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 決戦の舞台は整った。時刻は午前0時を廻った所。

 今回の脱獄が失敗すれば、果たしてどんな目に遭うか。


「健闘を祈るぞ、ルーク。必ず戻ってこい」


 仲間たちに激励を受けて、僕は部屋を出るしかない。


・計画の算段として、以下の通りである。


①僕がボスを適当に煽てて酒を飲ませる。

②ボスが眠った頃を見計らい、駆動車のキーをGET!

③キーを窓から放り投げ、仲間たちに渡す。

④その間に仲間たちは駆動車を動かし、僕を迎えに来る。

⑤合流し、そのまま脱出を図る。


***


「それで、ルーク。大事な話とは何だ?」


 ボスの部屋はいつも通り綺麗に整頓されていた。

 見た目は大柄でただのデブだが、意外と綺麗好きなのかもしれない。でも、そのおかげで、駆動車のキーの位置は分かる。


 ボスの机の上である。

 近づくのは容易くないが、やるしかない。


「実はアイツらの隠し事が分かりました」


「隠し事……? 何だ、それは」


 不審な表情を浮かべるボスに対し、僕は得意気に。


「賭け事です。この労働下には娯楽も何もありませんからね。唯一楽しめるのは食事だけですが、それもお金がないと碌な食べ物も食べられない。故に、誰もがお金を欲しがるわけです」


 僕の話を聞き終わり、ボスは高らかに笑った。

 表情を察するに、何だそんなことかと安堵しているようだ。


「ボス、お酒を注ぎましょうか?」


 その言葉を皮切りに計画は着々と進んだ。



 一、二時間もぶっ通しでお酒を飲ませれば、どんな暴漢でも眠気が襲うらしい。一応、仲間から受け取った睡眠効果のある植物を擦り潰して入れていたはずなのに。


「ここまで長引くとは……アンタは怪物だよ」


 拍子抜けするほど簡単に鍵を手に入れ、僕は窓から落とし、仲間へ渡す。部屋を出る際に、黒服達にボディチェックを要求されるからだ。僕が何かを盗んでないか、確認したいのだろう。


 ブオオオンンンンー。駆動車のエンジン音が鳴り響く。

 その後ろからは、タッタッタと獣が泥濘んだ道を走る音も。

 エンジン音にビビった獣が森の中を走っているのだろう。

 そんなふうに僕は甘く考え、階段を駆け下った。


「で、出られるんんだ……やっとここから」


 残るは車に乗って、そのまま一緒に脱獄するのみ。

 そう思い、約束の場所で待っていると——。


「車の後ろにあ、アイツが居るだとぉ!?」


 駆動車が全速力で走る中、その後ろには魔物の姿。

 そうだ。ポチである。大きな口を開き、噛みつこうとしているのだ。一度でもスピードを緩めれば餌食になる可能性が。


「僕だ、僕だよっ!! 早く来てくれっ!?」


 それでも多少の犠牲は付き物。

 僕は必死に手を振って、仲間たちに自分の場所を知らせる。

 運が良かったのか、仲間が僕に一早くに気付いてくれた。

 そのまま駆動車の窓から手を伸ばして、僕を引き上げようとしてくれている。もしかしたら、このままのスピードで森の中を突きっきるのかもしれない。


「捕まれ、ルークっ!? ここで死んだら困るんだっ!」


 仲間の一人が伸ばした手を握り、間一髪というところで、僕は駆動車に乗ることができた。


 僕を乗せた駆動車は勢いを増して、森林へと突っ込んだ。

 一応車が通れる道は確保できているが、凹凸が多く、車内がガタガタと揺れるのには困ったものだ。これで一安心と思えれば良いのだが、依然として現在の問題は解決していない。


 森林へと踏み入れてから十分近くが経過。

 視界に映るのは、車の光で照らされた一部分のみ。

 僕たちよりも遥かに大きい木々に囲まれているので、月の光さえも見えない状況なのだ。


「ポチはどうするんだ。まだ追いかけて来てるぞ」


 底なしの体力を持っているのか、ポチはどこまでも追いかけて来た。こちらがスピードを早めれば、その速さに追従する形で走ってくるのだ。まるで、僕たちを弄んでいるかのように。


