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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と森の回復

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16/93

≪幕間≫ そのころの彼女達は 2



    ***

    ***



 一方そのころ、グレーデの屋敷では――。


「……シミが、消えないわ」

 鏡の前で、マロリーが唇を震わせた。


「どうして、どうしてなの? なんでこんなことになっているの!?」


 その近くには小瓶が転がっている。よく効くという触れ込みで手に入れた、高価な美容薬だ。化粧品も色々試したが、肌をのっぺりと覆い隠す白粉(おしろい)か、塗り固めるという表現の方が適切な色粉、毒々しすぎる色の口紅など、およそ使えるものがない。そもそも、それでも肌の衰えを隠しきれない。


 おまけに――化粧を落とした途端に現れるのが、この汚い肌だ。


 くすんでいる上、至るところにシミが浮いている。明らかにハリと艶を失った肌は、たるんでひび割れ、いくつもの小じわが刻まれている。誇張でなく、まるで二十も年を取ったようだ。今までが良かった分、その落差に耐えきれない。

 震えるマロリーの横で、ヒルダが金切り声を上げた。


「なんでよ……なんで? なんでこんなにそばかすだらけなのよっ!?」


 その顔には、一面にそばかすが散っていた。

 今までは色白の肌を引き立たせるアクセントで、むしろチャーミングにすら見えていたが、毛穴丸見えの汚い肌では逆効果だ。吹き出物も目立つし、手触りも悪い。カサカサして、粉を吹いたようになっている。


 そういえば――体臭にも、どことなく変化がある。


 上品な花の香りから、妙に脂っぽい、鼻をつまみたくなるような悪臭へと変わってきている。それはヒルダも同様で、若い分、余計にその匂いがきつくなっているようだった。


(これもあの子のせいだっていうの?)


 確かにレティを母屋から追い出し、使用人として働かせるようになってから、色々な仕事をさせてきた。食事の支度もそのひとつだ。


 専用の料理人はいたものの、レティにも料理をするよう命じた。ただし、高価な肉や砂糖を彼女が口にするのは(しゃく)だったから、そちらは先に手を回した。狙い通り、ほとんどあの子は口にできなかったようだ。

 その代わり、森での収穫物を料理に使うようになり――それは意外なほどに美味しかった――楽しそうに料理をしていた。残り物で、自分自身の食べ物もやりくりしていたようだ。


 本当にしぶとい子だった。何をされてもめげなかった。

 泣いたり、騒いだり、傷ついた顔のひとつも見せない。あれだけの仕打ちをしたというのに。

 だからこそ、とても目障りだったのだ。


 ――だが、今。


 そんな彼女を失ったせいで、自分達の美貌が損なわれようとしている。


「お母さま、なんとかしてよ! あの子はどこなの?」

「探してるわ! でも、いないのよ……!」


 行くなら村だと思っていた。

 あの村は小さいし、村人同士もほぼ顔見知りだ。すぐに見つかると高をくくっていたが、レティはそこにいなかった。


 ならば、領地境の森で迷子にでもなったのか。

 だが、死人が出たという話は聞かない。それでもいいと思って、馬車で行く距離の森の入り口に放置してきたというのに。


 大の男ならともかく、少女の足で歩き切れるはずもない。泣きべそをかいて村に戻るか、途中で行き倒れていなければおかしい。念のため、ボールドウィン伯爵家にも使いを出してみたが、該当する人間はいないという返事をもらった。たかだか十六の小娘が、身分を偽り続けるのは難しい。


 レティは、どこに消えたのだ。


「……このまま、あの子が戻らなかったら……」


 肌は今以上に衰えて、老いさらばえるに違いない。

 顔中シミだらけになり、小じわも増えてくるはずだ。――現に今、そうなりかけている。


 ――もしもこのまま、レティが戻ってこなかったら。


 思った瞬間ぞっとして、マロリーは口を押さえた。

「なんとかしてよ、お母さまぁっ!」

 ヒルダの悲鳴が部屋の中にこだました。



    ***

    ***



 ちょうど同じころ、パメラは祈りを捧げていた。


「どうかねえさまをお守りください。そのためなら私の幸せと、あの二人の美肌をいくら損なっても構いません」


 ほとんど日課になっているので、息をするように祈る。


「お母さまの小じわがひとつ増えるたびに、ねえさまが楽しく暮らせますように」


 パメラの肌は輝くようだ。シミひとつなく、なめらかに光をはじいている。

 白い指を組み合わせ、パメラは祈った。


「お姉さまの吹き出物がひとつ増えるたびに、ねえさまが楽しく暮らせますように」

お読みいただきありがとうございます。パメラはレティの事が大好き。

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