『※39話 リザードマンに苦戦』
『※39話 リザードマンに苦戦』
◇平原(三人称)
騎士団長カナロアが戻る際に、あとから追って来ていた攻撃部隊のトニックらと合流、トニックと馬に乗ったまま挨拶をする。
「トニックか、お前も来たか」
「それで、もう倒したのかよ。俺の分まで残してくれねえと困るんだなあ」
「心配するな。逃げてきたんだ」
「何?」
てっきり倒したのかと思っていたトニックは、意表をつかれ、疑問形で答える。
「相手の魔物はリザードマン。爬虫類の魔物だ。剣を使えるし、攻撃力はある。しかも問題はリザードマンが現れる地点を発見したことだった。未発見ダンジョンがあり、そこから湧いて出てくるところを見た。数が半端ない。協力を頼む」
「未発見ダンジョンかよ、それは聞いてねえし。しかし王都に近い距離にダンジョンが現れるとは災難だな。ダンジョンごと潰すしかねえ」
それからカナロア団長から説明があり、攻撃部隊は全員で、リザードマンとの戦いをし、王都には絶対に近づきさせないと決意した。
決意した時からリザードマンとの戦いが始まった。
「カナロアさん、到着しました」
「リザードマンが相手になるぞ」
カナロアの後方からは応援の冒険者部隊も間に合い、リザードマンとぶつかり合う。
数的には相手か多いのは承知で冒険者は集まる。
カナロアがリーダー的な立場は変わらないで、リザードマンの剣と騎士団の剣が相まみれた。
早くも流血が起こり、パワーがあるリザードマンが優勢になった。
「フェザーカッター」
初めて戦うリザードマンに、トニックの剣スキル、フェザーカッターが放たれると、激しい剣の音がした。
普段はトニックに文句を言ってるダイアも負けじとカマイタチの疾風を放ち、リザードマンに襲いかかったところにスマッシュが、とどめを刺す。
「ありがとう、助かる」
「リザードマンは強い。しかも数が半端ない!」
スマッシュが倒したのを確認した後にダイアは、軽くウインクしてみせた。
別にスマッシュに気があるわけではないが、ありがとうの意味もあった。
ここでもスマッシュは片手で肉を食っていた。
食いながら戦うのがスマッシュ流。
ここまでは良かった。
リザードマンを倒せたのはラッキーな面もあったからで、形勢は敵が良くなっていくと、騎士団の中に、体力の限界になる者が現れる。
倒れる人数は騎士団と冒険者連合の数が上回ったのを見たレーン姫は、恐怖に弓を放つ腕が固くなる。
「カナロア、押されているのでは?」
「数が多い。多過ぎる。俺が思った以上に多いな」
「おい、カナロア、このままじゃ全滅する。マジでヤバイかも」
トニックもカナロアに近づき、リザードマンの優勢に苦言を言うと、カナロアは苦しい顔をした。
一対一なら負けないつもりでも、凄い数で来られた場合は、劣勢になってしまう。
団長という地位、それは責任を負う。
カナロアの決断しだいで、敵を負かすのも出来るが、全滅することもあり得た。
責任の重大さを感じたカナロアは、倒れていく仲間をこれ以上出すわけにはいかなかったから、逃げる選択を取った。
「みんな、退散する。これ以上は無駄死にさせる…………」
苦しい決断だったが、カナロアには精一杯の決断だった。
しかしカナロアの決断は遅かった。
「あれは……向こうにも。王都の方にもリザードマンがいるわ……」
ダイアが王都の方を見た時に信じられない光景が目に入った。
その光景はリザードマンがここにいる数よりも多く王都に襲いかかっていた光景だった。
「嘘だろ、リザードマンの出現するダンジョンはこっちにある。王都の方にリザードマンがいるはずない」
「でも、王都の周囲を囲んでいる」
リザードマンは実際に王都の防御壁までたどり着いていて、今にも町の中に、入る寸前であった。
カナロアから見たら、あってはならない光景であった。
王都を守る任務の責任者に任命されたわけで、それがこの結果。
リザードマンには圧倒的に押され、騎士団の仲間の多くを犠牲者にしてしまい、そして王都にまでリザードマンが攻め入りそうな現状、大失態と言えた。
どうしていいかわからないパニック状態におちいった。
「なぜ、リザードマンが王都の方にいるか。答えはわかったわ」
「レーン姫、なぜなの?」
レーン姫が確信に満ちて言った。
リザードマンがいるはすないのに、突然に別の方から現れた。
ダンジョンかは出てるなら、王都にはたどり着くにはカナロア達を超えて行かなくてはならない。
それがまるで時空を超えているかのように現れた。
「ダンジョンがもう一つあった。こっちにあるダンジョンとは別に、もう一つあって、別のダンジョンから出たリザードマンが、王都にまでたどり着いたのだわ。それしか考えられない」