 けれど、仲間たちはどこまでも勇敢であった。

 弱音を吐く僕に対して、仲間は全員「任せろ」と自信満々な表情を浮かべるのだ。どんな意図があるのかは知らんが、余程対処法に自信があるのだろう。何があるのか……。


「あれ……出口じゃないか?」


 山道の遥か先——そこに一筋の光が見えたのだ。

 車を走らせれば走らせるほどに、その光が近く、そして輝いて見えた。あそこまで行けば僕たちの自由は確実になるはず。


 その瞬間、突然車がキキィーと派手な音を立てて止まった。

 急ブレーキを掛けるとは何か起きたのかと思うのも束の間。

 後ろからはポチが猛スピードで駆けている。

 焦る僕に対して、仲間たちは策は練ったと余裕な表情で。


「ルーク、お前の役目はここまでだ」


「えっ……?」


「お前はポチの餌だ」


 その言葉と同時に、仲間の一人が僕を思い切り蹴ってきた。

 車のドアから転げ落ち、僕は地べたへと這い蹲ってしまう。


「な、何をするんだ! ど、どういうことだぁ! お前ら!」


 このままでは溜まったもんじゃないと、僕は立ち上がる。

 車の窓から顔を出した仲間たちは全員ニタニタ顔で。


「元々、俺たちはお前を仲間だと思ったことはねぇーんだよ」

「そうだよ。最初からお前はこの計画の囮りだよ、バァーカ」

「ぎゃっははははは。利用されてバッカみたいだな。本当に」


 三者三様。仲間達全員が、僕を小馬鹿にしてきたのだ。

 腹が立つ以上に無性に胸が悲しくなった。

 勿論、僕自身が仲間を売るなどして悪いことをしてきた。

 で、でも……この脱出には僕の力が不可欠で。

 一番、僕自身のリスクが大きかったのにも関わらず。

 そ、それでも。考えるよりも前に声が出てきてしまう。


「ふ、ふざけるなぁあああああああーーーーーー!!」


 声と共に涙が出てきた。信じていたのに。

 結果は裏切られるのだ。人間を信じた、僕がバカだった。


「ふざけるな? 何を言ってんだ? お前も、俺たち仲間のことを売って来てたんだろ? 先に裏切ったのはお前だろうが」


「くっそたれがぁあああああああああああああああ!! お前ら人間じゃねぇーよ。お前らは全員クズだ。ゴミだ。生きる価値がないゲス野郎だよ。悪党だよ。最低最悪なゴミカスだよ」


「傑作だよ、お前のその表情。毎回毎回、お前は俺たちをボスに密告してたの知ってんだよ。仲間を売り、甘い蜜を吸ってたくせに、それなのにこの後に及んで人様を悪党扱いかよ」


 タッタッタ、と後ろから死の宣告が聞こえてくる。


「それじゃあな。ルーク。俺たちの為に、犠牲になってくれ」


 森の中に僕を一人残して、駆動車は走り去っていく。


「待てっ! 待ってくれっ! 金なら幾らでもやる」


 走り出した駆動車を追いかけ、僕は大きな声で叫んだ。


「お前ら……ぼ、僕を助けろっ!! 救わなかったら、どうなるのか分からないのか。僕は近々爵位を取り戻すのだぞ」


 ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 僕はこのどん底から這い上がり、ミーシャと結婚するのだ。

 そして——僕は爵位を取り戻し、アメリアを奈落の底に落とす。それが僕の夢。僕が何度も夢見た野望。


「さっさと僕を救えっ! 今ならまだ間に合うぞっ!?」


 スゥーと心地の良い風が吹き、僕は後ろを振り向いた。

 目撃したのは大きな口を開いたポチの姿。

 鋭く尖った幾つもの歯。そして、口から垂れる緑色の唾液。


 ああ、僕は死ぬんだ……自分でもそう悟った。


「や、やめろっ……ぼ、僕を、た、食べても……美味しく何かないぞ。アイツらを食べろ……アイツらの方が、う、美味いぞ」


 説得しようとも、相手は魔物。不可能な話であった。

 パクリと大きな口を開いて食べられたのは右腕。利腕だ。


「うわああががががががががが。い、いたい……いた、たいたいたいたいちあいたたいたいたいた……いたいたいたいたた」


 あまりの痛さに発狂し、地べたを僕は転げ回る。

 魔物は僕を見て笑みを漏らすこともないが、狩りの楽しさを知っているのだろうか。徐々に痛めつけてくるのだ。


 少しずつ、少しずつ、ポチは僕を味わって食べるのだろう。


「ばうぶいないおたこたいじょいあじぽんほんかんかあどあどあぢはだだはふぃおあぁふあんぁほはおうひおあたごいはおたういふぃおあとうあふいおふぃうあふいあ……バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキビビビビダダダ」

ルーク編、完結

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