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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と森の回復

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14/93

鶏肉のパイをいただきました



    ***

    ***



 パメラの祈りが届いたのか、レティはすこぶる元気だった。


 ベルゼルゼの伐採を行った事で、森はわずかながらも元気を取り戻した。ついでにリゼロッタも伐採した。こちらはごく少人数で、一気に片づけた。三角関係怖いな…、とルカが呟いていたが、気にはすまい。


 どちらも薬の原料になるので、無駄にはならない。おかげで材料が増えてありがたい。

 仕事の合間に作る薬も、大分頼まれるようになった。今も予約待ちの人間が大勢いる。なんでこんなに多いのかと思ったら、屋敷以外の人間の手にも渡っているらしい。どうやら届け物を頼んだ彼が情報源らしいが、おかげでレティは大忙しだ。


 だが、いい事もあった。


「レティちゃん、焼き菓子持ってきたよ」

「レティ、揚げ豆食う? すっげえ旨いぞ!」

「こっちは採れたての果物だ。ちょっと酸っぱいが、蜜煮にすると最高だぞ」

「よろこんでいただきます!」


 レティの薬が評判になるとともに、お礼と言っておいしいものが届けられるようになったのだ。ボールドウィン領は食物加工の技術が高い。そこの住人が、店には出ない、とびきりおいしいものを(たずさ)えてやって来るのだ。薬の製作に力が入らないはずがない。

 おかげでレティはまたちょっと太った気がする。


 もっとも、今までが痩せぎすだっただけで、ようやく普通に戻った程度だ。それと、背もちょっと伸びた気がする。ルカには未だにチビと言われているが。


 最近では美容に効く薬も頼まれるようになった。その関係で、レティの髪も肌もつやつやだ。小麦色の髪はいつの間にかしっとりと光り、金色がかった光沢を帯びている。肌も潤いを増しているようだ。最近では目の色まで深みを帯びてきた気がする。もっともこれは、おいしいものが届くたびに輝いているせいかもしれない。


 とにかく、ボールドウィン領は居心地がよかった。

(それに……)


 ちらりと目を向けた先に、一本の小枝がある。

 地面に植えられ、丁寧に土をかけてあるが、枯れた枝だ。もちろん、芽はつけない。

 だが、この枝は特別だった。


(枯れ大樹の枝が、妙に元気な気がする……)

 誤解を承知で言えば、生き生きしている――ようにも、見える。

 そして、それに比例するようにして、森が元気になっているのだ。


 気のせいだろうか。それとも。

 考え事にふけっていると、「レティ!」と名前を呼ばれた。


「あんたにもらった美肌の薬、とっても調子がいいんだよ。あれ、また作ってもらえるかい?」

「もちろんですよ、マーサさん」

 現れたマーサは、大きな包みを抱えていた。


「顔がつやつやするし、手触りもすべすべで。お礼と言っちゃなんだが、鶏肉のパイを作ってきたよ」

「わぁ、嬉しいです!」


 マーサのパイは絶品だ。初めて食べた時、こんなにおいしいものがこの世にあるのかと思ったほどだ。鶏肉のパイは彼女の得意料理で、口に入れるとじゅわっと染み出る肉汁が最高だった。

 思い出しただけでよだれが出そうになる。二つ返事で了解すると、マーサが苦笑した。


「本当だったら、ずいぶん高いお金がかかるんだろう? 食べ物と交換ばっかりじゃ、申し訳ない気もするんだけどね」

「元手はただですし、別にいいですよ。今までも、材料費をいただいたことはありませんし」

「そうなのかい?」

「ええ、まあ」


 マロリーが手間賃など払うはずはなかったし、どうしても手に入らない材料を現物支給のみで、あとは森から集めていた。よく考えると、ひどい話だ。


「ずいぶんなところで働いてたんだね、あんた」

「あはははは……」


 いえ実家です――とは言えなかったので、笑ってごまかすしかない。

 鶏肉のパイも来た事なので、一旦休憩する事にした。


 使用人の仕事も行っているが、空いた時間は薬を作る。それでも問題ないくらい、ボールドウィン伯爵のお屋敷は人手が多い。

 それが普通で、今までが劣悪すぎる環境だったのだ、という事には気づかない。あくまでも大変だったのは薬草の調達で、掃除や洗濯ではなかったからだ。

 パイを一口頬張ると、レティは目をつぶった。


(ものすご―――く、おいしい……っ)


 パイ皮は香ばしく、鶏肉の脂が染みている。こんがり表面を焼いた鶏肉を、丸ごとパイの中に入れてあるのだ。中に香りのいい野菜が詰めてあり、キノコや燻製肉も入っている。食欲をそそる香りがして、口に入れるととろけそうだ。ああ、ここに来てよかった。このパイに出会えて、本当によかった。

 しみじみ感激していると、「…やっぱりリスだな」と言われた。


「ルカさま?」

「頬袋いっぱいにため込む仔リスか。あとちょっと太ったな」

 いつの間にか部屋の外にいたルカが、呆れた顔でこちらを見た。


「いちいち言わないでくださいよ! どうしたんですか?」

「ああ、ウィルに頼まれた」

「ウィルさまに?」


 目をぱちくりさせ、レティはごくん、とパイを呑み込んだ。

お読みいただきありがとうございます。レティ、ちょっとだけ背が伸びました。

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