『※14話 グリーンスライムとバトル』
『※14話 グリーンスライムとバトル』
◇ムイト国 王都
ペンダントを購入し終え、魔王ハデスの復活に必要なペンダントはアイテムボックスに収納した。
紛失、盗難されないよう管理するにはアイテムボックスならば盗まれる心配もない為であった。
アイテムボックスに入れると不穏な気もした。
気のせいだろうが、まるで自分の中に魔王が入ってきたみたいで、いい気はしない。
「ご主人様、魔王のペンダントを知ってしまった以上、勇者の時みたいに冒険するつもりですか」
「本来なら俺は田舎でゆったりコメ農家暮らしをしたかった。二度と冒険者をする予定はなかった。しかし魔王ハデスが復活するとなると、無視は難しいだろう」
「フェンリル、集めるといったわね、他にもペンダントがあるってこと、何個あるのかな」
「さあ、何個かまでかはわからない。少なくても複数のペンダントがあるはず。ご主人様が一個持っているから、直ぐに復活はしないと思うが、元魔王幹部の者なら知っているかもな。そして魔王直属の誰かが儀式を企んでいるとしたら、探しているはずよ」
フェンリルは魔王のペンダントの個数が、いくつあるかまで詳細はわからない。
元魔王直属幹部の誰かが探しているのを考えたら、やりかねないと考えられる。
フェンリル以外にも魔王直属はいて、現在は魔王ハデスがいないからおとなしくしているが、以前は勇者アマルフィ時代に俺が戦ったのもいた。
元魔王直属幹部からしたら魔王ハデスは尊敬し、世界を支配するべきと考えるのが正しいとされる。
冒険では、魔王ハデスに忠実に従い、ダンジョンを攻略し、魔物を倒してくる冒険者を迎え撃ち、死に追いやってきた幹部はいた。
いずれも強敵だった。
「魔王直属の居場所はわかるの?」
「いいえ、知らない。私はたまたまムイト国に居た。残りの直属幹部が何をしているかわからない」
「フェンリルが俺の仲間になったのもわからないはずだ。今後は三人で残りのペンダントを探していくことになる。冒険者ギルドに通うがいいか?」
俺の中で再び冒険者ギルドに通いつめていた時代の記憶、何度も傷ついたし、経験値を積む日々、お金を得て美味しい料理を食べたりした記憶が脳裏に浮かんできた。
冒険者を再開する決意となったが、キアラとフェンリルに同意が必要だったのは、それがいかに危険なことか、危険な旅になるかを知り尽くしていたからだった。
「はい、タケダ様と冒険します」
キアラは笑顔で答え、全く迷いもなく、困難な旅になるとわかりつつオーケーしてくれる。
「キアラは戦いの経験はあるのか、ハクサン国の姫だ。多くはないだろ」
「ほとんどない。王都の騎士団の団長から剣の練習は受けていましたが、それはあくまで稽古。実際に、魔物との戦いの経験はゼロに近いです」
「理解した」
キアラはハクサン国の姫であるから、ギルドに登録はしてあっても、直接冒険に出る必要がなかった。
危険性の点から国王も冒険に出るのに反対の立場だし、弱小の魔物でさえ一撃で死ぬ可能性もある。
「私もご主人様と冒険に参加します。一緒に連れていくのを命令してください。ただしステータスは獣に変身している時よりもダウンしてます」
フェンリルはご主人である俺に精一杯の従う意志をみせた。
尻尾を上に上げ、やる気をだし、土下座に近い姿勢、胸は寄せられ大きな谷間が視線に入る。
この様な姿勢をさせる俺は、他から見たら変態ではないかと心配になる。
「俺は剣と魔法は使えないが、モチ作りスキルがある今は、モチを使い冒険する」
剣と魔法は封印されている現在は農作業のスキルしかない。
魔物と戦える術はなく、この時、俺の一度目の冒険は終わり、新たに二度目の冒険の始まりとなった。
