『109話 盗賊団の実力』
『109話 盗賊団の実力』
「タケダ、悪いな。あの女二人は私が預かる。モーリス盗賊団は国が指名手配した。懸賞金付きの盗賊団だ。捕まえたら王都に引っ張る。お父様も喜ぶに決まっている」
「俺はアルサの救出が目的だ。モーリスはどうでもいい」
シオンはアルサよりもモーリスだろう。
モーリスはかなり悪名高いらしいから、捕まえたらシオンは評価されることに繋がる。
そう、簡単に捕まえられるかは、わからないが。
「タケダ様、見て、女性が!」
「なに……あれは……」
騎士団が声をかけた後になっても女性は立ち止まったままだったし、むしろ騎士団が慌てているようにも。
「どうなっている。早く騎士団に報告をさせろ」
「はい、今すぐに報告をさせに行きます」
シオンは逃がしてはならないため、追加で騎士団を送ると命令した。
「待てシオン。送るな」
「逃がしたら大損害だ」
「大損害は騎士団の方だ」
「なに……」
俺がシオンに言った時に、異変が起きていた。
女性は騎士団に対して、手を広げていた。
魔法だろう。
騎士団は逃げようとしたが、間に合わない。
背中に魔法を打たれた。
五人いた騎士団は五人とも戻ることなく倒れた。
倒れたのを周囲にいた町の人は、
「きゃあ〜」
「魔法だ、魔法だ!」
女性の打った魔法に逃げていく。
残りの騎士団が女性に剣を向けた。
「おのれ、騎士団に手を上げるとは、やはり盗賊団だな、きさま!」
「森の牙」
またも魔法だった。
残りの騎士団が何人も襲いかかったが無意味だった。
魔法で蹴散らされた。
強いな、モーリスの手下か?
魔法のレベルからして、騎士団など相手にならないのは明白だ。
全員犠牲者になるな。
「だから、言っただろ俺が」
「……盗賊団め」
シオンは騎士団が十人ほど倒されたのをみると、歯ぎしりした。
まだ騎士団は町にはいるだろうが、シオンは今回は命令しないで静観した。
「タケダ様。あの女性盗賊団は強そうです。タケダ様がいかないと無理では」
「タケダには行かせない。騎士団が負けっぱなしでは気が済まない。タケダは動くでない」
「わかった。シオンが行きたければ行け。俺は動かない」
シオンは俺を静止させて、自分が向かう。
騎士団も集めて。
前進していくと騎士団を倒した女は、シオンの目の前近くまで来ていた。
かなりの魔力を持っているな。
それに接近するのも素早い。
「騎士団がこれだけいるのは変だな。俺が町に来るのを予想して来たか。邪魔しに来たのが命取りになるとは知らずにか。馬鹿な騎士団」
「私はハクサン国、シオンだ。お前はモーリスの仲間だろ」
「シオン。第一姫か? 全員死ぬ前に教えてやろう、モーリスの仲間ではない。俺がモーリスだ」
「ええっ」
モーリスの仲間の女と思われた女はモーリスだった。
そうなると、残りの女はモーリスの側近か。
「モーリスなら話が早い。捕まえたい後は一生牢獄よ」
「やってみな、お姫様」
「ハクサン国の兵力を甘くみるな。バリスタを用意しろ」
シオンの命令した時にはバリスタが直ぐに用意される。
シオンの横にあった馬車から出してきていて、隠してあったようだ。
「準備しました」
「放て!」
シオンはモーリスに向けてバリスタを命令する。
バリスタには普通の矢よりも太く大きな矢がセットされていた。
人に向けて打つ武器じゃない。
巨大な城や巨大魔物に向ける武器だろうが、気にしないあたりがシオンらしい。
町の人々も非道なシオンには引き気味か。
「タケダ様。あんなの打ったらモーリスは矢が貫かれる」
「普通は使わないだろう」
矢がバリスタから発射された。
モーリスは逃げないでいた。
防御するしかない。
素手では防げない武器。
しかしモーリスは一歩も動かないでいる。
矢が迫った。
「森の牙」
迫った瞬間に魔法、それも土魔法だろう魔法を使い、矢を粉砕した。
土から矢よりも強い魔法で粉砕したのだった。
「馬鹿な、バリスタの矢をああも簡単に粉砕するとは……」
「ハクサン国の誇る兵力とは、この程度か。森の牙」
粉砕しただけではなかった。
すぐさま、土魔法を放つ。
バリスタの準備はまだである。
能力はあるが、準備するのが時間がかかるのが難点だった。
もう間に合わないとわかるシオンは防御盾で身を守る。
「うわぁ!」
シオンと騎士団は土魔法による攻撃で吹き飛んだ。
盾など無意味に近い力である。
周囲にあった町の家ですら吹き飛ぶちからだった。
「シオンごと吹き飛ばした!」
「モーリスは聞いた以上の能力者らしい。シオンの勝てる相手ではないな」
「タケダ様……」
姉とはケンカをしても姉ではある。
シオンか吹き飛んだのを見てショックを受けたようだ。
「ハクサン国の姫を捕らえよ」
「はい、モーリス様」
モーリスが隣にいる女に命令したら、シオンを確保していた。
「森の霧」
モーリスは魔法を使った。
シオンを確保した瞬間であったため、俺は不意をつかれた。
霧が発生して周囲の視界は極端に悪くなった。
「モーリスは……」
霧が晴れてきた時に、モーリスが居た辺りに行くと、
「タケダ様。見当たりません」
「居ないか。気配もない」
モーリスとシオンの気配は感じなかった。
俺のミスでもあるが、シオンまで見失ったのは誤算だった。
攻撃だけでなく多彩な魔法を使えるようだ。
「どうします?」
キアラは不安に感じていた。
「国から指名手配されたのは本当らしいな。あれだけの魔法を使える奴は多くないだろう。盗賊にておくにはもったいない」
「そんな余裕なこと言ってないで」
「悪かった。何とかしてモーリスを探すとしよう」
キアラは怒っていたが、モーリス程の腕なら冒険者としても一級なのは俺が保証してもいい。
モーリスが居ないのをわかると町の人々はいっそう怖がりだした。
「この町は終わりだ」
「モーリスに狙われると金を全て絞り取られる」
「娘もだ……」
うろたえて泣き出す親もいた。
この状況では、モーリスを捕まえずに国には帰れそうにない。
◇モチハウス
それから町は慌ただしくなり、町を出ていく人も現れていて、モーリスの存在が大きくなる。
モチハウスにてキアラといた時に、扉が開く。
「ご主人様、ただいま帰りました」
「フェンリル、よく帰ってきたな」
フェンリルの帰りを俺は待っていた。
モモを乗せた馬車に乗ってもらったのは、モーリスの仲間が襲う危険性を考えてのこと。
「農民のベレヌスは?」
「はい、モモを馬車で運ぶ途中に襲われました。モーリスの仲間で三人いました。襲ってきたのはモモが目当てでした。モモは金になるからだそう。逆に三人を捕まえました。入りなさい、そしてご主人様に謝罪しなさい。さもないと死刑にします」
フェンリルの命令で三人のモーリスの仲間が来た。
扉から姿をみせたのだが、フェンリルに恐怖を抱いていたようだ。
ハウスの俺の近くにこさせる。
三人とも顔はボコボコにされていた。
酷いやられ方をしていた。