枯れてしまう。本来の意味でね。持ち出すことができるのは、グレーデ領主の血を引く人間だけだ」

「そうなんですか?」


 初めて聞いた。

 触っても? と聞かれ、レティは頷いた。


「根がついているわけではないのだね。それでいて、土によく馴染んでいる。一見枯れているようだが、本当には枯れていない。まさかもう一度、この枝を見ることになろうとは……」

「おじいさん、枯れ大樹を見たことがあるんですか?」

「ほんの子供のころにね」


 あの時と同じだと、大切そうに枝に触れる。


「この枝はお嬢さんのことが好きなようだ。光が飛ばないのも、何か理由があるんだろう。その時が来れば分かるはずだ。大丈夫だから、待っているといい」

「はい!」


 レティは元気よく頷いた。

お読みいただきありがとうございます。アドバイスをいただきました。

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