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 太陽が上り始まる前段階で、若干の涼しさと薄暗さがある翌朝。熟睡していた僕たちを襲ったのは、ド派手なサイレン音。

 耳を塞いでも聞こえる大きな音に耐えきれず、僕たち労働者は飛び起きて、何事かとお互いに顔を見つめ合わせる。


『お前ら人間のクズ共、全員外に出ろ。大切なお知らせだ』


 突然の召集。

 意味が分からないまま、僕たちは眠気眼で部屋を出た。


「なぁ、なんだ……あ、アイツは……?」


 部屋の外で待っていたのは、僕が知らない魔物であった。

 特筆すべきなのは、顔面の五割を占める大きな一つ目。

 手は生えていないものの、足は生えており、二足歩行が可能である。大きな目の下には口が裂けており、その奥からはギザギザな歯が露わになっている。

 僕が知る限りでは、サイクロプスという魔物に一番近い。


「実はな、お前らの中に良からぬことを企んでいる奴等が居るという情報を、誰かから聞いた。その為に準備させてもらったのが、このポチだ。どうだぁ? 可愛いだろぉ?」


 饒舌に喋るボスには申し訳ないが、可愛さはどこにもない。

 口からは長いベロを出して、空を舞う蛾や蠅を呑み込んでしまう。まるで爬虫類のようだ。


「お前ら全員気になるようだな。コイツは帝国が隠れて試作していた実験戦闘生物の生き残りだ。お前らも知ってるだろ? 数年前まで世界帝国大戦が繰り広げられていたことを」


 世界帝国大戦。

 数年前に起きた歴史上で語り継がれる大戦争。

 世界中の帝国が二つに対立し、多くの人々が犠牲になったと聞かされている。僕は伯爵の息子ということで出兵することはなかったがな。

 確か、どっかの聖者が戦争を終結させたんだっけな。


「まぁーそんな話はどうでもいい。今日からこのポチがお前らの監視員だ。妙な真似をすれば、どうなるかは分かるよな?」


 ボスの言葉を受けて、以心伝心なのか、ポチが唸り声を上げて、僕たちに大きな口を見せてきた。噛まれたら致命傷は避けられないぞ、これは確実に。


***


 緊急招集終了。部屋へと戻る前に、僕はボスから酒瓶を恵んで貰った。今回の報酬だと言う。仲間を売って手に入れる酒は、やっぱり美味い。まぁ、僕にとってはただの道具だが。


「何だ、お前ら……僕を睨んできやがって」


 部屋へと入った瞬間、僕へと突き刺さる視線。

 今までも何度か同じことはあったが、今回は特に酷い。

 僕を除く全員が肩を撫で下ろし、大きな溜め息を吐くのだ。

 しかし、口に出して何かを言って気はしない。嫌な奴等め。


「フンッ、僕を一人だけ蔑ろにしたから悪いのだ」


 やれやれ困った奴等だ。流石、僕は選ばれた人間である。

 僕以外の三人は、僕がボスに気に入られているから嫉妬を抱いているに違いない。本当に嫌になるねー、自分が選ばれなかった人間だと知って、やけになるってのはさ。


「おいおい、そうやって反抗的な態度を取ってもいいのかなぁー? 僕がボスと仲が良いのは君達も重々承知なのだろぉ? 何を企んでいるのは知らないが、さっさと僕に報告した方が身の為だぞ。お前らがあのポチちゃんの餌食になりたいなら話は別だけどなぁー」


 三人は円を作って、互いに話し合いを始める。

 顔色を察するに不機嫌なことは丸分かり。

 けれど、何かしらの結論が出たのだろう。


 三人の中で一番頭がキレそうな男が一歩だけ前に出て。


「オレたちは地獄(ここ)から脱出する計画を立てた」

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