『※29話 竜種の鑑定』
『※29話 竜種の鑑定』
◇上空
「出発した際には、民衆はあらためてタケダ様が歴史に残る偉大な人物となるだろうと実感してました」
すでに俺は世界一有名なアマルフィであるから、これ以上有名になりたいとは思っていない。
見たこともない飛行方法に民衆はガイアドラゴンの討伐から再び腰を抜かしてしていたのが見えた。
俺は勇者時代にはもっと速く飛行する竜種にも出会っていたし、竜種には数えたら数十の種がある。
さらに竜種以外にも翼を持った魔物もおり、ドラゴン、ワイバーン、バハムート、バード、など国境を簡単に超えられる速度には俺も頷かされた。
それらがモチジェットに影響を与えられていた経験があった。
「ご主人様、気になることがあります……」
フェンリルは超高速で飛行しながらも、気になる点に気づいてしまい話しかける。
「何だろうか」
特別に気になる点はなかった。
「あの〜、王都から来た時にはトニック、ダイア、スマッシュの三名を乗せて来ましたよね。三名を今頃どこに?」
「…………忘れた。けどいいだろう」
「忘れた!」
ジェットで発射した後にフェンリルから言われるまでトニックら三名のことをすっかり頭から忘れていた。
言われて思い出し、しかしもう出発してしまったので、今さら引き返すのは困難である。
そのまま王都に帰ろうとした。
「ええええ! 置いて帰ると…………やはりタケダ様、トニックには厳しいです」
「厳しいのではない、本当に忘れた」
「そうなると、まだスカイ町のどこかに居るはず」
「歩いて帰るだろう」
「歩き!」
「タケダ様、トニックが嫌いなのはわかりましたが、徒歩は厳しいのです」
上空でトニック達の居たのを思い出した。
そこは上空を飛行中なので、もはや引き返すのは困難であるし、そもそもトニックを乗せても乗せなくても同じだろうくらいにしか思ってはいないのもあり、モチジェットは王都に飛び去った。
◇スカイ町(三人称)
置いていかれたトニックはタケダが乗せてくれるだろうも思っていたところだった。
「ねえトニック、タケダはどこ行ったのかしら。パーティーから見ないのよね」
「馬車で帰るのはかなり距離がある。出来たらモチなんとかで帰るのが早い。危ないが」
ダイアとスマッシュもモチジェットを期待していた時に、偶然にも受付嬢と出会ってトニックはタケダの居場所を教えてもらう。
「受付嬢さん、タケダを見なかったかい、一緒に帰るはずなんだ」
「えっ、タケダなら先程、モチジェットで発射して王都に帰られました」
「なんだと!」
トニックは完全に置いていかれたのにやっと気づいて、ショックを受けた後は、馬車で王都に帰ることに決まった。
◇ムイト国 王都
驚異的な速さで飛行し、王都付近にまで来た所で逆噴射、モチを前方に発射し、飛行速度を減速させると緩やかに着地へと。
最初の行き先は冒険者ギルドであろう。
「ご主人様、冒険者ギルドへ文句を言ってやります。ガイアドラゴンが居るなんて情報はありませんでしたから」
「任せる」
俺は怒ってはいなかったから文句を言うつもりはないのに、フェンリルの方はそれでは気が収まらないのか、プンプンと尻尾を左右に振って、ギルドに入った。
「あら、タケダ、依頼のクエストは取り止めにしたの? がけ崩れは危険ですので、無理はしなくていいです。専門の職人もいるし」
帰還した俺の時間があまりにも短いため、受付嬢はにこやかに、失敗したのを傷つけないよう話しかける。
ギルドにいた冒険者達は俺の失敗をクスクスと笑い出していた。
クエストの失敗は、冒険者にとっては付き物である。
生きて帰れればいいが、失敗し命を落とす場合も少なからずあり、身の程のクエストを受けるのが鉄則である。
