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「は、破門だとっ!? アメリア……な、何を言ってるのだ」


 ルークは食ってかかってきた。現在の地位を脅かされる事態だけは避けたいのだろう。だけど、これを含めて私の復讐だ。


「さっきの言葉は全て嘘でして? どういうことですか?」


「これと、それとは別だ。あんまりすぎる。撤回して欲しい」


「良い機会だと思いますよ。一度心を清られてみては?」


 改心してくれればいいが、都合良くこの男が変わるはずがない。ぐーたらな貴族には一度現実の厳しさを教えるべきだ。


「待ってください。アメリア様……流石に破門など前代未聞でございます。息子の件は、父親である我の責任で……処罰を受けるのは、我だけで十分じゃないでしょうか?」


 ガウス伯爵の子供を思う気持ちは非常に伝わってくる。

 どんなに情けない人間でも、親にとっては可愛い子供なのだろう。ルークには苦労してほしくないと思っているのだ。


「子供が起こした問題は、全て親の責任ね。気持ちは分かるわ。仕事でも、部下が起こした問題は上司の責任だし。実際に部下はもう二度と上司に迷惑をかけないように頑張ろうと思うことだってある」


 でも、と呟いて、私は床に跪く元婚約者を指差して。


「彼には頑張ろうという気が全く見えません。毎回毎回同じ失敗を繰り返し、挙げ句の果てには全てを周りの責任にする。自分の都合通りにならなければ、すぐに諦めてしまう」


 淡々と語る私の声が部屋中に響き渡る中、誰もが黙って口を開こうとしない。声に含まれる私の怒気が伝わったのかな。


「貴族として民の為に尽くすのが当たり前。それにも関わらず、ルークは何も貢献していない。自分は他人よりも偉いんだと高ぶり、自分よりも弱い物を侮辱する。これが貴族ですか?」


 ルーク以外にも、高ぶる貴族は何度も見てきた。

 私利私欲の為に民が集めた金を使い果たすクズ達を。

 お金儲けがダメなわけではない。民を家畜程度にしか思ってないのだ。根が腐っているのだ、奴等は。


 実際に数年前までこの世界では大規模な戦争が起きていた。


 戦時中、国の役員達が放った言葉は何だったと思う?


——兵士の代わりは幾らでも替えが居る——


——さっさと出陣させよ——


——兵士が死ねば、新たな兵士を呼び出すだけだ——


 戦争で亡くなった人たちには家族が居るのに。

 奴等は、彼等は、残された人達のことなど分からないのだ。


 悲しみを。怒りを。そして、心に抱える闇を。


 まぁー、とある聖者さんの力で、戦争は終焉を迎えたけど。


「ガウス伯爵、貴方は自分の子供を甘やかした。そして、貴方は生み出したんです。モンスターを。私利私欲の塊を。手の付けようがないほどの甘ったれを。息子さんを思う気持ちがあるのならば、ここで手を打つべきじゃないですか? 決断を」


「父上っ!? だ、騙されなぁ!? これはコイツの罠だ。僕を破門して、何か企んでいるんだ。父上、絶対に話に乗ってはいけない。アメリアの話を聞いたら……だ、ダメだぁ!?」


 その場凌ぎの反省では直ぐにボロが出るわね。

 元々私に謝る気など全くなかったものね。

 焦ってるけど、もう遅いのよ。全てが遅い。


「ルークさん。少し黙ってて貰えませんか? 私は貴方のお父様と喋っているんです。対談中には私語を謹めと、最低限のマナーさえも学んでいないんですか?」


「ふざけるなぁ!? アメリア、何が目的だ。僕を破門して、どんなメリットがあるのだ。さっさと答えろ、この悪魔女っ!」


 キャンキャン犬のように騒ぐルークだったが……。


「うるさいぞ、ルーク。お前は家を出てやり直すのだ。目上の方への口の聞き方さえできておらん。お前はシュバルツ家の次期当主として、そして魔法大学で何を学んできたのだぁ!?」


「えっ……ち、父上……な、なぁ……何を……言っているんですか? 父上……ち、父上だけは、ぼ、僕の味方だと……」


「お前がここまでバカだとは思ってなかった。親として、我にも責任がある。お前は家を出て、常識を学んでくるべきだ!」


「ま、待ってください、父上……ち、父上……」


 実の父親に裏切られるとは思ってなかったのだろう。

 そもそもな話、ガウス伯爵は良識のある方。話せば分かってくれると思っていた。ドンピシャリと言った感じだ。


 ガウス伯爵の靴を掴み、ルークはグシャグシャ顔で。


「ち、父上……う、嘘でしょう……こ、これも、アメリアの仕業です。アメリアには何か裏があるんですよ……ぜ、絶対に」


 心を鬼にしたのか、ガウス伯爵は纏わりつく輩を振り解いた。藁にも縋る思いだったのに、残念だったわね。ルーク。


「あ、アメリア……あ、アメリア……助けてください……反省してます。ぼ、僕は……本当に申し訳ないことをしました。この通りです。許して下さい。僕の父上に、破門の件を取り消すように言って下さい。お願いします、アメリア様……アメリア様」


 何もかも振り切ってしまったのだろうか。ルークは顔が床にめり込むほどに、頭を下げた。やりすぎである。逆に無礼に値するとは思ってもないのかしらね。反省の意思は見えるけど。


 どうせ、これも全てが演技でしょ? 分かるわよ、私には。


「(まだ大丈夫だ……アメリアなら許してくれる。アイツは甘いからな。僕がこれほど謝れば、直ぐに撤回してくれるはず。撤回したら覚えとけよ。お前を地獄まで叩き落としてやる。もう父上は役には立たん。あんな老害はもう願い下げだ。もっと強い奴らを味方に付けねば……さて、アメリア……早く僕を許すのだ。これほどまでに反省を見せているのだ。ほらぁ、さっさと僕を許せっ!? 許せっ!? このくそアマ)」


 悪役は悪役に最後まで徹する。その姿勢は褒めたいわ。

 改心して良い人になったら、心残りがあるもの。

 でも、ありがとう。純粋な悪で安心したわ。

 だからこそ、私は迷うことなく裁くことができる。


「土下座して謝罪してももう遅いわよ。ありがとうね、婚約破棄してくれて」


「えっ……? あ、アメリア……? ど、どうして……?」


 心優しい私なら許してくれると勘違いしていたのだろう。

 ルークの表情は傑作だった。最初は固まったままだったが、途中からは両手で頭を抱えて奇声を発するのだ。現実を受け入れられないのだろう。


「見え透いた嘘は自分を滅ぼすだけよ。女だからって甘く見ないで。でも、ありがとう。貴方みたいなクズは心置きなく断罪できるから。それじゃあね、さようなら。ルーク」

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