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「お、お、おおお、お金に代えただとっ!」


 ルークは激昂した。口から唾が飛んでくる。汚いわ。


「はい。貴方からの婚約指輪など要りませんし」


 流石はルークの父親が選んだもの。特注品のダイヤモンドを使用しているのか、高値で買い取って貰えた。

 趣味代に使おうと思っていたけど、私は施設に寄付をした。

 恵まれない子供たちが少しでも喜んでくれればいいと思い。


「な、何を言っているのだ。僕を誰だと思っている? この地域一帯を牛耳るシュバルツ家の次期当主に当たるのだぞっ!」


「次期当主……? 聞いて呆れるわね。こんな奴が当主になったら確実に終わると思い、領民が逃げて行ったのでしょ?」


「ふざけるなぁ!! 全員、僕の力に気付いてないのだ。僕が凄い力を持っているのを、誰もが知らないだけなのだ」


「自分を過信するのはやめなさい。みっともないわよ。子供なら可愛いけど、大人になってそんなことを言うのはただの現実逃避よ。現実を見たらどうかしら?」


「ふざけるなっ!! お前は絶対に許さんっ。苦しめて苦しめて、最後に死を懇願するまで痛ぶってやる」


「あっそう。勝手にすれば? 貴方の力でできるのならね?」


 私の発言を聞き、ルークは余裕な表情を浮かべた。


「フンッ、今更泣いて許しを乞いてももう遅いのぞっ」


 ルークの手から丸い火が出てきた。火を操れるとは、流石はシュバルツ家の血を引き継いだだけはある。


「あら……それはリンゴ? 美味しそうね?」


 挑発する私に対して、ルークは顔を歪めてしまう。

 自慢の技を食べ物と言われ、心が乱れてしまったのだ。

 でも遠くから見たら、リンゴを握っているようにか見えないだろう。


「はっは、僕が本気でこの火を向けるとは思ってないのだろ? だが、残念。アメリア、お前は火炙りの刑だぁ!」


 ルークが手のひらを向け、丸い火を飛ばしてきた。狙いは、私の身体。普通の人なら避けるのにも一苦労かもしれない。


 しかし、私に当たるまでに火は消えてしまっていた。


「なぁっ!? ど、どういうことだ? 何をしたぁ?」


 何が起きたのか、ルークは分からなかったのだろう。

 ならば、私が懇切丁寧に教えてあげましょう。


「お猿さんの火遊びは危険だから消火しただけよ?」


 堪忍袋の尾が切れたのだろうか、ルークは次から次へと火の玉を投げ出してくる。けれど、私には全く外傷無し。


 当たり前の話だ。私は帝国魔法第一大学卒の聖者。

 並大抵の魔力で、私に太刀打ちするのは不可能。


「ど、どうして、あ、当たらないのだ……ど、どうして……火が消えてしまうのだ。あ、ありえない、ありえない」


「あら、そういうわけではないと思うわよ? 貴方の胸元を見てみなさい。火が燃えているわよ? 魔法の暴発かしらね?」


 火の玉を出しすぎて気が抜けた瞬間に、服に火が燃え移ってしまったのだろう。どこまで間抜けなのだろうか。火の使いのくせに。


「た、助けてくれっ!! 火が顔に燃え移るー、た、助けてくれぇ」


 助けを乞うルークに、私は心の中で魔法を唱える。

 その瞬間、ルークの頭上に雲が出来上がり、大量の水が滝から流れるように落ちていった。


 髪も洋服も全てがびしょびしょになったルーク。

 寒いのだろうか、肩を少しだけ震わせている。


「魔法の調節もできないのか? これだから女は困る」


 ハックションとくしゃみしつつ、ルークは言うけれど。


 ごめんなさい。元々、それが狙いだから。ビショビショに濡れて、ざまぁみろって感じだわ。床もこんなに濡れて乾くのにはまだまだ時間がかかりそうね。


 出ていく私には関係ない話だけど。


「火を操るシュバルツ家の人間なのに、まともに火を使えない人には言われたくないわね。それじゃあね、元婚約者さん」


 水浸しの屋敷から早く出て行きたくなったので、私は歩き出すのだが。


「待てっ!? どこに行くのだっ! 僕を置いてどこに……」


 何が置いていくだ。貴方が言ったのよ。婚約破棄だと。

 そのくせに……何を今更言っているのだろうか。

 完全無視を貫き通し、私は部屋へと出ていくのだが。


「そうだ……ぼ、僕はだ、騙されていたのだ。お前は僕と付き合う気がなかったのにも関わらず、僕に指輪をプレゼントさせたのだ。結婚詐欺だ。返せっ!? 指輪を返せっ! この盗人っ! 犯罪者っ! 人様を誑かす悪魔っ!」


 怒鳴り喚き散らして、何をしたいのかしら?

 騒げば誰かが来てくれると勘違いのかしら?

 でも、甘いわね。私は絶対に振り向くはずがない。


「父上が遠征から帰ってくるのが楽しみだ。アメリア、君が土下座して謝罪をしても遅いのだぞ? 僕の靴を舐めて媚びて媚びて媚び続けても、僕は絶対に許さないのだからなぁ!?」


 自分に懐かない女には酷い仕打ちをするなんて、最低ね。

 どこまで彼はクズになれば気が済むのだろうか。逆に興味が出てきたわ。


「逃げるのは今のうちだ。世界のどこまでも逃げてみろ。僕がどこまでも追いかけ続け、お前を不幸にしてやるからな!!」


 ただし、と呟いて、ルークは下賤な笑みを浮かべて。


「法廷で会おう、アメリア。お前を地獄へ突き落としてやる」


 こんな捨て台詞を吐かれ、私はシュバルツ家から出ることにした。ルークの顔は二度と見たくない。もう会いたくない。


 そうだ、実家に帰って、ふかふかのベッドで休養を取ろう。

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