Epilogue
初投稿です。宜しくお願いします。
気付いた時には眠りの世界で微睡んでいた。
温かいぬるま湯に浸かっている感覚がして、身悶えた。
少ししてざば、と水の音がしたかと思うと意識が何かによって引き寄せられていく。
目に焼き付くように差し込む光が、やけに眩しかった。
しかし、目を開く事が出来ない。まるで瞼がくっついてしまっているようだった。
「――元気な女の子ですよ。」
看護師らしき声が聞こえて、そこで、周囲に人が居る事に彼女は気付いた。
今までの全てを覚えているというのに、その事実はやけに悲しくて、どうしようもなくやりきれない寂しさと、悲しみが溢れてしまっていて、心臓が締め付けられてしまう。
心臓が口から出るというのはきっとこういう事を言うのだろう。
自らの状況を冷静に分析していると同時に、感情の出し方を言葉にして声を発する事でしか表現出来ない哀れな赤子はその時ようやく生まれ落ちたのだと知った。
彼女は思考する。此処まで長かった気がする。
長い路を歩いてきたようだった。
記憶を引き継いで生まれてきてしまった事が果たして良いものなのかどうか、分からない。
だけど、今は生まれてきた事に感謝をしなければならない。
今度こそ、ようやく、転生は成功したのだ。
転生が不完全な状態が続いていた彼女は、幾つもの危機を乗り越えていた。
彼岸と此岸の間の世界で汗水垂らし、働き続けた。その事が功を奏したのだろう。
転生が成功した実感に気付いた時、赤子はようやく赤子らしくわんわんと泣いた。
涙が頬から伝って、元気よく泣いた暁には喜びの声が聞こえていた。
お腹を痛めて大事に、大切に産んでくれた母親の腕に抱かれてその赤子は再び眠りにつく。
・・・
「……よかったね、今度こそ転生成功だ。」
そう慈しむ誰かの声を、彼女は聞いた気がする。
これは終わりから始まる物語。
決められた結末に向かって足掻いた、一人の少女の軌跡である。