『100話』
『100話』
フェンリルと一緒に入ってきたのは女性三人だった。
農民には見えないので、職員の面接に来たものと思っていいと思う。
フェンリルが三人を連れて来て椅子を用意した。
「椅子に座って」
「はい」
三人は俺が座る椅子の前にある椅子に座った。
俺と対面する形だ。
一対三人の面接に、俺は集まったので安心はした。
誰も来なかったらと思っていた。
キアラとフェンリル、レーンは俺の後ろで距離を取った。
「俺がこの農民ギルドのギルドマスターのタケダだ。今日は職員募集に来てくれたと思ってるがいいかな」
「はい」
三人とも頷く。
条件は女性だったから、問題ない。
全員が通過とした。
「名前を知りたい」
「私はマーニ、二〇才だ、今は仕事が無くてよ、それで偶然にも仕事を募集してるの見たってわけだ。農民とか良くわからねえけど、給料もらえるなら働くので、よろしく」
「マーニだな。ありがとう」
恐ろしく態度が悪かった。
外見は若くて美人ではあるが、言葉使いは酷かった。
キアラの方を少しだけ見ると、キアラは首を振っていて、無理なサインを俺に送った。
「では、隣の方」
「え〜と名前はミュート。冒険者していた。蛇女の団に所属していた。団長から首にされた。今は失業中だ」
ミュートは冒険者のようだ。
蛇女の団という団は俺は知らない。
有名なのかもしれないが、そこを首になったのは、何かしらの理由があるのだろう。
団の中で問題を起こしたか、戦力外かだ。
「三人目の方」
「はい、私はシルフ、十八才。見ての通りエルフ族です。王都で暮らしたいので仕事を探していました」
「エルフ族だな。少し待ってください、相談する」
三人目のシルフはエルフ族の子だった。
特に変な点はないし、前の二人は問題ありに思える。
今の時点では一人を採用予定なため、シルフを採用するのが良さそうではある。
俺は面接から遠ざかっていたキアラとフェンリルにも相談をする。
「俺はシルフが良いと思うが、どうかな?」
「タケダ様が選ぶのに賛成します。最初のマーニは恐ろしく美人ですけど論外ですし、二番目のミュートは冒険者パーティーを首になったのは、あまり良い印象はないですからね」
俺の意見を聞いたキアラも似た意見だった。
「ご主人様が選ぶのがよろしいかと。私は従います。しかしエルフ族の子は私をどう思うかな。魔族ですので」
「フェンリルが優しく接すればいい」
「優しく接します」
フェンリルはエルフ族なのに気になっていたあたりは、エルフと魔族は仲が悪いのもあるだろうが、今のフェンリルなら問題ないと思う。
「シルフは、タケダの好みの女か?」
「違う。俺は職員に適しているかだけを見たんだ」
レーンだけは俺を変な目で見ている。
「職員は決定した。三人目のシルフにする。マーニとミュートは今回は申し訳ないが不採用だ」
言いにくいが二人には不採用の言い渡しをした。
「ちぇっ、不採用か。それなら帰る」
マーニはふてくされて帰ると、
「冒険者は首、職員は不採用。最悪だわ」
ミュートは落ち込む様子だった。
だが扉を強く閉めて行ったところを見ると、気が強い感じもした。
「ありがとうございますタケダギルドマスター。職員として頑張ります」
「お願いする。今日創設したギルドだ。何も心配はいらない」
「はい」
「シルフ、私はキアラです。ハクサン国の姫ですが、訳あってタケダ様と一緒にいる」
「姫なの?」
「私は魔狼フェンリルだ。魔王様の幹部だったが、今はご主人様はタケダ様だ、よろしく」
「ええっあのフェンリル?」
キアラとフェンリルの正体を知るとびっくりしているシルフ。
キアラともかくフェンリルはあり得ないだろう。
お互いに自己紹介した後に、レーンも挨拶をする。
「彼女はセレスタ国のレーン姫だ」
「あのレーン姫!」
「よろしく」
「どうもです……」
レーンの名前は知っていたらしい。
さすがに国の姫に挨拶されても困る。
農民ギルドの本部受付嬢が決定し、今日から仕事をしてもらおう。
「ご主人様、外に気配があります……」
「誰だ……」
「……農民ギルドとは何をするのか。詳しく教えなさいタケダ」
フェンリルが先に反応した。
扉から女が入ってきて言った。
「……エナジーか」
「レーンもいるとは、余計に怪しい」
入って来た女はエナジーだった。
なぜムイト国に来たのかわからないが。
「タケダが世界初の農民ギルドを創設したのを、私は見学していただけ。エナジーはスパイでもしに来た?」
「スパイなんてするか。偶然に通りかかった。世界初の農民ギルドを創設か。農民らしい発想だ」
「エナジーのガーネット国にも支部を作りたい」
エナジーが許可をくれたら作る。
「簡単に作れるわけない。何をするかも知らないギルドを認めません」
「エナジーがギルド職員をしてもいいのよ」
「なぜ私が職員、やるわけない」
職員をやる気はないと断言したものの、俺は支部を作れたらと考える。
エナジーも来るとは予想外だったが、多くの人に知ってもらえるのは歓迎だ。
ガーネット国、セレスタ国にも伝わるといい。
「タケダ、農民ギルドが成功するといい」
「レーンも登録するか」
「農民じゃないのだ!」
レーンは国に帰る用意をする。
「タケダは農民にしておくには惜しい」
「エナジーは姫を辞めたくなったら言ってくれ。俺が農民の基礎を教える」
「農民にはならない。タケダの好きな女がわかるな」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。それじゃまた」
エナジーも帰るらしい。
まだ来て短いが、俺の調査をしていたのだろうから、収穫はあったようだ。
エナジー、そしてシオンもだが、俺を監視している風にも思える。
俺が何かすると現れるのは、監視している証拠だ。
あまりいい気はしない。
増してシオンは不気味ではある。
敵対心を抱えているのを全面に出してくるからだった。
レーンとエナジーは農民ギルドから去っていった。
シルフには最初からヘビーな人に会ったとは思う。
「さすがタケダマスターです。エナジーとレーンと二人の姫と仲間なのは驚いています」
「仲間とは違うような」
「それとエナジーが言い残した、タケダマスターの好きな女とはなんの事かな?」
シルフは最後のところを気にした。
俺が説明するのは難しい話ではある。
エナジーには迷惑された感だ。
「タケダ様は、ここが大きい女性が好きなの」
キアラはシルフの大きな胸を下から上に撫でながら言った。
「いやっ、キアラ、そんなに触ると……」
キアラが突然に触った瞬間にシルフは顔を下にして顔を赤くした。
その説明では俺が困るが。
「キアラ、俺が変態に思われる」
「否定しません」
「私は大丈夫でしょうか」
「シルフには何もしない」
一日で辞められたら俺が困るし、何もしないと宣言しておいた。
「まるでキアラと私には何かするとも聞こえますご主人様」
「深く考えるな。農民ギルドが成功することだけ考えるんだ」
話が変な方向に向かったので、修正する。
大掃除までして創設した農民ギルドを、潰しかねない俺への発言は正直に困る。
シルフを職員に向かい入れて俺のギルドマスターは始まった。




