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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と嵐の到来

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18/93

リンゴ飴をいただきました



    ***

    ***



 それからも、ボールドウィンの領地は少しずつ回復していた。


 作物の実りは徐々に良くなり、収穫量も増えてきた。まだ課題は多いものの、今までよりはずっとましだ。生で食べられるものが増えれば、それだけ料理の種類も増える。ただでさえ加工技術が発達していた領地では、ちょっとしたご馳走祭りになっていた。


 ただし、劇的な改善ではない。

 目に見える対策には限度がある。実際、できる事はすべて試している。その結果、これだけの成果が出たのなら、まずは及第点かもしれない。


 ――けれど。


(普通なら、もっと効果があってもおかしくないはずなのに。どうも、反応が鈍い気がする……)


 うーんと考え込みながら、レティは薬を作っていた。最近では予防薬の人気が高い。特に、「咳流行り」は夏でも重篤化する厄介な病気だ。多めに作っておくに越した事はない。


 グレーデではほとんど被害がなかったが、ボールドウィンでは毎年流行っているらしい。今年もそろそろだが、薬草入りの飴の効果か、まだ(かか)った人間はいないそうだ。


 パメラは大丈夫だろうか。一応、喘息の薬に加えて、飴もどっさり送っておいたが。

 それに、とレティは手を止めた。


 今は屋敷の庭。薬草を植えた一角から少し離れた場所に、枯れた枝が刺さっている。

 相変わらず光は飛ばないが、枝そのものは生き生きしている。


 よくよく注意して見ると、一応祈りは吸収していた。光が生まれ、消える。もしかすると、受け付けなかったのではなく、ただ飛ばすのをやめただけかもしれない。


 では、その光は一体どこへ?

 考えても分からないので、レティは薬を作っている。


「よう、チビ」


 頭上に影が差したと思ったら、外出着姿のルカがいた。黒髪に深い青色の乗馬服がよく似合っている。


「ルカさま」

「出かけたんで土産持ってきた。食うか、リンゴ飴」

「いただきます!」


 両手を差し出すと、彼はまじまじとレティを見た。


「……うん、だな。やっぱり違うか」

「どうかしたんですか?」

「あーいや、人探しの要請なんだが、まだ見つかっていないらしくて。お前と名前が一緒だから、ちょっと気になったんだよ」


 ほら、とレティの手に紙包みを載せてくれる。中に入っているのは棒付きの飴だ。小さなリンゴを棒に挿し、薄い飴で覆っている。カリッとした飴の部分と、甘酸っぱい果実の相性が抜群だ。今までは生のリンゴを菓子に使う事が難しかったが、最近はこうした加工も増えた。実に、実に喜ばしい。


「マーサ達にはもう渡してあるから、それ全部食っていいぞ」

「ありがほうございまふ!」

「ってもう食ってんのか! 早いなおい!」


 だってとてもいい匂いがして、待ちきれない。

 幸せそうな顔でリンゴ飴を頬張るレティを、彼は無言で見つめていた。何か言いたげだが、口は開かない。というかこの人も餌付けしてくる。


「お前じゃ年齢が合わないしな。報告するまでもないか。どうだ、旨いか?」

「とてもおいしいです!」

「出先でもらった揚げ菓子があるんだが、これも食うか?」

「ありがたくいただきます!」


 揚げ菓子を食べている最中、無言で頭をなでられた。

 目を上げると、はっとしたように手を引っ込める。


「悪い。ジョセフィーンに似ていたもんで、つい」

「いいですよ。妹さんですか?」

「いや、そうじゃないんだが……」


 ルカにしては珍しく、視線がうろうろと定まらない。無意識の行動に驚いていたようでもあり、そんな自分に戸惑ってもいるようだ。


「……ヤバい、俺もウィルと同じ病にかかってきた」

「病気ですか? 薬飲みます?」

「いやそうじゃなくてだな……。まあいい、干菓子も食うか」

「ぜひいただきます!」


 ウィルといい、この人といい、おいしいものばかり食べさせてくれる。マーサの料理は絶品だし、サンドラからも木の実をもらった。おかげでレティはまたちょっとだけ太った、ような気もする。


「このままいくと、私あのベッドで寝られなくなりそうです……」

「いや大丈夫だろ。え、気にしてんのか?」

「今までは食料の心配しかしていなかったものですから。食べ過ぎで悩むのは初めてです」

「お前……なんつー過酷な環境で暮らしてたんだ」


 ルカがさすがに同情した顔になる。

 いえ普通に母屋近くの小屋で暮らしていました――と言いたかったが、それを言うと正体がばれそうだったので、レティは口をつぐんだ。


「それよりルカさま、お聞きしたいことがあるんですが」

「なんだ?」

「この領地の植物が元気なかったの、どうしてだか分かりますか?」


 ルカは目をぱちくりさせた。


「元気って……むしろ良くなっただろ。領地全体に緑が増えて、収穫も」

「それはそうなんですけど、その前です。根絶やし伯爵という名前は聞きましたが、本当ですか?」

「まさか」


 ルカは顔をしかめて首を振った。


「あいつに言ったら爆笑されるぞ。そもそも、ここは元から収穫量の低い土地だったんだ。十年くらい前から急激に悪化したのは事実だが……。さすがに呪いってのはな。ああいや、ひとつ聞いた話があったか」

「なんですか?」

「単なる昔話だぞ?」 


 そう前置きして、ルカは話してくれた。

 それは不思議な話だった。

お読みいただきありがとうございます。ルカが同じ病にかかった。

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