結論としましては(兼、密談の時間)
「レティはどうしたい?」
そう聞かれ、レティは一瞬戸惑った。
「私は……」
改めて聞かれると言葉に詰まる。そういえば、考えてみた事はなかった。
「君が望むなら、男爵家に罰を与えることもできる。先代男爵の娘を虐げたあげく、身ひとつで追い出すなんて、王宮に知られたらただじゃすまない。少なくとも、無罪放免にはならないと思うよ」
「実力行使でぶっ飛ばしたいなら、多少の指南はしてやれる」
それぞれ言われ、レティはちょっと返答に困った。
そりゃあ――もちろん。
彼女達に思うところがないわけではない。両親を亡くした直後のレティに、彼らの仕打ちはひどすぎた。形見の品も取られたままだし、領地に入ったら逆さ吊りだ。お腹はずっと空いていたし、着るものだってなかった。森で食べ物が手に入らない日は、干しキノコをかじって生き延びた。
思い返せば色々ある。水に流せないものもある。――けれど。
「別にいいです。ここで暮らせれば、それで」
「……本当にいいのかい?」
ウィルが探るように尋ねる。
「半殺しまではいいと思うぞ。俺が九分の四くらいまではやっておくから」
それはほとんど半分殺している。あとそこから半分にするのは難しいな?
二人の好意に礼を言い、でも、とレティは首を振った。
「本当にいいんです。今はお腹いっぱい食べられますし、布団もふかふかで眠れますし。形見だけは戻ってきたらいいなって思いますけど……でも、サンディもマーサもいい人で、領内の人たちもやさしくて、ものすごく恵まれているので、もういいです」
「……うん、そうか」
ウィルがちょっと目を伏せる。それから――見とれるほど綺麗な微笑を浮かべた。
「分かったよ、レティ」
「マジかお前」
盛大な舌打ちをしたものの、ルカも文句はないようだ。多分、あっても主が止めてくれる。……と、思う。
「でも、ちゃんと君を引き受ける保障が必要だ」
「保障……ですか?」
はて、と首をかしげると、ウィルがやさしい口調で言った。
「グレーデ男爵の口から、君を手放すと言ってもらうんだ。そうすれば、正式に君を引き取ることができる」
「だな。そうすりゃ余計な面倒がない」
「へ……」
「幸い、僕は一度あちらに行く用事がある。その時に同行してもらうことになるけど、それはいいかな?」
「それは、まあ……」
逆さ吊りだけが心配だが、ウィルと一緒なら、さすがに吊るされる事はないだろう。
それに、正式に認めてもらえるのはありがたい。
不安と安全を秤にかけて、レティはこくりと頷いた。
「分かりました。お供します」
***
***
その夜、領主の部屋に引き揚げた二人は、無言で何かを共有していた。
レティはああ言ったが、彼らにはそんなつもりはさらさらなかった。
彼女の身体が小さいのも、びっくりするくらい痩せていたのも、あの一家が原因だった。今は多少ましになったが、それでも華奢だ。レティは太ったと言っているが、同年代の少女と比べてもまだ細い。
おまけに、あれだけの薬草の知識と調合能力だ。その労力を搾取し、無料無休でこき使っていたなど、信じられない暴挙である。
「……あれを無罪放免は、ないな」
ウィルがポツリと呟いた。
「ああ、ない」
ルカも即座に頷く。こちらも戦闘態勢万全だ。
そもそも、初めて見た時から気に食わなかったのだ。あの二人の姿を見た途端、レティが一瞬固まったのは見逃さなかった。すぐに元に戻ったものの、あの一瞬で十分だった。
彼女が貴族の令嬢かもしれないと指摘したのはウィルだった。まさかと思ったが、そう考えれば納得がいった。
だが、まだ分からない事があった。
貴族の令嬢がボロ布をまとい、あんな森で、たったひとりで、供もつけずに歩いていた理由。
そして、どう見ても年齢相応には見えないほど栄養が少なく、お腹を減らしていた理由。
「お前の命令があったら、問答無用で叩き出してるところだった。……で? 何考えてる?」
「言わなきゃ分からないとは思わなかった。君はそんなに無能だっけ?」
「……言ってくれるな」
ルカが獰猛な顔で笑う。ウィルもゆったりとした笑みを返した。
「目的は二つ。レティを完全に自由にすることと、あの一家に相応の報いを与えること。方法は任せる――と言いたいところだけど、ひとつ、考えていることがあるんだ」
「なんだ?」
「耳を貸して」
言われるまま耳を近づけたルカに、こしょこしょと囁く。ルカは目を丸くして、それから人の悪い笑顔になった。
「さすが天然腹黒伯爵。それでこそ俺の主人だな」
「一言余計だよ、ルカ。それで? 手配できる?」
挑戦的に言った彼に、ルカは恭しく膝をついた。
「――仰せのままに。ご主人様」
お読みいただきありがとうございます。あと18分の1、かな。




