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 邪魔な婚約者の姿が消え、気付けば季節は冬を迎えていた。

 実家に身を置いて、両親に愛されて生活する日々。

 お父様からは乗馬や駆動車の扱い方を、お母様からは化粧や料理を教えられ、予想以上に私は悠々自適な暮らしを堪能していた。


「アメリア、本当に行くの? 雪が降ってるのに」

「はい、ごめんなさい。お母様、今日はクリスマスで家族と共に過ごしたい気持ちは山々なのに……」

「私たちのことは気にしなくていいわ。ミーシャちゃんが主催のパーティに参加するんでしょ? 良い人が見つかったらいいわね」


 ふふふっと笑みを漏らすお母様には悪いけど、私には誰も貰い手が居ないと思う。側から見ると「婚約者に捨てられ実家に戻って来た可哀想な娘」と勘違いされているのだ。


「見つかれば良いのですが……私の評判は悪いので」

「大丈夫ですよ、アメリアは世界で一番可愛い娘ですから」


 そっと抱きしめられ、私は家族の温もりを感じた。


「今日のアメリアは一段と綺麗だわ。やっぱり私の娘ね」


 あ、そうだと手を叩いて、お母様は私の側に寄ってきて。


「大切なイヤリングがあるから、付けて行きなさい」


***


「……れ、レベルが違うわね」


 王族家のパーティに参加するのは初めてだった。

 駐車場で駆動車を止めた時でも、格が違うと思った。

 遠目からでも分かるほどに、赤、青、黄、緑、紫、白、と言った色取り取りな光が城の外装をライトアップしているのだ。


 何て美しいの……と圧巻しつつ、城の中に入ると。

 天井を覆い尽くすほどに飾られたシャンデリアの数々。

 実家にもあるけれど、その白い輝きには勝てそうにもない。


『アメリア、絶対に来てくれると思っていたわっ!?』

『今日は存分に楽しんでいってね。後から一緒にお話を』


 明るい声でミーシャは言ってくれたけど……私には無理。


「ミーシャの社交性が……う、羨ましい……」


 パーティに参加しているのは、全員が超が付くほどのVIP。

 名前を知らない方がありえないと思うほどの人々達だ。

 一端の私ではあまりにも場違いと言うか……うん無理。


「パーティと聞いて……はりきっていたのに」


 周りは夫妻か結婚を約束した仲の人々ばかり。

 独り身の私には、遠慮してか、誰からも声が掛けられない。


「はぁー仕方ない。食事を楽しむことにしよう」


 本日は立食パーティ。好きなものを好きなだけ食べて良いと言われたけど、はしたない女だと思われないかな。

 私を呼んだミーシャの顔を汚すことだけは絶対にしたくないし。ここは自重するべきなのか。


 で、でも食べたい欲には逆らえなかった。


 東西南北。

 色々な国々を回ったシェフが考案したとのこと。

 見たことも無ければ、名も聞いたことが無い異国の料理。


 肉は蕩けるように柔らかく。

 魚は骨を全て抜き取られ、全く生臭さを感じさせず。

 野菜はメイン料理の付け合わせなのだが、十分に単体だけでも楽しむことができる。


 特に美味しかったのは、東の島国が考案した料理。

 酢で慣らしたお米の上に、生魚の切り身を乗せて、ソースに付けて食べるというものである。


 一口食べるだけで電撃が走るような感覚に陥った。

 紛れもない、一目惚れ。食事の力、恐るべし。

 味付けは絶妙で、一流の料理人が今日の日の為に準備していたのが、とっても伝わってくる。


 あー幸せ。美味しい物を食べることは唯一の幸せかも。

 そう思い、私は食欲全開にしていたのに。それなのに。


「ん? 何かあったのかしら?」


 城の外が一段と騒がしかった。パーティの最中だ。

 誰かが喧嘩したのかと考えていたのだが——。

 その原因が分かるのは、堅く閉じられた城のドアが開いた時。王族家の兵士たちに槍を向けられつつも、ズカズカと歩みを進める招かざる客人。


「ミーシャ、遂に帰って来たぞっ!? 僕だ、僕だよっ!?」


 う、嘘でしょ……ど、どうして……あ、あの男がここに。

 私の目に映るのは紛れもないルーク・シュバルツ。

 そう、私の元婚約者であり、そして私が二度と見たくなかった男でもある。

 けれど、以前までの彼とは違うことがある。


「くんくんくんくんくん……臭うな、臭うぞっ!?」


 得体の知れない魔力を持っているのだ。

 通常の人間が持つはずのない、魔物が放つ妖気を。


「アメリア……お前、ここに居るんだな。これは好都合だ」


 ギャハハハハハハハと狂ったように笑い出して。


「ミーシャ、ごめんよ。デザート(お楽しみ)は最後まで取っておく派でねー。先に僕を散々酷い目に遭わせたアイツを、処分しないと。お楽しみは、それからだよ。ミーシャ」


 そう言い放ち、四方を振り向きつつ、怒りと呪いを込めたような声で。


「絶対に見つけ出して殺してやるよ。精々、僕が退屈しないように、泣きじゃくる顔を晒して、尻を振って逃げ惑いながら許しを乞け。死のかくれんぼを始めよう、アメリアああああぁ」

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