冒険者達は、俺がFランクのくせに、難しい難易度の依頼をうけたのだろうと調子に乗ってるから、失敗するのだと陰口を叩いていた。
「タケダ様は、完了してますよ!」
「依頼は終了した。これが証明のクエスト受領書だ」
「えっと……嘘! ちゃんと受付の印がしてあります。そんは馬鹿なです。スカイ町までの距離を考えて、受領書を持ってるなんて、たとえAランク冒険者ですら不可能」
受付嬢に渡した受領書には、しっかりとスカイ町のギルド受領印がしてあったから、クエストは終了してあるとなる。
頭が混乱し、周りにいる冒険者も陰口は途絶え、黙り込んでしまうインパクトを与える。
むろん勇者時代にはこの程度のクエストだったら、完遂するのは朝飯前だったので、さして驚きはない。
「報酬を!」
「あっ、はいキアラ、報酬を出します」
受付嬢は頭が誰かに殴られたようにポカンとしてしまい、またしても俺の規格外な行動に圧倒されたらしい。
報酬は高額な金貨をもらいアイテムボックスに収納。
その際にも冒険者はがく然としている。
理由はアイテムボックスの使い手は、当然だけどFランク冒険者には存在し得ないし、過去にもいた試しはない、はんば常識であるから、何か見てはいけないものを見た気がしたからだ。
「あの、受付嬢、依頼内容に不備があったぞ、ちゃんと最初に教えて欲しい、ご主人様がいたから良かったものの、ご主人様無しでは完遂不可能な依頼内容だぞ」
「……依頼に不備があったとは……何か違いがありましたか。確か依頼内容はがけ崩れを防ぐでしたよね」
俺に代わってフェンリルが依頼内容の不備を怒り気味に言いつけると受付嬢は頭にハテナマークが浮かんだ。
「そうとも、スカイ町の家にがけ崩れは起きたさ。岩をご主人様が防いだまではいい。後になってガイアドラゴンが現れたの。がけ崩れの原因はガイアドラゴンだったんだ」
「ええええ! ガイアドラゴンですって!」
フェンリルがスカイ町で起きた、ありのままを正直に話すと、受付嬢はショックを受け、両手を上げて驚き、冒険者達に至っては酒を吹き出すし、フェンリルの会話に顔色が青くなる者もいた。
「そうだよ、ご主人様が討伐したからいいものを、全然依頼内容と違う、ちゃんとしてよね!」
「あっ、はい、次から気をつけます…………タケダがガイアドラゴンを倒したと聞こえましたが」
「そうだよ、言ってる通り、ご主人様が倒した。ご主人様からしたらガイアドラゴン程度は簡単だった」
「ガイアドラゴンを簡単に…………あははは、フェンリルさん、冗談はお止めください。ガイアドラゴンは竜種の魔物。魔物ランクもBまたはAランクの超大物レアな魔物です。タケダに倒せるはずありません。いや、この国の騎士団が総力を上げて戦える魔物です」
受付嬢の言っているのは事実であって、ガイアドラゴンと同等のレベルで戦える戦力は国家の戦力と同じ総力となる。
巨大竜種となると国家の総力戦となるから、Fランクの俺にクエストを依頼することはない。
フェンリルの話からしたら俺の戦力は国家の保有する最高戦力の騎士団とも互角に戦えるとなるため、とても信じる者はいないし、受付嬢も疑った。
「アイテムボックス、ガイアドラゴンの牙、爪」
「牙、爪ですね、鑑定します。が、が、ガイアドラゴンです! 本当のようです!」
「ガイアドラゴンは倒した。もう心配はない」
「あ、あ、ありがとうございます。依頼の不備は全面的に認めますので、お許しを。そしてスカイ町をドラゴンから救い頂き感謝します。こう言っては変ですが、タケダから勇者になる素質を感じます。他の冒険者にはない天から授かったとしか思えない素質、天性の能力があると思います」
受付嬢はガイアドラゴンの鑑定をし間違いではなく爪、牙だったため、疑った自分の間違いを反省し、俺の桁外れな強さに感服した。
ガイアドラゴンの報酬も、追加してもらっておくのも忘れない。