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おばあちゃんの小さな恋人

作者: 真木

 菜緒なおが幼い頃、おばあちゃんには小さな恋人がいたらしい。

 おばあちゃんの家で菜緒がお昼寝をしていると、誰かがおばあちゃんとお菓子を食べながらおしゃべりしている気配を感じていた。

 その子は、ちょっとだけ菜緒より年上のようだった。あまりじっとしていなくて、たぶん男の子だった。

 おばあちゃんとその子が何をお話ししているかはよくわからなかったけど、おばあちゃんはころころ笑って、とても楽しそうだった。

 あるときおばあちゃんの家で菜緒が育てていた朝顔が引き抜かれていた。菜緒はいっぱい泣いて、あの子のせいだと怒った。

 それからその子はおばあちゃんの家に来なくなって、菜緒はなんだか変な気持ちだったけれど、おばあちゃんは何も言わなかった。

「帰ってきなさい。もうおばあちゃんはいないのよ」

 電話口でお母さんが心配そうに言う。

 菜緒は大学生になって、おばあちゃんの家で一人暮らしをしていた。

「家もあちこち古くて危ないんだから」

 お母さんの言うことはわかるけれど、菜緒はおばあちゃんの家で暮らすのをやめたくなかった。

 おばあちゃんの家は学校が近くて、菜緒は中学生まで毎日のようにここに来ていた。

「そうだけど、まだ直せば住めるもの」

 高校生になって足が遠のきがちになってから、おばあちゃんの具合が悪くなったことに気づかなかった。

 菜緒は口をへの字にして通話を切った。

 お母さんの言うことはわかる。菜緒が住み続けたって、おばあちゃんが帰って来るわけじゃない。

 でも時々馬鹿なことを考えてしまう。ここに住んでいたら、おばあちゃんのおばけに会えないかなと。

 幼い日に菜緒がお昼寝をしていたときのように、おばあちゃんが楽しそうに誰かとお菓子を食べている夢が見られたなら、いいのになと。

 菜緒はもう大人だけど、大人になってからの方が夢を見ることは多くなった気がする。

 今日も泣きたいような気持ちで布団に入って、かろうじて泣かないうちに眠りについた。

 夢を見たつもりはなかったけれど、突然体に震えが走って、菜緒は目を覚ました。

 誰かに強く揺さぶられたみたいで、おびえながら体を起こす。今は夏で、窓も開けているから、泥棒でも入ったかもしれないと怖かった。

 急いで窓に向かうと、庭を見て息を呑む。

「誰が……!」

 菜緒が庭で育てていた朝顔が引き抜かれていた。驚くより怒りがこみあげて、庭に飛び出す。

 あの子のせいだ。小さい頃のように涙がにじんだとき、今度こそ確かな震えが全身に走った。

 立っていられないくらいの地震を感じて、菜緒は思わず転ぶ。

 そのとき、菜緒は風の中に声を聞いたような気がした。

 ちゃんと約束を守ったよ。ほめてくれるよね。

 小さな男の子が笑った気配がして、風はどこかへ去っていった。

 その夜、長く不安定な揺れで、けがをした人たちがたくさんいたらしい。

 おばあちゃんの家はどうにか無事だったけれど、菜緒の布団には棚が倒れていて、もし寝ていたら菜緒もけがをしていた。

「おばあちゃんが守ってくれたのかもね」

 お母さんと家の修理の話をしながら、菜緒は小さい頃のことを思い出していた。

 朝顔が引き抜かれた少し後、庭にへびが出て、菜緒が庭で遊んでいたら噛まれていたかもしれなかった。

「うん。おばあちゃん笑ってるかな」

 きっと今頃、彼はおばあちゃんとお菓子を食べながらおしゃべりしている。

 菜緒にも内緒の二人だけの約束をちゃんと守ってくれたねと、おばあちゃんにほめられている。

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