表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と森の回復

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/93

≪幕間≫ そのころの彼女達は 1



    ***

    ***



 一方そのころ、グレーデの屋敷では――。


「……肌が、カサカサするわ」

 鏡とにらめっこしているマロリーが、頬に触れて呟いた。


「それだけじゃない、小じわも、シミもこんなに……。全体的にくすんでいるし、粉まで吹いて……どういうことなの?」


 マロリーご自慢の白い肌は、この半月で、すっかり衰えてしまっていた。

 いつもならすべすべして、輝くように光をはじくはずの肌が、くすみ、荒れ、ところどころにシミまである。年相応どころか、明らかに悪い。


「お母さまもそうなの? わたくしもよ」

 同じく鏡とにらめっこしていたヒルダが、イライラした顔で言う。


 その顔にはくっきりとそばかすが浮いている。それだけでなく、吹き出物もいくつかできている。肌自体もかさつき、髪もなんだかパサついている。心なしか、目の色もくすんでいるようだ。


「そうだ……! あの子の薬。あれがあれば……」

 いつもお茶に混ぜて飲んでいたため、まったく気づかなかった。数日は作らせておいた分があったものの、ここしばらくは一滴も飲んでいない。それが、まさかここまでとは。

 早く飲まないと、と思ったところで、在庫がないのを思い出した。


(ああもう、なんてこと)


 あの娘は薬草の調合だけは上手だった。そこだけは褒めてやってもいい。

 家の仕事もまあまあできた。特に床掃除が得意だった。よく考えれば、あのまま置いてやってもよかったのだ。絶対に家族の前に姿を見せない条件で。もし見つかったら、使用人だと言わせればいい。

 その約束が守れるなら、今からでも連れ戻してやらなくもない。


「お母さま、急ぎましょう」

「そうね、すぐに作らせなきゃ」

 だが、果たしてどこに行ったのか。


 ボールドウィン伯爵のところに行くとは最初から思っていない。腐っても貴族の娘だ。侍女ならともかく、使用人になるのは恥だろう。そんな事をするはずがない。

 となると、グレーデ領のどこかだろうか。


 今まで関心もなかったが、急に気になってくる。

 人を呼ぶため、マロリーは部屋を出て行った。



    ***



 そのころ、別の部屋で。


「……ねえさま、ご無事かしら」


 自室の窓辺で、ひとりの少女が呟いた。

 淡い金髪に水色の目の可憐な少女だ。顔立ちはレティに少し似ている。

 少女は物憂げにため息をつき、そっと長いまつげを伏せた。


 母親のマロリーから「レティが出て行った」と告げられたのは半月前。なんでも、「どうしても手に入れたい薬草があるから、なんとしても出て行く」と言い張って、止めるマロリーを殴り倒し、ヒルダを蹴り飛ばして出て行ったらしい。本当だろうか。だとしたらすごい。


「二度とあの子に関わるんじゃないわよ。いいこと、パメラ」

 そう二人に言われたが、パメラは耳に水が入ったので聞こえなかった事にした。三回言われたが、三回とも無視した。四回目にはお湯が入った事にした。十七回目に二人が根負けした。よし、勝った。


「この家を出るなら、私もご一緒しましたのに……」


 パメラにとって、レティは大切な姉だった。正確に言えば従姉だが、血がつながっている事をこっそり教えてもらったのだ。

 教えてくれたのは、今はもう首になった老執事で、「内緒でございますよ」と前置きして告げてくれた。

 それを聞いた時の、胸がどきどきした気持ちを覚えている。


 パメラはレティが大好きだった。

 レティが小屋に住み、一緒に食事ができない事を、両親に抗議した事もある。だがその結果、レティが余計にひどい目に遭う事を知り、それはやめる事にした。

 母親と姉は攻撃的だが、父親は事なかれ主義だ。どちらにしても、レティを助けてはくれないだろう。成長するに従い、それが分かった。


 その代わり、パメラはレティの必要なものを届けたり、小麦をこっそりくすねたりした。――これは危険が高かったので、あまり頻繁にはできなかったが――。レティはいつも喜んでくれ、非常食と呼ばれる食べ物も分けてくれた。

 一緒に森で遊ぶのが、パメラの何よりの楽しみだった。


 レティはやさしくて、物知りで、植物達に好かれていた。

 パメラの喘息を知り、薬を作ってくれたのもレティだった。

 今も欠かさずに飲んでいる。十分な量があるのは、レティが送ってくれるからだ。


 こっそりと届けられるそれは、紛れもなくレティが作ったものだった。誰が運んでいるのか、どうやって届くのかは分からない。いつの間にか村に届き、いつの間にか運ばれてくる。

 けれど、この薬が届くうちは、レティが元気でいるという事だ。

 そう思うと、寂しさも少しは慰められた。


「女神さま、ねえさまをどうかお守りください。そのためなら私の幸せと、あの二人の美肌をいくら損なっても構いません」


 特に母親の美肌は、レティの薬の(たま)物だ。

 だから祈った。


「お母さまのシミがひとつ増えるたびに、ねえさまが幸せになりますように」


 割とひどい内容だが、パメラは至極真面目だった。

 そこでふと、窓の外の木に気づいた。

 見上げるほど大きいが、葉はひとつもつけていない。

 枝ぶりは立派で、幹は二抱えほどもあり、どっしりと屋敷の隅に構えている。


 枯れ大樹。レティがずっと祈りを捧げ、欠かさず世話をしていた木だ。


 レティがいなくなってから、見よう見まねでパメラも祈りを捧げている。だが、どことなく元気がない。というより――機嫌が悪い。パメラはそれほど嫌われていないが、父母や姉が近づくだけで枝が落ちる。おかげでマロリーはハチに追いかけられたし、ヒルダは虫まみれになった。ちなみに、ヒルダは虫が大嫌いだ。


 この木はきっと、レティの事が好きなはず。

 目を閉じ、枯れ大樹にもパメラは祈った。


「どうかねえさまを守ってあげて。そのためなら私の幸せと、あの二人の美肌をいくら損なっても構いません」


 彼女はとても真面目である。本気でそう思っている。

 だから祈った。


「お姉さまのそばかすがひとつ増えるたびに、ねえさまが幸せになりますように」

お読みいただきありがとうございます。パメラ……恐ろしい子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