『83話 蒸気風呂』
『83話 蒸気風呂』
蒸気風呂は静かであるが、俺には気配は感じる。
並みの冒険者ならともかく、俺には通じない。
完全に気配を消して扉に触れる。
扉を一瞬で開けて、中に。
風が入ったくらいにしか思はないだろう。
「ええっ、どこから入ったタケダ」
「あなた達こそ、いつから蒸気風呂に。ここは男性用だが」
蒸気風呂に居たのは、女性だった。
人数は五人。
先程、俺を案内した女性である。
俺よりも先周りして蒸気風呂に隠れていたようだ。
「……速い。扉を開けて入ったのが私には見えなかった。知れば知るほどに恐ろしい男だ」
「レーン……まるで俺を試している風に聞こえた」
さっき会った女性に似ているがレーンにも見てる。
蒸気風呂は熱い。
蒸気で蒸してあるから、少しの時間でも汗をかく。
真ん中に座っていたのなレーン似の女。
全員裸で体をタオルで巻いただけ。
胸元からは大量の汗の粒が見える。
「レーンだ。お化粧をしていたからわからなかったか。試して悪かった。どれほどの実力なのかは知っていたが悪かった。敵意はない」
「敵意はありません」
「敵意はありません」
「わかった」
レーンが謝ると、周りの四人も頭を下げる。
下げるのはいいが、タオルから胸が溢れそうになった。
中にはタオルが取れてしまうのもいたが、俺は見なかった。
「試した理由をお話する。タケダの力を借りたくてムイト国の王都にまで今日来た。タケダが競技大会で優勝した。人外の強さだった」
「俺は一般の人だが」
「並外れた能力とスキルを使いこなす。我らはセレスタ国の人間。セレスタに関係している」
「セレスタ……」
セレスタ国から、わざわざ来たようだ。
俺を試しに……。
「セレスタ国の王都から遠いがドミナートス町がある」
30才くらいに見えるレーンは、化粧すると変わるものだと知った
しかし問題は俺に頼るのがわからない。
「ドミナートス町は知らなかった。あとレーンならば俺の助けが必要なのかなと。国の姫なのだ。騎士団を使えば十分ではないか」
「私では難しい問題なのだ。騎士団を使いこなしても難しくてな。ドミナートス町の規模は中規模の都市で、農業が特に発達している。特にソバが特産であり、ほぼソバが主力の産業なのだ」
「ソバか。俺も好きだソバは」
ソバは好きな食品である。
風味もあり、コメとは違った味わいだ。
ドミナートス町が特産なのは知らなかったが、興味深い話になった。
「タケダがコメを作る農民だとも聞いていて、農民ならばソバに関心を持つかと思った」
「もちろん興味がある」
「ならば残念な話になるけども、町の特産品であるソバが危機的なことになっている。ソバの農地は町に面して広大な面積。ソバ農地が虫が発生したことによって、食い尽くされつつある」
「虫……、ソバを食う、聞いたことのない虫だ。だが害虫は多く生存しているのは知っている。コメを作る上でも苦労はするからだ」
害虫に悩むのは非常にわかる。
俺も同じ苦労はしたからだ。
何度もコメを食われたか、数え切れない量になる。
「虫を駆除するのは困難で、国に要請したが駆除に失敗した。あまりの数の多さに、駆除しきれなかったのだ。そこでタケダに虫の駆除を頼みたく来た。簡単な依頼ではないのはわかっていてお願いする」
「害虫の駆除をしてくれか。構わない、俺は農民だ。ソバ農民が苦しむ姿は見たくない。駆除を協力しよう」
いきなり協力をお願いされ、困惑はあるも、農民のためなら俺は犠牲は断らなくしたかった。
駆除がどれ程のレベルなのか現在のところは把握できないが、かなりの酷いレベルと推定した。
レーンの顔には嘘がなかった。
タオルを巻いた姿は、真剣さが見てとれたからだ。
決してふざけてした行為ではないだろう。
この高級風呂店を借りて細工したのか。
だとしたら真剣でしかない。
遊びでここまで俺にお願いするわけない。
「この高級風呂店の店主とは嘘だったのだな」