二度目の冒険は簡単ではないと直感的に感じる。
顔には笑顔はなく、興奮と恐怖に満ちたあの時の冒険が始まると、胸が高なるのが不思議だった。
◇タケダの家
必要なベッドや衣類に、食器も買った。
三人が生活をするのに必要な雑貨も購入しておいた。
家に帰りひと休み。
「雑貨類は買った。だけど偶然にフェンリルがペンダントを発見したのはラッキーだろうな」
「そうですよね。買い物に行って良かったわね」
「今後は冒険者ギルドに行って、キアラとフェンリルの冒険の経験を知るのも大事になる。特にキアラがどの程度冒険できるかは把握したい」
まああまり期待はしていないが、把握したいのはあった。
「これからギルドに行きますか」
「今日は休んだらいい。慌てる必要はないのだから。それでキアラとフェンリルにモチ作りに参加してもらおうと」
「ええっ! また体をベトベトに!」
以前にもしたキアラはベトベトなのは記憶に残っているようだ。
「体をベトベトとは?」
「フェンリルも手伝いしてくれたらわかる。三人でモチ作りだ」
俺はいつも通りに作りだす。
キアラは一度経験しているから、教えなくても作ってもらう。
「前回よりも上手く作る」
「頼む」
上手く作ると意気込んで作業に。
結果は前回よりも酷いのではと言える。
体はまたもベトベトになり、手に負えない状態となった。
それを見たフェンリルが作業をする。
「キアラと同じやり方でよろしいのかな」
「違う! タケダ様のが正しい」
キアラではお手本にならないため、フェンリルは俺のを真似てコメを叩き出す。
「ああっ、大変です、ご主人様。なぜかご主人様と同じにならない。キアラと同じくベトベトになってしまいます!」
「まだ慣れていないからだ。ベトベトにならなくなるのが理想だな」
フェンリルのケースもキアラと似たりよったり。
最後には前回と同じく服をぬがざるを得ない。
「どうしますキアラ?」
「ベトベトになった服を脱ぐしかないわね」
「服を……」
キアラとフェンリルは服を脱いで、ベトベトのモチを減らしておき、再び作業に向かう。
しかし裸に近い状態でやってもまたモチが接触してしまい、胸や背中にもベトベトが広がる。
俺は諦めて、自分の作業に集中した。
◇冒険者ギルド
別の日のこと。
魔王のペンダントがどこにあるかわからないが、探しだすと話し合い、冒険者ギルドへと足を向ける。
「こんにちはタケダ」
「今日はクエストを探しに来た」
「掲示板をどうぞ」
タケダがギルドに入ると、掲示板に貼ってあるクエストを探している冒険者達は振り向いて注目した。
笑っていた者は怖くて顔が引きつるのもいる。
すでに冒険者ギルドにおいて、俺がトニックを軽く重症にしたフェンリルを倒し、従わせいるのは有名になっていたのが伝わってくる。
「タケダ様、私は登録してありますが、Fランクです。Fランク以外だと死にます」
「そうだろう。Fランクにしよう」
「ご主人様がFと言うなら従います」
掲示板をのぞきにいくと、周りはそっと俺に気を使い掲示板の前を空ける冒険者もいた。
キアラは数多く貼ってあるクエストの中からFランクのを探した。
Fランクの者が一つ上のEランクのクエストを選択しただけでも死ぬ可能性がある。
実際に犠牲者もあるのでFに納得、フェンリルも従うとした。
ランクは一つ上がると成功したらいい経験になるが、間違えると失敗となる。
最悪は死に至る危険もあるから、受付嬢は常に気をつけているのは冒険者なら最低限の知識だ。
ランクが低いと魔物を倒した時の報酬は減るのが一般的で、その分弱い魔物の討伐が用意されている。
初心者冒険者が最初に始める時のランクとなり、キアラは掲示板に貼ってあるクエストの用紙を取り、受付けへと持って行った。
