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「私に謝られても困るな。謝らなければならないのは、私ではなく、アメリアだろ?」
お父様の発言を聞き、シュバルツ家親子は姿勢を変え、私の方へと向いた。ルークの表情を察するに、どうしてこんな奴に頭を下げないといけないのかと疑問を抱いている。格上の存在だと知った今でも、まだ信じられないのだろう。
「本当に申し訳ございませんでした、アメリア様」
ガウスが頭を下げてきたので、私は咄嗟に呟いた。
「ガウス伯爵、貴方が謝る必要はありませんよ」
「だが、しかしっ!? ルークが起きた問題で」
「ガウス伯爵。貴方は甘い。トコトン甘い。いつまで自分の息子の面倒を見るんですか? もうルークは成人ですよ?」
子供の面倒を見るのが、大人の役目。
そんな話を聞いたことがあるけれど、あくまでもそれは未成年だったらの話だろう。だが、現在のルークは何歳だろうか。
もう成人を超え、挙げ句の果てには職にも就かないダメ男。
親の育て方が悪いで片付く話かもしれないが、私は違うと思う。これは本人の問題だ。本人が何もしないことが悪いのだ。
「ルークさん、貴方は恥ずかしくないのですか? 自分の父親が頭を下げている姿を見て、情けないと思いませんか? 自分の過ちでこんなことになってしまって。どう思いますか?」
「ち、ち……っ、父上……ち、父上……」
顔をグシャグシャにして、ルークは泣き叫んでいる。
玩具を取られた子供みたいに涙を流して、バカみたいね。
本当、情けないわ。こんな人が元婚約者だなんて。
「泣いたら許して貰えるとでも思ってるの? 貴方の誠意を示して下さい。自分の父親があれほど頭を下げたのに、それでも尚……貴方は黙っているのですか? ほら、何か言えば?」
「も、も……申し訳ご、ございませんでした、アメリア様。ほ、本当に僕は……ぼ、僕は……何と無礼なことを……」
ルークは深々と頭を下げた。身体はピクピクと震えており、未だに心の中では私への怒りが燃え上がっているのだろう。
「ねぇー? 謝っただけで済むと思ってるの? 私は誠意を示してと言ったの? 耳鼻科にでも行ってきたらどうですか?」
「せ、誠意を示せと言われても……ど、どうすれば」
「自分で考えて下さい。お猿さん脳を存分に使って」
数十秒間ルークは必死に思い悩んでいた。どんな解答が出るのか、楽しみだ。私が望む解答が出るまで言わせるけどね。
「慰謝料を払う。僕が君へした仕打ちは酷いものだった」
「それだけですか? それで済むと思っているんですか?」
慰謝料など私は要らないのだけど。ただ、ある言葉が欲しいだけ。それを待つだけだ。
「えっ!? お、お金でもだ、ダメなのか。そ、それなら……ほ、宝石だ。僕が持っている全ての宝石を……」
私の表情を伺い、この解答では違うと分かったのだろう。
その後もルークは、私へと何度も何度も謝罪をしてきた。
頭を下げること、数えて三十回目だろうか。
遂に私が待っていた言葉を発してくれたのだ。
「分かった。君の好きにしてくれ、僕が悪かった。どんなことでも、僕は受け入れる。だ、だから……ゆ、許して欲しい」
「分かりました。貴方の誠意を頂きました」
待ち望んでいた返答を貰い、私はガウス伯爵へと顔を向け。
「ガウス伯爵、頼みがあります。ルークを破門して下さい」