「しまった……俺はそこまで考えていなかった」
レーン姫の考えはカナロアにはショックだった。
なぜ考えつかなかったのかと言えば常識的にダンジョンが二つも生まれるとは考えにくい。
頻繁に生まれることもないわけで、あり得ない確率である。
しかし落ち込んでいる暇はない。
団長なのだから、団長が負けを認めたらそれこそ負け戦になる。
「戻るぞ王都に」
「はい、団長!」
カナロアの掛け声で負傷した多くの団員は王都に向けて足を進めた。
戻るにしても、後ろからはリザードマンが狭る。
リザードマンに追いつかれないようにしつつ、王都に急ぐしかなかった。
「リザードマンは足が遅いようなのが助かった」
「急げば追いつかれないで王都に行けそうだ」
多くの騎士団、冒険者の犠牲者は置いていった。
残った負傷の少ない者だけ、王都に戻る。
苦しい決断だった。
犠牲者を増やす決断であったから。
最初に出陣した時には、これだけ犠牲者を出すとは誰が予想したか。
あまりにもセレスタ国側からしたら、酷い戦いになった。
事実、レーン姫が考えたダンジョンがもう一つあると言う推論は、当たっていた。
ダンジョンはカナロア団長が発見したのとは別にあった。
そこから出現し、王都に向かっていたのが、現在王都を襲うリザードマンだった。
発見したのが遅く、もう間に合うことはない。
王都の中には防衛部隊もある。
「防衛部隊がいるから、彼らが動いているはずだ」
「しかし数は攻撃部隊よりも少ない」
「多くの冒険者はこっちの攻撃部隊に配属されていたし、残りの王都にいたのは少ない気がしたぜ」
「そしたら余計に急ぎましょう」
「レーン姫、今日の戦いぶりは、良かったです」
「ありがとうカナロア」
レーン姫がかなり負傷していたのを我慢して言った。
ほとんど経験のなかったレーン姫は、屈強なリザードマン相手に前線したと言える。
距離を取って遠距離攻撃で矢を放っていた。
◇駐在所
俺は駐在所の外から人々の悲鳴を聞いた。
悲鳴が聞こえるのは危険なのはどこの世界も同じである。
悲鳴を聞いて反応する。
「悲鳴だ」
「まさか、魔物が現れたとか?」
「駐在所の外へ行こう。農民も来い」
こんな時に騎士団も農民もあるか。
職業など関係はない。
あるのは助けたいと思う気持ちだろう。
騎士団団員は俺を農民扱いしている。
農民ではあるにしても、俺の能力を知らない。
騎士団団員は駐在所から出て、王都内の様子を確認した時に、そこで人々が慌てて、逃げ惑う姿を見た。
「タケダ様、大変です」
「きっと魔物だろう。どこにいるかだ」
まだ俺は魔物の姿を発見していなかった。
だが、民衆の感情からすでに王都の中に侵入したと直感した。
これで実はネズミやゴキブリで騒いでいたはない。
ゴキブリにしては騒ぎ過ぎである。
しかし人はゴキブリでも異常な程に、騒ぎ立てる習性がある。
民衆にあって直接に理由を聞くしかない。
「助けて〜」
民衆の一人が団員に駆け寄り言った。
助けてしか言わないが、まだ傷はなかった。
「どうしました。魔物ですか」
「はい、防御壁の向こうに、今にも侵入してくる魔物が。リザードマンて冒険者の人が言ってました」
町の人の会話。
「リザードマンか」
「みんなリザードマンが出たらしい。壁の方へ向かうぞ」
「はい」
騎士団団員から伝えられた話は、壁の方に出現したと。
フェンリルは遂に来たかと立ち上がった。
「タケダ様……」
「キアラは俺の家に居るんだ。そしたら侵入者は来ない。中から鍵をかけたら侵入できない」
キアラも立ち上がり、不安な顔を見せるので、俺は安心させたかった。
相手の魔物が何かをこの時わからないが、危険な予感かあったため、アイテムボックスを使用。
「アイテムボックス、モチハウス。家に居たら安全だ」
モチハウスはあらゆる攻撃からの物理耐性、そして魔法耐性を兼ねている。
リザードマン程度の攻撃で壊れることはない。
「大丈夫かしら?」
「俺が体をベトベトにして作った。安全だ」
「ベトベト!」
「大丈夫だ」
フェンリルから大丈夫だと安心させられる。
しかしキアラはタケダがベトベトといわれ、そちらの方が気になっている。
家に居たら安全というのも、ある意味世界一安全な家かもな。
物理耐性、魔法耐性もモチから作ったのだから。
はっきりいって世界最高の魔法使いにも無理な作りだ。
魔物からしたら、迷惑である。
もしタケダが本気で町をモチハウスで建造したら、魔物は何もできない。
とんだ迷惑。
営業妨害だろう。
魔物が何もできないのだから。
騎士団団員は突然にアイテムボックスから家を出したことに衝撃を受けた。
まさか農民が家を取り出す。
ありえないとなるのは当然だった。
しかも、さっき馬鹿にした団員だった。