「Fランクのクエスト、グリーンスライムの討伐です。王都の周辺平原に生息していますから、遭遇する確率はかなり高め、キアラはFランクですから、最初はこれで良いと思います。タケダも居ますし」
「お願いする」
グリーンスライムの討伐と決まり、受付けの申し込みを終える。
キアラは手に力が入っているのか、剣を腰に当てて、見て緊張が伺えた。
「フェンリルは元はBランク魔物でしたが、今回から冒険者登録をお願いします。冒険者ギルドでは前例がないですが」
「わかった」
フェンリルは以前は魔物扱いであったが、現在は俺に従うと決まり、冒険者登録をすると運びに。
案外とギルドは融通がきく。
たぶんフェンリルは登録させないと言われるのも考えていた。
俺がしたのと同じく魔水晶での診断を行う。
フェンリルが手を魔水晶に置くと、色はキアラと同じ色のFランクの判定であった。
「結果が出ました、Fランクです」
「ご主人様にスキルを奪われて、人型ではFランクと判定されました」
「キアラと同じだ。二人とも実践を積み重ねることだ」
変だな。
いくら俺に魔力を減らされたと言え、キアラと同じなわけはない。
フェンリルは自分で魔力をコントロールしているな。
キアラに合わせたことも考えられるので、後で確認しよう。
「はい、ご主人様」
「キアラは剣を使う。フェンリルは武器は使うか?」
「いつもは獣の状態で戦うから武器は使用はないですし、使い慣れていない。素手で戦います」
「素手でか、魔族らしい発想だ」
フェンリルは素手で戦うとし、獣化した時の爪の破壊力は崖を作る程の力であったから、拳の力もあるかもと考えてみて、面白いと思った。
◇ムイト国 平原
王都は巨大な壁、石で作られた、魔物からの攻撃を防ぐ壁で覆われている。
魔物の侵入は防げる構造になっているということは、逆に言うと壁の外に一歩出たら、魔物が冒険者を待っているとも言えた。
魔物にはドラゴンや高ランクの魔物もいるため、どれだけ強い城壁や城塞を作るかは、国家の力を表している。
俺もいろいろな国に渡った経験からムイト国は小国とわかる。
キアラのハクサン国王都は、この比ではないくらいに、強固な城を持つ。
キアラ、フェンリルは平原に来て、クエストの対象魔物であるグリーンスライムの出現を待つ。
「この辺りでグリーンスライムは出現する予定」
「はい、いつでも準備は出来ています」
「魔物の種類では、最低レベルの魔物。元魔王幹部からしたら、雑魚魔物です」
フェンリルからしたらグリーンスライムのレベルなど取るに足らないレベルだあった。
同じレベルにされるのは、フェンリルのプライドが傷つく。
「出たぞキアラ」
「剣で切ります!」
広大な平原に、キアラ姫の前を何匹ものグリーンスライムの群れが襲ってきた。
色は緑色をし、形は液体状と個体状が混ざったジェル状態をしている。
大きさはキアラの膝くらいの小さな形、平原を這うようにして迫った。
キアラの剣の振りは完璧とも言える振りで、形は剣を頭上にかかげ、振り下ろす速度、そして踏み込むタイミングも良かった。
俺には完璧に見えたが、グリーンスライムを切ったのに、スライムは切れていなく、グニャりと形が変形したに留まる。
キアラは何度も、連続で切りつけた。
しかしグリーンスライムは倒しきれず、形が変形するだけで、無駄な攻撃でしかなく、汗をかいて剣を置いた。
「タケダ様、グリーンスライムが死にません」
「キアラの振りが弱いからだ。決定的に弱い。永久に倒せない」
「永久に!」
タケダに無駄だと宣言されてがっくりと肩を落としたキアラ。
ほぼ未経験の魔物とのバトルに大苦戦となった。