「そうです。本当の店主には訳を話してあります。一晩だけお店ごと借りたのです。タケダに本気度を伝えるため」
「本気度?」
本気度の意味がわかりにくかった。
別に俺は自宅でも飲食店でも話は聞いたのだが。
「タケダが依頼を受けてくれるなら、我らは体を張ります。さぁ、こちらにお寝ねください」
「寝ろと……」
会話の途中で俺に寝ろと要求してきた。
蒸気風呂の床は木製であった。
木の板の上に寝かされた俺。
いったい何をする気か。
話は全て嘘で俺に殺意があるのも警戒しておく。
「これはセレスタ国に伝わる伝統だ。相手にお願いをする際に必ずする……」
レーンと四人の女は板に寝た俺の上に。
足、腕の上に、そしてレーンは腹の上に乗った。
どうする気だ。
俺には想像もつかないのはあるものの、わかっているのは、彼女らは体を使い出したことだ。
「これは……」
彼女らは俺の手足や体を優しく触りだした。
室内は熱いから、汗ばんでいるのに。
俺は黙ったまま従った。
「セレスタ国に伝わる伝統整体。疲れや痛みなどを取るの。そのまま寝ていていい」
「…………」
確かに体の芯から疲れが取れてるような不思議な感覚だ。
タオルを巻いていながらも、懸命に俺に尽くしてくれるのは感じた。
肌と肌の重なり合う動きだった。
しばらくレーン達の整体とか言うのを経験した。
「終わりだ。整体を受けた感じはどう?」
「とても楽になった気はする」
「整体とはそう言うものだ」
「依頼を受けるとして、ドミナートス町の場所は俺は知らない。詳しい地図を」
セレスタ国には何度も入国しているし、数多くの町には行ったがドミナートス町は行っていない。
「こちらが詳しい地図だ。我々も馬車で来たから、一緒に馬車で移動したらいい」
地図は薄い紙であるため、蒸気でふやけていた。
「アイテムボックス」
アイテムボックスに入れておけば、濡れる心配はなくなる。
少し見たところセレスタ国の王都からは、遠い距離だった。
馬車だと何日もかかるだろう。
「アイテムボックススキル持ちか」
「馬車での移動はしない。別のルートで町に移動する。あと俺には仲間がいるから、二人増えるがいいか」
依頼を受けるならキアラとフェンリルも一緒がいいから。
「仲間がいるのはいいとして、馬車を使わないと?」
「そうだ。まずは仲間のところへ」
◇モチハウス
モチハウスにレーン達を呼んだ。
王都でのパーティーは終わっており、中にはキアラが待っていた。
五人の女を突然に連れて行ったから、びっくりしている。
「その女性はどうなさったの?」
「風呂に案内してくれた女性だ。彼女はレーン」
「レーンだ。タケダに依頼をした」
「お化粧しているから、わからなかった」
依頼の内容である、ソバの農地の件については、レーンから説明してもらった。
「げっ虫……」
依頼の説明をするとキアラは、気持ち悪い顔をしている。
虫が嫌いと思える。
「キアラは虫が嫌いか」
「とても嫌い」
「私は好きでも嫌いでもないから、ご主人様と行くとして、キアラは残るかい」
「一人で残るのは嫌かな」
「そしたら出発だぞ」
「わかりました。タケダ様が農民ですし、同じ農民が苦しむのを見たくない。気持ちを察します。協力しますレーン」
「ありがとうキアラ」
モチハウスをしまい込み、次にモチジェットを出す準備に。
「アイテムボックス、モチジェット」
「うわぁっ」
レーン達は、モチジェットの出現には驚きの声を。
見たこともない風である。
「なんだ、タケダのアイテムボックスに限度がないのか。家を入れたり、次に乗り物たいなのを出したりと」
「限度はない。今まで限界になっていないから」
「タケダ様のアイテムボックスにはコメも入れてある。以前には三ヶ月分のコメをアイテムボックスから出して渡したし、なんでも入る」
「噂に聞いていた以上の凄さだ。それで私達は馬車だセレスタ国に行く」
「違う。レーン達もモチジェットに乗る方が速い。全員乗れるからだ」
レーン達を乗せても座席的には大丈夫だろう。




