他にも理由がある気がします
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(……でも、それだけじゃない気がする……)
森から帰った夜の事。
部屋で薬草をすり潰しながら、レティは首をかしげていた。
ベルゼルゼの件は、確かに理由のひとつだろう。けれど、ウィルの言う通り、それだけでこの広大な森が枯れ果てるはずはない。
ごりごりと木の棒ですり潰し、頃合いを見て別の葉を足す。マーサが欲しいと言っていた湿布薬だ。
あの森は荒れていたけれど、薬草はそこそこ生えていた。
それどころか、ほとんど手つかずだったらしく、素晴らしく状態が良かった。栽培用にも大分持ち帰れたから、これからは薬もたくさん作れる。
手持ちの分はとっくに使い切ってしまったから、薬草が採れるようになったのはありがたかった。
畑作りも手伝ってもらったため、男性二人はさすがに疲労困憊したようだったが。
それでもレティはおおむね満足していた。
(お昼ご飯もおいしかったし……)
収穫に時間がかかってしまったため、森の中で食べたのだが、その昼食が絶品だった。
「どうぞ、召し上がれ」
バスケットに詰められたご馳走に、レティの喉がごくんと鳴った。
(これは……!)
分厚く切った肉とチーズをパンに挟み、たっぷりの野菜を添えてある。揚げた魚には香辛料のソースがかかり、香ばしい匂いが立ち込めている。野菜を漉したゼリーに、二種類のパイ。飲み物は冷たいミルクとレモン水だ。
幸せそうな顔でぱくつくレティを、ウィルはにこにこと眺めていた。
(つい食べ過ぎちゃったけど……だ、大丈夫だよね……?)
パンはふわふわで柔らかく、肉は噛み応えがあっておいしかった。チーズと野菜も新鮮だ。揚げた魚は香ばしく、ピリッとした香辛料の刺激が食欲をそそった。パイもさくさくしていた。中には煮詰めた果物が入っていて、片方はベリー、もう片方はラミュダと呼ばれる甘みの強い果実だった。どちらもとてもおいしかった。
この屋敷に来て、レティは少し太ったかもしれない。
(本当に、本当に、このお屋敷に来てよかった……!)
自分を追い出してくれたマロリーに心から感謝したい。
そこでふと思い出した事があった。
「……喘息の薬、ちゃんと届いたかな?」
パメラのために、二度ほど喘息の薬を届けてもらったのだ。
頼んだのはマーサの古い馴染みで、グレーデ領とも取引のある商人だそうだ。どうやら、マーサに渡している湿布薬のおかげらしい。彼女の頼みならと、快く引き受けてくれた。
お礼として、彼にも薬を提供した。湿布薬に加えて、頭髪と体力に効く飲み薬だ。これもとても喜んでくれた。
あの家でやさしくしてくれたのはパメラだけだ。
どこからか、レティが従姉だという事を知り、無邪気になついてくれたのだ。
ねえさま、ねえさまと後をついて回る幼い少女に、レティはずいぶん慰められた。お菓子や薬、貴重な布など、こっそりと持ってきてくれたのもパメラだ。
もっとも、マロリーやヒルダに見つかると後が怖いので、十分用心していたけれど――。
(……ヒルダ、枯れ大樹のお世話できてるかなぁ……)
ちゃんとした代替わりもせず追い出されてしまったから、それが少し気がかりだった。
けれど、今はどうしようもない。
薬が出来上がると、レティは小瓶に分けて詰めた。これを布に塗り広げ、患部に当てて包帯を巻く。それで湿布薬になる。あとはサンドラに頼まれた熱冷ましと、傷薬を少し多めに、それから食あたりの薬も作っておこうか。
考え事をしているうちに、つい美肌の薬を作ってしまった。習慣とは恐ろしい。
(これは……マーサにあげよう)
残った分は他の人にあげよう。美肌だけでなく、便秘にも効く。きっと喜んでくれるだろう。
うん、そうだ、それがいい。
マロリーとヒルダの薬は、とっくに切れているはずだった。
お読みいただきありがとうございます。今日もご飯はおいしいです。