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二次創作

作者: 蒼井梨



自分の存在が唯一じゃなくて、「○○の××」になるのが嫌だった。自分は常に一次で、誰の二次でもないことを守っていきたかった。


幼い頃からアニメが好きで、その二次創作を見るのも大好きだった。個人サイトや、そういう作品が集まったサイトを見ていくうちに、気付けば自分自身も、携帯やパソコンに向き合って、作品を生み出して、世に放出するようになっていた。人に借りたキャラクターが、私の手の中で私の好きなようなことを経験し泣き笑い手を取り合う。最初はそれがただ楽しかった。


でもある日それが突然虚しくなった。原作では、血を流して仲間を守る主人公が、誰かの手の中では悪役に寝返りして仲間の命を奪ったり、敵対する組織の男が、主人公と恋に落ちてスリリングな逢瀬の果てに指を落とされたりとか、死んでしまった誰かが生きてる時空だとか、なんとかかんとか。悲しいものから笑えるもの、泣けるものまで多種多様。でも、本当にその登場キャラたちはそれを望んだのだろうか。否の場合がきっと多いだろう。だって、登場キャラたちは、それぞれがそれぞれの強い信念と、意志と葛藤とを持って、彼らの世界で生きているのだ。それをねじ曲げて、運命を変えて、それを私たちが決めた顔で終わらせるのは、登場キャラたちに失礼なんじゃないか、と私はふっ、と思ってしまった。きっかけは、下手くそな二次創作を読んだからなのか、自分で書いてるのに頓挫したからかは忘れたけど。とにかく真理に触れてしまった気がして、それ以降は何を読んでも心が動かなくなってしまった。私は自然とその二次創作のサイトから自分のアカウントを、なんの躊躇いも知らせもなく削除した。


それでも、創作することは好きなままだったから、今度は個人サイトを立ち上げて、そこに自分の一次創作を産み落とした。自分が愛情込めて作り上げた自分の人生キャラクターたちが、それぞれ強い思いを持って、強い信念を持って生きて、喜怒哀楽を全身で感じている姿をかくのは、とてもとても楽しかった。最初は少なかった拍手やコメントも、回を追う毎に少しづつだが伸びていった。時には心無い言葉だってあったけど、気にならないくらい自分は満たされていたのを感じる。自分の存在がいつでも誰かの“一次”であることが、自分の心をこんなに高揚させるのなんて知らなかった。

受験とか、就活とか、そういう現実の疎かに出来ないこともあったので、更新頻度は決して高くはなかったけど、それでも応援してくれる誰かのお陰で、ついに個人サイトを設立してから10年が経った。10年記念のその日に、出版社から電話がかかってきた。

かくして、自分はそこそこ名前の知られた出版社の、ライトノベル作家としてネットから現実へこの名を羽ばたかせた。


順風満帆ではなかった。最初は興味半分、おもしろ半分、昔からのファン、など色んな人が買ってくれたお陰で、なんとか黒字だったけど、その後は伸び悩み、一時は打ち切りの覚悟も言い渡された。そんなことに負けたくなくて、SNSやネットを使って宣伝したり、本屋を回ったり、担当の方と一緒になって自分を、自分の子達を売り出した。その努力が実ったのか、徐々に売上も伸び、ファンも固まっていった。

デビューして3年経って、シリーズがひとつ終わりを迎えた。その頃には、自分はすっかり有名なライトノベルの作家、として世の中に認識されていた。自分の一次創作が誰かの目に触れて、世の中に認められるのは気持ちよかった。やりがいだった。


ある日、アニメ化の話が持ち込まれた。1も2もなく頷いた。原作である自分の小説をなぞって自分のキャラクターが喋り動き泣き笑う。頭の中では何度も想像したそれが、テレビにかたちとなって現れた。第1話の放送の後、静かに泣いたのを覚えている。中盤頃までは、幸せに毎週の放送を見ていた。


それは2クールが決定したすぐの放送、第11話。

自分の小説で、1番気に入っていたキャラ。愛くるしくて世渡り上手だけど、主人公に対しては敵対心全開でよく噛み付くその子が、主人公を庇って命を落とすシーン。我ながら名シーンのひとつだと思う。だから心待ちに、心待ちにしていた。

放送を見終わってみたとき、自分の心は虚無だった。

彼は生きていたのだ。自分の物語に背いて、生き延びて、主人公と抱き合い笑いあっていた。何故?制作側の勝手な判断らしい。担当から電話がかかってきて、謝罪と、それから今後とがたくさん話されていたけど、頭に入らなくて電話を切って、携帯の電源を落としてやった。


自分の物語が、あのアニメの二次創作に落ちたような気がした。逆な気もした。でも、アニメから見た誰かにとって自分の小説はきっと二次創作なんだろう。


自分は、あのアニメの原作者で、彼を殺す方の作品、に成り下がったのだ。


自分という人生が一次創作であり続けることを祈って、締めくくろうと思う。じゃあ、また来世で。


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