19
「何を言い出すかと思えば、愚かな奴だな。現在の僕に手を出すと言うのは、背中に居る奴等にも痛みが生じるのだぞ?」
目の前に居る戦闘生物は高笑いした。
ルークの声だと言うのが余計に腹立つ。
「もしもお前が魔法を繰り出すものなら、僕がプイっと背中を向ければ、その攻撃は全て罪なき人々に当たるぞ?」
非道な奴ね。どこまでも汚れているの。この悪魔。
でも言う通りだわ。この状況は極めて不味い。
鍛えた魔法は全く通用しない。全て吸収されてしまう。
更に人質を取られているので安易に攻撃が出来ない。
「早く人々を解放して。彼等を苦しめる必要はないでしょ?」
「それは不可能だ。僕は最初に言ったはずだ。人間共を食ったと。お前だって、一度胃袋に収めたものを元に戻せと言われても無理な話だろ? 吐き出さない限りな……デュハハハハハ」
吐き出さない限り?
私は手のひらを向け、化け物へと魔力を放つ。
「不意打ちか。本当にお前はずる賢い女だな。だが、仕方ないか。恐怖に怯え、攻撃する他なかったのだろ?」
だがしかし、とニタリと歯茎を見せて笑い。
「まぁー現在の僕には無意味だがな」
言葉通り、魔力は当たらない。吸収されたのだ。
でも解決の糸口は見つかった。勝てるかもしれない。
「ねぇー。私の魔力は美味しかったかしら?」
「アメリア、お前の魔力は特上品ぞ。吸収すればするほどにもっと吸収したくなる。でも、ジリ貧になるだけだぞ?」
「もう勝てないもの。少しぐらい、抗ってもいいでしょ?」
デュハハハハハ、と気持ち悪い声が響き渡る。
勝ったと思っているのだろう。でも、私はしぶとい女だ。
「流石はアメリアだな。最後の最後まで諦めないその気持ちは高く評価してやろう。まぁー僕に勝とうなんて無理だがな」
「ありがとう。精々、私に出来ることをするわ」
「あー悲しいよ、アメリア。君がもうこの世界から消えちゃうなんて。僕に食べられてさ。最後の最後まで僕を満足させてくれ。逃げ回って腹踊りでもして見せてくれるかな?」
「そうね……満足させられるように私も努力するわ」
戦闘生物。
彼等は『吸収』能力を持ち、あらゆるものを飲み込んでしまうと言う。けれど、忘れてはならない。相手は生物だ。
胃袋に限界があるに違いない。
私の魔力を『美味しい』と言える感覚は機能しているのだ。
それならば——もしも限度量を超えた魔力を吸収したとしたら。もしも満腹感を与えることができたとしたら。
戦闘生物は——食べたものを吐き出すかもしれない。
これは仮説に過ぎない。けれど、試す価値はある。
「さぁー化け物さん。私の魔力を食べなさい。好きなだけ」
両腕を突き出し、最大限の魔力を一気に放出する。
これは一発勝負だ。二回目は決してない。
絶対に勝つ。皆を救う。その為に、尽力するのだ。




