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「ルークさん……あなた今、何と言いましたか?」
確認を取る私に対し、ルークはニタリと口を歪ませて。
「お前とは婚約破棄すると言ったんだ。夫へ尽くせない妻は要らない。今日から君は未亡人になるんだよ、ははっざまっみろ。僕に逆らった罪は大きいぞっ!!」
あの未亡人って言葉の意味を知ってますか?
夫と離別した女性のことを言うんですよ。そもそも私は貴方とまだ結婚しているわけではありません。後、あなたまだ死んでませんよね。あ、でも社会的にはもう既に死んでるか。
「と言えど、僕もそこまで悪じゃない。僕は君には全く興味はないが、君の父上と僕の父上が悲しむ姿は見たくない」
だから、と呟いて、ルークは邪悪な笑みを浮かべて。
「アメリア、君を第二夫人にしてやってもいい。食事は与えるし、多少の小遣いを出してやるさ。雑用係としての給料をな」
ピキピキと額に怒りを浮かべる私に気付いたのだろうか、ルークは少しだけ怯えた表情になる。それでも勇気を振り絞るように、右足をダンッと前へと出して、もう一度口を開く。
「建前上は、あくまでも第二夫人。但し、君は雑用係。僕とミーシャの為に、毎日朝から晩まで働いてもらう。僕に相応しい兵士やメイドがいないのでな。君には住み込みで、この屋敷内で働いてもらうとするよ」
兵士やメイドが居ないのは、人望がないからですよね?
誰もあなたと関わるのは嫌だと思ってるですよ。それなのに、自分に相応しい人が居ないなんて失礼じゃないですか?
でも良かった。婚約破棄を言い渡されたから、コイツからやっと離れられる。今まで苦労したわ。散々言われたけど、これも社会勉強ね。人間にはどうしようもないクズが居るってことの。
「あっはははははははははははは」
喜びのあまりに、思わず私は高笑いしてしまう。
バカで間抜けでお猿さんなルークの呆れてしまって。
「とうとう気が狂ったか。無理もない。僕を愛してるアメリアには辛い選択かもしれないが、それでも僕へ尽くせるのだ。ありがたい話だと思うだろ?」
上から目線の発言。自分を偉いと勘違いしているの?
貴方の偉さはガキ大将レベルよ。それも小さな子供を路上で集めて、権力を武器に振りかざす程度の。
「確かにありがたい話ね。どうも、ありがとう。ルーク」
「感謝する必要はない。夫としての役目を果たしただけだ」
どんなもんだと、格好付けて鼻を指で触っている、ルークさん。残念ながら、私がありがとうと言ったのわね。
「婚約破棄してくれてありがとうと言ったのよ。何を勘違いしているのかしら? でも仕方ないわね。社会とは疎い生活をしていたら、自尊心だけは強くなるかもね」