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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と嵐の到来
21/93

こんな方は知りません

 最初にレティの口から出たのは、「……誰ですか?」という感想だった。


「ウィルフレッド様ですよ。よく一緒にお茶を飲んでいるでしょう」

「ウィルさまはもっとこう、ほわほわして、やさしくて、おいしいものを食べさせてくれる人で……」

「うん、間違ってはいませんが、ものすごく偏った人物評ですね」


 見てください、と青年が言う。


「あれが領主、ひいてはボールドウィン伯爵としての『顔』です。ルーカス様と同様の(そと)(づら)ですが、これがもう、効果てきめんで」

 しみじみと彼が頷いているが、レティはそれどころではなかった。


 ルカは見た事のない顔で笑っているし、マロリーとヒルダは簡単に丸め込まれるし、ウィルに至っては別人だ。どうなっているのかと思ったが、どうも夢ではないらしい。


(信じられない……)


 唖然とするレティをよそに、ようやく我に返ったらしいマロリーが口を開いた。


「と……突然の訪問にもかかわらず、お会いしていただけて感謝しておりますわ。実はわたくしどもの家の娘が、こちらにお世話になっているとうかがったものですから」

「娘……ですか?」

「レティシアという名前ですの。レティシア・グレーデ。今年十六になる痩せっぽちの子で、みすぼらしい姿をしておりますわ。髪は小麦色、目の色は緑で、薬草の調合が得意ですの」

「十六歳……」


 少し考える顔になった後、ウィルは小さく首を振った。


「残念ですが、何かの間違いでは? 当家にそのような人間はおりませんが」

「そんなはずはありません。こちらの領地で最近出回っているという数々の薬! あれはレティが作ったものに違いありません。わたくしには分かります!」

「レティシア嬢は、貴族の令嬢なのでしょう? そのような方が、薬草の調合を?」

「い、いえ、あの、本人の趣味でして……」


 しまったとマロリーが口をつぐむ。


「なぜそのように思われるのか、見当もつきません。未婚の令嬢を、理由もなく他家に留め置くということは、年頃の令嬢にとって醜聞にも等しいはずだ。それとも――ボールドウィンが、そのような真似をしたとでも?」

「い……いえ、そういうわけではないのですけれど……」


 静かな口調に、マロリーの勢いがなくなっていく。


「それに、確か社交界でお披露目があったのは、そちらのご息女だけだったのでは?」


 若草色の瞳を向けられ、ヒルダがかすかに息を呑む。宝石のようにきらめく色は、ただ見つめられるだけで迫力があった。


「え……ええ。それは、そうなのですが……」

「あいにく、当家にも同じ名前の少女がおりますが、どう見積もっても十四歳以下だ。その子は薬草の調合が得意で、ずいぶん役に立ってくれていますよ。せっかくならと、領民にも配っているんです。その薬がよく似ているというなら、そうですね。参考にしていた本が同じだったのでは?」


「それは……」

「そもそも、どうして今さら? 人探しの話によれば、レティシア嬢が姿を消したのはひと月以上も前のはずだ。それだけの間放置していた相手を、なぜ今ごろになって探すんです?」

「それは、肌が……」


 言いかけて、ヒルダがはっと口をつぐんだ。


「肌?」

「いえ、なんでもございません」


 遠目からではよく分からなかったが、ヒルダの肌はそばかすが目立ち、マロリーもいつもより化粧が濃いようだった。髪もなんだか艶がなく、首筋の色もくすんでいる。


(……なるほど……)

 彼女達が来た理由が分かった気がした。


「すみません、ちょっと席を外します」

「レティ?」

「暴れるようなら呼んでください。すぐ戻ります」


 そう言うと、レティは身をひるがえした。



    ***



 必要なものを持って戻る途中、入口の方が慌ただしくなった。


(おや……?)


 一体何の騒ぎだろうか。

 興味を覚えたものの、それどころではないと思い直し、レティはふたたび歩き出した。

 部屋に戻ると、彼らは和やかに談笑していた。


「ただいま戻りました。あの、これをあの二人に――」

「どこに行ってたんですか!」

 慌てた顔の青年に出迎えられ、レティは目をぱちくりさせた。


「はい?」

「先ほど指示がありました。急ぎますよ、早く支度にかかりましょう。向こうの部屋に行ってください!」

「いえ、あの、これをあそこにいる二人に――」

「あとでお渡ししておきます。急いで!」


 急き立てられ、よく分からないまま頷く。

 指定された部屋に行くと、そこでレティは目を見張った。


「……え?」


 これは、一体。

 ぽかんとしたレティの後ろから、黒い影が近づいてきた。

お読みいただきありがとうございます。外面は大事です(ウィル談)。

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