やっぱりお前が嫌いだよ
BLじゃありません。ごめんなさい。
「嫌いだ」憎たらしい程に整っている面に言った。
彼は困った顔で去ってしまった。
チッ、クソが。どこまでもキザな野郎だ。
俺とあいつが出会ったのは高校一年生の頃だった。
成績はいつも一位で運動全般得意。部活には所属していなかったけど、度々助っ人として入っていた。それに加えてイケメンとか、非の打ち所がない。
それに比べて俺なんか……。成績は塵に散り、日々の怠惰も相まって運動はゴミ。
嫉妬してるって分かってる。でも、それでも我慢ならなかった。
今日もヤツを避けていた。憎いことに通学路が同じだからバスも電車も出会ってしまう。
だから時間をずらして通学していたが、ある日事件が起こった。
「やべえ遅刻だ!」
昨日夜更かしして寝坊してしまった。朝食もままならず早々に家を出る。
バス停まで全力疾走。もうバスは来ていた。
息を吐き、周りを見渡す。視界に写るのはあの憎たらしい顔だった。
少し焦った表情を浮かべ、汗をかいている。ヤツも遅刻か?ざまあねぇな。
内心ほくそ笑みながらバスに乗車する。バスで十分程揺られ、電車に乗り換える。
俺が先にバスを降り、なるべくヤツに認識されない様に立ち回る。
しばらく歩いていると、重そうなリュックサックを持った婆さんがのそのそと歩いていた
その如何にも重そうな荷物を見て、俺は頭を掻きむしる。
なんで俺なんだよ。チッ、ったく仕方ない……。
「そこのお婆さん!持ちましょうか」
前を歩く婆さんに声をかけると、ゆっくりと振り向く。
「ああ、すまないねぇ」
いえいえと適当に返事しつつリュックに手をかける。
持った瞬間ガクッと腕の力が抜ける。クッッソ重い!!なんて重さだよまったく、よく持てたなこの婆さん。一旦地面に置き、一気に持ち上げて担ぐ。行先を駅前と聞いて少し絶望。
うっわマジヤベェなコレ……。これ遅刻確定案件なんだが。まあもういい、この際遅刻なんて構ってられるか。
そう自分に言い聞かせ、力を振り絞る。
「手伝おうか?」
声がかかったのは後ろ。そしてこの声の正体は……ヤツだ。
ああクソッキザんなこの野郎。重さとヤツでイライラが増す。
「いい、別に……」
強がってそう言ってみるが正直もう限界近い。脚も重さに負けつつある。フラフラと千鳥足になっている様子を見て、ヤツはもう一度声を掛けてきた。
「下ろせって、俺もやるから」
黙れ、と罵倒しようとした瞬間、脚がガクッと力が抜けた。その場で転び、担いだ荷物は地面に転がり落ちる。
婆さんもヤツも俺の方へ寄って来る。
「ほら、もういいだろ?俺もやるから」
転んだ身でこれ以上何も言えず、素直に従う。俺が担ぎ、後ろからヤツが補助する形になった。重量は半分くらい楽になった気がする。歩く速度も早くなり、遅刻は確定だが一限には間に合いそうだ。
思いの外駅前には早く到着した。
婆さんは「ありがとう、ありがとう」とペコペコしながら去って行った。
「おい、なんであの時助けた」
俺はヤツの顔を見ずに言い放つ。ヤツには俺を助ける義理もない、寧ろ無視するもんだと思っていただけに意表を突かれた。
「なんでって……」
ヤツは言葉に詰まり、黙る。
すると、突然ヤツが焦った顔で「危ない!」と言いい俺を突き飛ばし、覆いかぶさった。
俺はなんなんだ!?と思ったが、一瞬で状況は飲み込めた。自動車が暴走し、歩道に乗り上げ、近くの電柱に衝突したのだ。凄まじい勢いと音で俺は唖然した。
あと少し遅かったら……。
するとヤツが俺の方を向く。
少し唇を震わせながら俺に向かって言う。
「怪我はない?」
「あ、ああ……」
二人とも立ち上がり、周りを見渡す。人々はパニックに陥っていたが電話をする人もいたので直ぐに警察が来て事態を収めるだろう。その場で少し呆然としていた。
警察や検察が現場検証をしているのを傍目に突っ立っていた。
そして二人同時に互いに向き合う。俺は急いで目を逸らす。
「さっきの質問だけどさ」
さっきと言うのは事故が起こる前にやり取りしたものだろう。
「困っていたり、危険な目にあってたりしたら助けるのが当然だと思う。君があのお婆さんを助けたように」
何時までキザなヤツだった。その顔も声も嫌いでずっと避けてきた。
「ありがとうなんて言わないからな」
「いいよ別に、それに言われなくても伝わってくるから」
そう言って相変わらず整った顔で笑う。
「やっぱりお前は嫌いだ」
「それも知ってる」
ヤツはまた笑い、俺も少し照れくさくて頭を掻きながら笑ったのだった。
嫌いだったヤツがなんとなく、好きになれた気がした。